寄稿 ドロ舟日本の行方


新成人へのアドバイス

質問「今年成人の日を迎えました。一人前になった気がします。これからの自分の進路・将来を考えるにあたり、人生の先輩としてアドバイスをお願いします」(20才、学生)


私はいわゆる“新人類世代”に属する。「インベーダーゲームで遊び、画一的なマークシート方式の共通一次試験に丸暗記の知識で臨み、アニメやヘビメタに浸るオタク文化のハシリの世代だ。日本の土地・不動産バブル末期の繁栄を謳歌し、超楽観主義者が多いとも言われている。確かに、上の世代のように反戦・平和主義を標榜して野外フォークコンサートに行ったことはないし、ヘルメットをかぶって国会前でデモをする時代でもなかった。


その“新人類”と言われた世代の一人から、20歳前後のいわゆる「ゆとり世代」に敢えてアドバイスするなら、「結局、自分のやりたいことをやるのが一番」と言っておこう。


新成人

実は先日、某ラジオ局の番組に出て、「新成人へのアドバイスをお願いします」といわれて同じことを言ったら「不親切で無責任」と思われたようだ。私に言わせれば、「きみたちはこういうことを身につけて、こういうことを20代でやっておくべきだ」「きみはこの会社に入るといいよ」などとしたり顔でいうことほど、よほど無責任な発言である。企業のライフサイクルは30年程度。かつて花形といわれた産業はもてはやされる時期がピークであとは衰退するだけだ。これからどの産業がどう伸びるかは、国際情勢、自然災害、戦争、新技術の登場などに単なる偶然も作用して、星の数ほどある可能性のうち1つだけが「歴史」となる。「日本のため」と国内新工場を建設した矢先に急激な円高になって破綻の憂き目をみた企業もあるし、今中国市場で大成功している企業も日中軍事衝突となれば「先見の明」が「事業戦略上の大失敗」に一転する。お役所や公益企業に就職できて一生安泰と思っていても、地方自治体も破綻はありえるし、中央官庁も地方分権が進めば権益も天下りも減る。政治主導が進めば主な行政職はアメリカのように政権が任命することになるかもしれない。公益企業もエネルギーの転換やライフスタイルが変われば安泰とはいえない。


民間企業の多くは70歳まで定年を延ばすだろうし、そもそも定年がなくなることもありうる。これは年功序列から年齢に無関係な能力給に移行することを意味する。「私は管理職ができます」なんていう人間はどこも要らないわけだ。きちんと考えれば考えるほど、若い人に就職先のアドバイスをできるほど将来のことが分かるはずは無いし、分かっていると思うのは単なる錯覚か自惚れである。もちろん、「この職種なら〇〇のスキルを身に付けられるだろう」、「この分野には今後こういった可能性があるかも」、「独立して△△したいなら、まずこれをやったら」という程度の情報であれば、それをどう活かすかは受け手の自己責任の範囲だろう。


と諸々のことを考えた上でのアドバイスが「自分のやりたい事をやるのが一番」である。自分で選んだことの結果なら、後悔は最も少ない。他人から見て「時間の無駄」であっても、その人の人生のその時期は1回しかない。世界放浪の旅に出ても、アイドルグループのおっかけをやっても、スポーツに打ち込んでも、学生起業しても、自分がやったことが後につながるだけのことだ。後に何もつながらないと思っても、やっぱりどこかで繋がってくるものだ。特定の分野を極めようと努力するなら、成功してもしなくても「やらなかったことの後悔」はない。実は投資も同じ、自分で選んだ投資対象に、自分で決めたタイミングで投資した結果について人に文句を言うことはできない。どこかの誰かの言うがままに投資するから、「うまくいったら自分の手柄、失敗したら他人のせい」などという甘えが出てくる。


もちろん、人でも企業でも国家でも、他者に迷惑をかけたり、ウソをついたり、約束を反故にしたり、悪口を言いふらして回ったり、盗んだものを返さなかったりするのは論外だ。信用を得るのは時間がかかるが失うのは一瞬である。その意味では危うきには近寄らず、仕事を選び、生活場所を選び、投資対象を厳選する目を養いながら、ガンガンやりたいことをやって欲しい。もちろん自己責任で。

(念のため付言すると、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではない。)
eワラント証券 チーフ・オペレーティング・オフィサー 土居雅紹(どい まさつぐ)


土居雅紹 (どいまさつぐ)氏
土居雅紹 (どいまさつぐ)氏
eワラント証券株式会社
チーフ・オペレーティング・オフィサー
CFA協会認定証券アナリスト(CFA)

著書:勝ち抜け!サバイバル投資術バブルで儲け、暴落から身を守る 土居雅紹/著
【内容紹介】 中国バブル崩壊、米国発世界恐慌……ミッションは生き残り。日本と世界のこれから、次のバブルの見つけ方、グローバル経済時代の攻めと守りの最善手を説く。
出版社 :実業之日本社