アラフォーのヘッポコピーライターが自らの失敗談で綴る、自戒と猛省の広告コラム


広告を外注する理由(後編)

アラフォーのヘッポコピーライターが自らの失敗談で綴る、自戒と猛省の広告コラム。


第九回 <広告を外注する理由(後編)>

「岡目八目」という言葉を聞いたことはありませんか?これは囲碁から生まれた四字熟語で、当事者より第三者の方が局面を客観的に見られるため、冷静で正確な判断が下せるという意味の言葉です。

実はこれ、広告にも同じことが言えるんです。商品の当事者、つまり企業は商品との距離が近すぎるため、消費者の感覚で商品を見ることが難しくなっています。第三者である広告代理店の制作者の方が、企業と消費者双方の目線で商品の魅力を見つけやすいのです。


岡目八目

魅力を見つけた後も、さらにもうひとつハードルがあります。それは「他社と違う言い方で伝える」こと。自己PRの難しさは就職活動の経験がある人ならわかるはず。責任感がある、リーダーシップに優れている、行動力では誰にも負けません…etc。考えれば考えるほど、誰にでもあてはまるありふれた言葉になってしまう。問題はその先にあることです。人と比べて「どう」責任感があるのか。「どんな形で」リーダーシップを発揮できるのか。

ここで要求されるのは、全員が同じ正解を目指して争う受験勉強とは真逆の能力です。作者の言いたいことを「20字以内で答え」ていては、絶対に身に付くはずがありません。みんな横並びに空気を読んで、個性を埋没させることを良しとする環境からは決して生まれ得ないスキルなのです。面白くなければ、記憶に残らない。忘れてしまえば、なかったのと同じこと。どんなに正しくてもつまらなければそれは間違いである、というシビアな現実がここにはあります。


昔読んだ記事によると、人が新聞を1ページめくるのに要する時間はわずか0.2秒だとか。広告に与えられた時間はほんの一瞬しかありません。その瞬間にどれだけ強く印象づけられるか。好きになってもらえるか。ナンパにたとえるなら、メアド交換して後日連絡を取り合うのでは遅すぎる。ホテルにお持ち帰りしたその足で結婚式を挙げるくらいのスピード感が必要です。

広告とは、広告主の「言いたいこと」を消費者の「聞きたいこと」に翻訳する仕事です。翻訳には技術がいる。そして技術には訓練がいります。商品の売り(What)を見つけるのも、それをどう言うか(How)も、長年の努力と経験とカンが必要なのです。数週間コピー講座に通ったくらいで身に付いたら苦労はないわけです。


コピーなんて誰にでも書ける。それは全くその通り。でもそれは、それっぽいことをそれっぽく言ってテキトーに「、」や「。」をつけただけの「コピーっぽいコピー」のこと。コピーとは単なる言葉ではありません。商品のいちばんの売りだけでなく、他社との差別化ポイントであり、業界でのポジショニングであり、営業マンのセールストークであり、何より企業の意思や商品の人格まで表現したひと言です。それはいわば「凝縮された戦略」とでも言うべき言葉。コピーとは物を売るためのれっきとした「ビジネスツール」なのです。


ちなみに、いま考えているのはこんなコピーなんですよ。

その宣伝部長(前編をご参照ください)はそう言って、コピー講座に通われた社員の方が書いたものを見せてくれました。正直、とてもありきたりな一文でした。でもそれより問題だったのは、そのコピーが某超大手飲料メーカーのコーポレートスローガン(社名に付くコピー)と一字一句同じだったことです。さすがにマズいと思い指摘すると、彼は少し傷ついたような顔をして黙ってしまいました。結局その後どんなコピーに決まったのか、僕はまだ確かめていません。

※ 本コラムの内容は全て個人的な発言であり、所属する組織や団体とは一切関係ありません。むしろ早く関係して発言できる身分になりたいものです。


佐藤理人(さとうみちひと)
電通 第4CRP局 コピーライター。
マーケティング、営業を経て、2006年より現職。
東京コピーライターズクラブ会員。
受賞歴:TCC新人賞、ACC銅賞など。