寄稿 ドロ舟日本の行方


年金は損?それともお得?

今回の「ドロ舟日本の行方」は、読者からの質問に回答します

質問「日本がドロ舟なら、自分はカチカチ山のタヌキのようです。選挙で投票しても何も変わらない気がしますし、かといって、外国に移住する勇気も自信はありません。それでも、私の世代はきちんと年金をもらえるのかとても心配です。やっぱり年金は払うと損なのでしょうか?」(43才、会社員)


ライン

「100年安心」と言っていたのに、数年も経つと「年金制度がもたない」と再び言い始める無責任な政府。年金記録がいい加減で、使い方もずさんなことは棚に上げて、「出生率が予想以上に下がった」といっても、その当時から「その前提がおかしい」と指摘されていたものなので、ただ呆れるばかり。で結局、年金は払った方がトクか、払わないほうが賢明なのか?


■公的年金は税金と同じ

共生

まず、多くの方が誤解しているが、日本の公的年金は自分が払った分を将来もらう制度ではない。払った分をもらうと勘違いしているから「損か得か」などという議論が出てくる。名目は何であれ、国民からお金を集めてプールして、どんぶり勘定で高齢者に支払うと言う互助システムなのである。聞こえは良いが、「集めてばら撒く」という所得の再分配機能から見れば、基本的に税金と極めて近い。

実際、国民年金の半分は税金から支出されている。税金は、全く払わない人もいれば、数千万円支払う人もいる。それでも市役所に行けばサービスは同じ、ゴミ収集なども納税額による差はない。それなのに、「税金は払った方が得なの、損なの?」という議論は聞いたことがない。取られる事になっている金額は持っていかれるからだ。

年金に関しては、会社員であれば選択の余地は無く、テーブルで定められた金額が天引きされるから、「払う、払わない」という選択は無い。つまり、考えるだけ無駄である。そして、将来決まった金額が年金として支払われる。ちなみに言っておくと、会社員は会社が半分払ってくれているから、それだけでもあなたに「損はない」ともいえる。

一方、自営業者などで、国民年金が天引きされない方は「払う・払わない」が選択できるが、これも前述のように、国が将来半分支払ってくれるなら、まあ、参加していて問題は無い。


■日本国政府が円で支払うので、支給はされるが…

年金受け取り

「あ〜良かった。損はしないんだ」と思った方は、半分だけ当たっている。おそらく「損」はしないが、その時にもらえるお金で生活できるとは限らない。昭和17年(1942年)に年金制度ができたときは、当時の平均寿命50歳に対して支給開始年齢は55歳であった。

現在は平均寿命が男性80歳弱、女性86歳程度に大きく伸びていることに加えて、少子化でどんぶり勘定の掛け金を払ってくれる人口は減る一方。そうであれば、支給開始年齢は75歳から80歳程度でなければ、普通に考えて制度に無理が来るか、大幅な減額が必要になる。

それに加えて、日本はあと10年程度で、慢性的な経常赤字国に転落すると予想されている。そうなると、円という通貨の価値が落ちて、物価が上昇する。つまり、そのうちバナナ1束1000円なんていう時代が来るかもしれないというわけだ。そうなると、名目上の金額で見れば、年金をもらうために支払った金額よりも、会社や国に補てんしてもらった受取金額は多いかもしれない。

しかし、その時にはそれで十分な生活はできないということだ。つまり、年金制度は多くの方にとって「損ではないが、十分ではない」だろう。ソビエト連邦破綻後に年金で生活できなくなった、という話を聞いたことがあるかもしれないが、それと同じ事が起こる可能性が高いというわけだ。


■社会の善意に頼るのは危ない

国会

国民年金を支払わないことができる立場の方が、その分を自分で運用したところで、往々にして使ってしまって手元には残らない。仮に運用しても、誰もが著名なバフェット並みの運用ができるわけではない。だからといって、「年金なんて入らなくても生活保護をもらえばいいさ」というムシの良い考えが、30年後に通用するかどうかは怪しい。対象者が増え続ければ制度が持たず、一般市民の反対も強くなる。

実際のところ、日本国憲法では「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」とあるだけで、生活資金を支給するとは書いていない。生活保護法でも「その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長する」とはあるが、やはり、年金に相当するお金を支払うとは書いていない。

極端な話ではあるが、国家負担が膨大になれば、政府が過疎地に困窮者のために、衣食住すべてを与える社会主義村のようなものを作るという選択肢もない訳ではない。つまり、社会の善意だけに頼るのはリスクが相当高いということだ。


■今からできる自己流年金対策

そんな困った状況ではあるが、誰でもできる年金対策がある。今から備えれば、あなたが運よく長生きしても困らないだろう。
・65歳でリタイアして悠々自適という幻想を捨て、80歳まで働く覚悟をする
・どうやって80歳まで働くか考えて、手に職をつける
・現在の年金制度を頼りに将来の生活設計をしない
・円預貯金だけでなく、外貨・金・外国株・外国REIT(不動産上場投資信託)資産を持つ
・若いうちから小額でも投資して、景気の波に慣れ、世界情勢にアンテナを張っておく

(念のため付言すると、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではない。)


土居雅紹 (どいまさつぐ)氏
土居雅紹 (どいまさつぐ)氏
eワラント証券株式会社
チーフ・オペレーティング・オフィサー
CFA協会認定証券アナリスト(CFA)