寄稿 ドロ舟日本の行方


バブル相場にどう臨むべき?

質問「日経平均が4万円になるという記事が週刊誌に載ってましたが、本当でしょうか?もしそうなら、何から始めたら良いのでしょうか?」(38才、会社員)


ライン

「日経平均が4万円になる」という週刊誌の見出しに心躍らせるようでは、数年後にこのバブル相場が崩壊する時に痛い目を見ることになるだろう。出版社は雑誌が売れればよいだけだし、独立エコノミストは目立ってなんぼの世界であることを念頭におくべきである。(では、私はなにかというと、「おせっかいなオヤジ」かもしれない)。

昨年11月にはじまったアベノミクス相場は、通貨の切り下げ、中央銀行による財政ファイナンス、大規模な公共投資という典型的な流動性バブルの様相を呈してきた。第二次大戦前の日本の高橋財政、ナチスドイツの初期経済政策や教科書に出てくるアメリカのニューディール政策と基本的に同じである。さらに言えば、1980年代の日本の株・不動産バブルもこの過剰流動性バブル(つまり金余り相場)に属する。「アベノミクスは単なる量的緩和・円安政策じゃないよ。次元の違う政策なんだよ。なんでこんな簡単なことが分らないのかなぁ」などというしたり顔の輩が増えてくるのもバブルの典型的な症状なのだ。


大相場は繰り返す

コップに水

株式相場は、だいたい7年から10年程度の景気循環(ジュグラー循環)と概ね一致して大きく変動する。この前のピークは2007年で、その5年後の2012年が大底になったようだ。ちなみにその前の大底は2003年、つまり2007年の4年ほど前のことである。その相場の波の2回か3回(つまり20年〜30年に一度)は、株式だけでなく不動産バブルも同時発生する巨大バブルになることが多い。

すると、大部分の方は、「上昇相場はいつまで続くの」と考える。私の見方では株式相場は「蛇口からスーッと流れ出る水をコップに貯めていくようなもの」だ。この「コップの水」がどこまで貯まるかで、相場がどこまで上がるか、どれだけバブルが大きくなるかが決まり、何かのきっかけでドッとこぼれ、そこが相場の天井となるのだ。

この「コップの水」は貯まってくると、ちょっとしたきっかけでこぼれ易くなる。コップの水がこぼれる(相場が崩壊する)きっかけは戦争、天災、金融引き締めなどの突発的なショックとなるものや、増税などのように半年程度かけてジワジワ効いてくるものもある。だから、株式相場がどこまで上昇するかは、どれだけの期間、相場というコップに水を貯めておく時間があるかによる。こういったことを知らないで「日経平均4万円」などという人の意見は聞き流したほうが身のためだ。


2015年夏と2016年春は要警戒?

バブルが崩壊しないで成長し続けるためには、「突発ショックが発生しないこと」が大きな前提条件となる。実際には、箱根や富士山はいつ噴火しても不思議ではないようだし、直下型地震も明日にもあるかもしれない。また、朝鮮半島・尖閣諸島での軍事衝突やイラン・イスラエル戦争となれば相場環境が一変する。このため、「ショックでいつでもアベノミクス相場は終焉しうる」ということは頭に入れておかなければならない。特に、投資に慣れていない輩が目一杯借金して投資をするなど論外である。拙著「勝ち抜け!サバイバル投資術」で提唱したように、どんな時でも半年〜9ヶ月分の生活資金に手をつけてはいけないし、それだけの資金がないなら勉強のための小額投資ならともかく、大きなリスク投資を行うべきではない。


チャート

仮に、突発ショックが起こらなかったとしても、このアベノミクス相場には既に3つの要注意のイベントがある。2014年4月と2015年10月の消費税増税と、2015年1月からの相続税の実質増税だ。消費税増税は、駆け込み需要の反動と増税による所得減少でボディーブローのように景気を蝕む。1989年の消費税導入もバブル崩壊のきっかけの一つになっているし、1997年の消費税引き上げもその後の金融危機に少なからず影響している。

今後の3つの増税のうち、特に影響が大きいのが、2015年1月の相続税増税となる。これは相続税を払うために土地を売る圧力が地価を下げ、景気を冷やす。そうなると、その半年後の2015年夏は最も警戒を要する時期となる。なお、2012年秋に始まったアベノミクス相場のコップに水が十分に貯まりはじめるのが約3年後の2015年半頃だとすれば、これとも時期が合致するのも不気味だ。

運よくそれも乗り切るほどのバブルの勢いがあれば、次の障害は3つ目の増税の2015年10月の消費税増税となり、半年後の2016年春には相当危険な状況になっていると予想される。


どう備えるべきか

2015年にしろ2016年にしろ、それまでに日本経済の構造改革が進み、原発が一部再稼動して貿易収支が好転し、年金・保険改革も目処がたち、少子化対策が効き始め、TPP参加が決まり、道州制も道筋が見え、憲法改正論議が進んで新しい国の形が国民に納得されているようであれば、アベノミクス相場が終焉しても、相場崩壊の影響は短期間で終わり、深刻な問題になる可能性は少ない。

一方、日本の公的債務残高がさらに増えるだけに終わり、経済は低成長に逆戻りし、安倍首相が党内抗争で政権を投げ出し、旧態依然とした族議員が跋扈するようであれば、相場崩壊時には円暴落、物価高騰、失業率急上昇といった極めて厳しい状況となるだろう。
 
手元に運用資金がある方は、今回の大波で上手に増やすことだけでなく、しっかり暴落から守ることがより重要だ。手元資金が足りなければ、相場の展開を観察するだけでよい。そうすれば、次のバブルがきても浮かれて大損をしないですむはずだ。また7年から10年で次の大波はやってくると思えばあせる必要は全く無い。バブルは繰り返しやってくるのだ。

(念のため付言すると、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではない。)


土居雅紹 (どいまさつぐ)氏
土居雅紹 (どいまさつぐ)氏
eワラント証券株式会社
チーフ・オペレーティング・オフィサー
CFA協会認定証券アナリスト(CFA)

著書:勝ち抜け!サバイバル投資術バブルで儲け、暴落から身を守る 土居雅紹/著
【内容紹介】 中国バブル崩壊、米国発世界恐慌……ミッションは生き残り。日本と世界のこれから、次のバブルの見つけ方、グローバル経済時代の攻めと守りの最善手を説く。
出版社 :実業之日本社