「医者の言うことは聞いておけ」by Dr.ホッピー


今の研修医制度ではiPS細胞の発明はなかった?

ブラックジャックによろしく

医師ならば誰もが通過する2年間の研修医時代・・・。心身共に磨きをかけねばならない貴重なそして以前は「劣悪かつ人間性を無視した」と評されたように、安月給でこき使われた時期でもある。そんな時代の医師の葛藤をまとめた佐藤秀峰氏のマンガ、「ブラックジャックによろしく1~13」がiPadなどアプリで版権フリーとして無料公開されているそうで、先日ハリスに是非とも読んどくようにと言われたンじゃが、とりあえずハリスのiPadで数巻ななめ読みしてみた。


ブラックジャックによろしく 漫画 on web http://mangaonweb.com/

のものじゃ。 研修医の仕事や生活環境は概ねマンガにあるとおりと思ってくれて良い。 肉体的精神的に慢性過労状態のボロ雑巾状態に支払われる給料が作品では3万となっておる。・・・間違いはありません。そして昨今の研修医の過労死問題や自殺死などの問題からひょっとしたらこのマンガを読んでいたかもしれぬ一部の国会議員が騒ぎ出し、「こんな劣悪かつ人間性を無視した環境で研修させてはならん!」と、専門分野以外は知りません、見ませんという専門バカ医の増加対策を含めて研修医制度の見直しを行った。 結果、施設によって若干の差はあるが、研修医の待遇・取り扱いは次のように改められた。
(1) 4週6休
(2) 9:00〜17:00勤務 ※当直明けは午前までの就業
(3) 上記(1)(2)以外の就業は本人の希望なくして強制してはならない
(4) 内科系・外科系の専門診療科を3〜4ヶ月でローテーションし幅広く知識を研修
(5) 研修医は厚生労働省から各施設に預けられているという立場である
(6) 他の病院での日勤・当直の禁止※バイトの禁止
→研修期間終了までの月給は約30万円を保障(国から支給)

となっておる。どうじゃ、「ブラックジャックによろしく」を読んだ人ならばわかると思うが、随分と手厚くなっとるじゃろ。時代がマンガとリンクするオイラの研修医時代の実情はこうじゃったのう・・・・・・オイラの医局は、朝7時から夜11時までの勤務が当然という考え(方針)を持った医局長の時期は、セブンイレブンといわれていた。しかし、セブンイレブンにならざるを得ないのだ。患者さんを正確に診るためには!


Dr.ホッピー

主訴から導かれる問診の仕方、所見の取り方、入院経過に沿う的確な治療、それは薬の使い方とかなどを含めて、そして患者さん個人への接し方など、そういった実地医療から身に付けていくものなどを“臨床”っていうが、国家試験受かったからって実地を全くしていないから何も身についていない。 研修医の臨床ってのは実地医療を踏まえながら文献を探して読んだりしなくては学べないものが多い。

にもかかわらず、担当患者さんの検査・治療への付き添いやら、「ホッピー、○□持って来―い」と突然の雑用の依頼があったり教授の外来の陪席やら、勤務時間中に行わなければならない研修医の仕事をこなすと、その時間内ではじっくり勉強できる時間など存在しない。ならば日勤滞の前後の時間をそれに当てるしかないわな。セブンイレブンになるのは当たり前。 さらに、担当に重症患者がいたり仕事が重なれば、仕事の終わりが“日付け変更線越え”ばかりか病院連泊なんてのも当たり前。


でもって給料は3万円ポッキリ。 国から10万円支給されていたはずなのだが“研修させてやってんだから”と研修施設が7万ピンハネしとったようじゃの。 あの当時の一般の会社の平均的初任給は15万円くらいだったと記憶しているが、少なくとも医者っていう職業に就いたんだからさ、3万円ってぇのはね〜〜。 これってまさしく「劣悪かつ人間性を無視した」環境・・・??

しかしオイラ、いや同期の研修医仲間も実はそんな生活を「劣悪かつ人間性を無視した」と感じていなかった。というのは、先に言ったように「ちゃんと研修医するとセブンイレブンになっちまうのは必然」と思っていたから。 指導医が適度にオイラ達に介入してきたコトもそう思わせたかもしれない。例えば、「見ておけよ〜こうやるとうまくいくんだ!・・・なっ!」とか、あえてすべてを教えずに「これを調べておきなさい」とか、「コレは危険だからやっちゃダメ」とかほったらかしにされていなかった。 「カルテ、俺も少し書いて終らせているから今日は飲み行こーぜ」ってな飲酒的指導が比較的多かった。この辺がマンガとオイラん所との違いか?


iPS細胞はつらい研修医制度が育んだ?

今夜のお食事

いまの研修医の所属は、医局でも指導施設病院でもなく厚労省にある。すなわちオイラ達は研修医を厚労省からお預かりしているという立場なのデス。 さて、昔は研修医への指導医ってのは医局内で数人いた。中に鬼軍曹と呼ばれる指導医も各医局に1〜2人は居た。彼らは超体育会系…。体力の限界に挑戦するかの様に診療して勉強して研究して…、頼もしい〜!!…がその超体育会系スタイルで自分は研修医から今まで獅子奮迅してきたのだからコイツ(担当している研修医)もできるはずだ、と指導する。

加えて、昔の研修医は医局に所属していたから、医局のの財産という名の「単なる物」なので好きに扱え(指導)できた。 ディスカッション中に研修医に激怒してカルテを投げつける、オペ中のもたつきに対し足を蹴るなんてのは軽い方で、メスが飛んできたなんてのは言い伝えられている現実の医療現場なんだが、こういう風に好きに扱えいや指導できる環境は一見パワハラっぽいが、これはこれで悪くはないこともあると思う。パワハラを認めるのではありません。

iPS細胞の開発でノーベル賞に輝いた山中教授。ヤフーニュースで見た記事には、教授は研修医時代に手術が苦手で指導医から「ジャマナカ」というあだ名で呼ばれていたらしい。現在ならソレを研修医が厚労省にパワハラとして報告すれば指導施設と指導医側は厚労省から指導をうける事象であるが、「オラ、ジャマかあ、俺ってセンスないんだ」と自覚させられた若き研修医ヤマナカは、研究によってより多くの人々を救う方向へ医学の舵を切ったらしいのだ。その結果、ノーベル賞を受賞。

パワハラだらけの「劣悪かつ人間性を無視した」研修医制度があってのノーベル賞…だったの?