意外と死ねちゃう家庭の化学


年に4000人以上が死亡する冬の毒ガス

中国の大気汚染が凄まじい。12月7日、北京で初の赤色警報が発令されニュースになった。TVの映像では家庭の窓枠にテープで目張りをしている映像が流れていたが、生命の危険を十分感じるレベルなのだろう。科学誌「ネイチャー」で今年発表された独マックス・プランク研究所の調査には、すでに中国では140万人が大気汚染の影響で死亡していると指摘されている。私たち人間は空気の汚染は死に直結する大問題であり、実はわが国でも空気の汚染で毎年たくさんの人が死に至っている。


4000人が死亡する死の毒ガス

財団法人 日本中毒情報センターによると一酸化炭素中毒による死亡者数は2003年には、毎年2000人前後の死者が4394人に達したと報告されている。これは練炭自殺などの自殺者が増えたことに起因するが、特に家庭での一酸化炭素中毒による不慮の事故による死亡者は、気密性の高い住宅環境と相まって毎年後を絶たない状況になっているのだ。特にこれからのシーズンに事故は集中しており、誰ひとり悲しむことがないよう、皆さんに知っていただきたい。


致死量まで気づかないサイレントポイズン

一酸化炭素(CO)はモノが燃える時には必ず発生してしまうガスで、特に酸素が足りない状況下でモノを燃やす(不完全燃焼という)と多く出てしまう。身の回りのモノはたいてい炭素を含んだ化学物質でできているが、モノが燃える時、炭素は酸素と反応を起こして二酸化炭素(CO2)になる。しかし、モノの周りに酸素が少ないと、炭素から二酸化炭素になれなかったハンパ物ができる。このハンパ物が一酸化炭素の正体なのだ。この一酸化炭素が人間にとって厄介なポイントは大きく分けて3つある。それは、

・反応性が高い(=毒性が高い)こと
・透明無臭かつ自覚症状が出にくいこと
・空気と同じくらいの重さであること

一酸化炭素の毒性は高く、ヘモグロビンという血中で酸素を運んでくれる大切な物質に、酸素の代わりにくっついてしまう。しかも、反応性が高いから一度ヘモグロビンとくっつくと離れない(酸素の約200倍も高い反応性)。多くの人が死に至る経緯はこうだ。

(1)冬の密閉された室内で暖房機器が不完全燃焼をおこし一酸化炭素が発生。
(2)空気中に0.04%の一酸化炭素濃度で初期の中毒症状が発生するが、頭痛やめまいなど風邪の初期症状に似ており、概ねきづかない。
(3)あっという間に一酸化炭素濃度は空気中の0.1%程度へ。体内に取り込まれた一酸化炭素は、その200倍もの酸素が、血液中のヘモグロビンにくっつくのを邪魔して、血中の半分のヘモグロビンが使い物にならなくなる。
(4)人の体の全身に酸素がいきわたらず、酸欠が進行。
(5)一酸化炭素の濃度は徐々に増加し、空気中に0.15%まで増加すると、1時間程度で死に至る。

一酸化炭素は透明無臭、かつ初期症状も頭痛やめまいといった風邪の初期症状に似ているため、自覚症状が出にくい。この自覚症状が出にくいことが、時に人の判断を鈍らせる。気がつかない間に一酸化炭素を吸い込み、自覚症状のないまま意識が朦朧として倒れ、そのまま血中一酸化炭素濃度が致死量に達してしまうのだ。さらに、空気と同じくらいの重さというのも一酸化炭素のやっかいな特徴で、部屋の中でゆっくりと拡散し、むらなく混ざり合い留まっている時間も長い。例えば、2001年に起こった新宿雑居ビル火災ではそれが仇となり、火元である3階よりも4階で多くの犠牲者が出た。3階の人は火を見て逃げた人もいたが、火元でなかった4階の人は下からゆっくりと一酸化炭素が上がってくるのに気がつかず、28人全員が犠牲になってしまったのだ。


暖房器具で死なないために

石油ストーブ

ではどのような対策を講じればよいのだろうか。昨今の冬の暖房の定番といえば石油ストーブ、ガスストーブ、ファンヒーターなどいわゆる開放型暖房器具が主流だ。これらは室内の空気(酸素)を使って燃焼し、排気ガスを室内に出す仕組みになっており、換気をしないで使用し続けると、室内空気が汚染されるだけでなく、室内の酸素濃度が低下する。すると、室内の酸素は不足し、不完全燃焼が進み、一酸化炭素が急激に増加し死に至るのである。特に、石油ファンヒーターは一酸化炭素以上に窒素酸化物濃度が著しく上昇するといわれている。機器によっては短時間で呼吸器が弱い人や疾患のある人、子どもに対して健康影響が懸念されるレベルに達する商品もあり、換気は警告記載されているのしっかり行ってほしい。加えて、設定温度を高くしたり、部屋の広さに対して最大暖房出力が過剰に大きなものを使用すると総揮発性有機化合物(シックハウスの原因となる)の室内濃度も高くなる懸念があるので、できるだけ使わないほうがよいだろう。

他にも、東京都生活文化局の報告書がわかりやすいので、参考までに紹介しておこう。
発電機:換気扇を回さない状況では10分で一酸化炭素濃度が0.2%。1時間以内に致死量へ達する。

木炭・練炭1時間程度の使用でより危険が生じる可能性のあるレベル(0.08%)に達した。
2時間で失神するレベルだ。換気扇をまわすと、一酸化炭素濃度は危険のないレベルまで下がるが、部屋の気温も下がってしまう。つまり、一酸化炭素を抑えて室内で木炭・練炭で暖をとるのは困難。

カセットコンロ:換気扇を回さなくても特に問題なし。使い方を間違えない限り問題はない。また、部屋の気温上昇は木炭・練炭より高かった。停電時など電気機器が使えない時に室内で暖を取りたい場合、カセットコンロの使用が一番安全で効果があるだろう。

なお、ここでいう換気とは換気扇の使用や窓を開けることである。「空気清浄機つけるからOK」と言ってのけた僕の知り合いがいるが、それだと死んでしまう可能性があるので絶対に換気を怠ってはいけない。
※空気清浄機には一酸化炭素を浄化する機能はありません!


最後に、一酸化炭素の意外な一面も紹介しておこう。どんな化学物質にも良い面と悪い面があるものだ。実は、一酸化炭素は僕のような化学者には興味深い研究材料でもある。反応性が高いということは有機合成反応の重要な原料化合物になりえる。事実、一酸化炭素はアルデヒドという重要な物質を作るための原料として産業の役に立っている。実は僕もかつて一酸化炭素を使った研究をしており、論文も出したこともあった。まあ、その研究は特に社会の役に立ってはいないのだけれど。とにかく一酸化炭素は工場内でバリバリ活躍されるにとどめたいものだ。
ちなみに東京消防庁の調査では、一酸化炭素中毒により救急搬送された人のうち6割以上は、入院が必要とされる中等症以上と診断されている。くれぐれも換気と暖房器具の使用には注意して、温かい冬をお過ごしいただきたい。


あしど毒多(あしど どくた)
某大手食品メーカー研究室に勤務。
学生時代、実験でスペルミジンの合成に成功するも、衣服に付いたその臭いで変態呼ばわりされた苦い過去を持つ。
学生時代に得た「化学のすすめ」を合い言葉に、日常生活における化学を一般の人にわかりやすく伝えたいと日々尽力する化学オタク

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