「医者の言うことは聞いておけ」by Dr.ホッピー


あなたはバリウム検査か胃カメラどっち?

なぜ医師はバリウム検査を受けないのか?

唐突じゃが、そんなニュースを拝読したのでちょっち言わせていただく。
確かに医師は胃バリウム検査(以下、胃バリ)など受けない。
この記事では裏金の温床とか既得権益とかまで持ち出しており、とにかく胃バリを否定したいんだろうがな、バリウム検査での放射線被ばくとかバリウムのアナフィラキシーなど、健康問題を理由に胃バリを受けない医者なんぞは聞いたことがない。医者をダシにするンじゃねー!

とプンスンしておったらば、同じニュースを読んだ編集長のハリスからメールが来た。
「センセ、今週人間ドックなんですが今年は胃バリやめて自腹で胃カメラにしたほうがいいっすかね~」

アンタねぇ、長い付き合いでしょうがオイラとは。。。今更胃バリとかナニ言ってンの?

ってことで、ニュースのネタになっておった「医師がバリウム検査を受けない」マッシブな理由を、現役バリバリエグゼクティブ&ホッピーな内視鏡医のオイラが解説しよう。


Dr.ホッピー

 


胃バリウム検査ってそもそも何だ?

バリウム(造影剤)を用いた胃レントゲン検査(二重造影法)は、胃がんの早期発見を目指した白壁先生、市川先生により開発された。胃がんの早期発見に著しく貢献し日本人の医学業績では世界に誇るべきものの一つでもある。基本原理は“塗り壁”。凹凸のある黒い壁に白いバリウムを塗って表面のバリウムを落とすと、凹んだ部分はより白く、凸った部分は黒壁が透けるから黒っぽく見える。この理屈で凹凸のある病変を診断するンじゃ。最近ではデジタル画像処理で輪郭強調をかけることで解像度を上げて診断を向上させている。

胃バリの欠点は、
(1)バリウムが付着しなければナニも見えない。
検査であっち向いてこっち向いて立ったり横になったりってのは付着させようとしているため。胃の形は人それぞれなので、根性入れてアチラコチラ向かせないと付着させられない場合も多く、ヘタな医者の胃バリなんざ胃粘膜が半分しか撮影されていないものもある。見落としは頻繁にあるのだ。

(2)病変の色調などわからない。
胃バリの映像は白黒だけの世界である。

(3)発泡剤がまた問題
通常の“発泡剤を飲むだけの方法”だと胃壁の張り過ぎ虚脱し過ぎが原因で、緩やかな凹凸が表現できない。


胃バリの欠点を補う胃カメラ

現在世界中で用いられている胃カメラの構造は先端にCCDカメラがついているもの、つまりデジカメだ。1985年に電子内視鏡という名で市販化された。では1985年のデジカメと今のデジカメを比較してみてくれたまえ。エレクトロニクスの進歩が胃カメラに解像力の進歩を与え、内視鏡検査の診断に飛躍的な向上をもたらしたというコトは容易に理解できよう。

胃カメラのメリットを簡単にまとめると、すべて胃バリの欠点を補うところにある。すなわち
(1) 胃の中をすべて観察できる。
(2) 色調の変化で病変を見つけることができる。
(3) 操作する術者による送気・吸気が自由自在だから極わずかな凹凸、ザラザラ感を見つけられる。

この、「色調の変化」・「わずかな凹凸」・「ザラザラ」ってのは超早期胃がんの特徴なのだ。そして、胃バリでは不可能な「組織検査」までできてしまう。

超早期胃がんは今や胃袋を切除せずに内視鏡治療で完治できる。だからこそ超早期胃ガンの状態で発見するべきである。健診の意味はソコにあるのじゃ。
したがって胃バリと胃カメラ、もはやどっちがよいかなどは謂わずもがなじゃろう。

しかし数年前、確か検診学会からだったと記憶しているが、「胃バリで発見された場合と胃カメラで発見された場合とで患者の生存率に差がなかった」と発表されたことがあった。
この発表の言わんとするところは「胃バリで良いンです。胃袋は切っちゃいますけど、生存はできますよ~、だから胃バリでもいいんです」と言うものだ。
ふざけんな!と叫ばずにはおれん内容だ。本来あるべき医者って「可能な限り臓器を失わせずに治せるガンを見つけたい」はずだろ。

結論を言えば、胃カメラに勝る胃バリなんてねぇ。
しかしそんな胃カメラにも課題はあるのだ。


今夜のお食事

 


胃カメラやりゃあいいってもんじゃねーんだ。

オイラ、立場上いろいろな先生方が撮った内視鏡写真を拝見するンじゃが、最先端の内視鏡を使っていながら「これでは超早期は見つけられない、こんな操作ではアンタが見つけたガンは胃袋切らないと治せないじゃねーかっ!」とイラつく検査をしているセンセイが少なくない。実は多くの「内視鏡もやってます」センセイは“見つけてやろうと思っていない”のではなく、内視鏡によって“超早期胃がんがどう見えるか知らない”または超早期胃がんを見つけるための“内視鏡の使い方がわからない”のだ。 衝撃じゃろ?

ならどんな先生ならいいのか、ズバリ早期胃がんの内視鏡治療に携わっていた消化器内科系のセンセイだわな。アシスタントとしてだけのセンセイでもオッケー。超早期胃がんを判断するには経験がモノをいう。それだけに馴れた医者には紹介が止む事は無い。

治療中には様々な超早期胃がん病変を見続けることになるから、顔認証システムみたいな“病変認証システム”が自然と脳内に構築される。しかるに「内視鏡もやっています」センセイと同じようにフツーに操作していたとしても、“病変認証システム”を備えた先生の内視鏡はサラリと超早期胃がんを見つけてくれるワケなんじゃ。ついでにこの“病変認証システム”は食道の観察中も作動していますから、超早期食道がんも見つけてくれマス。

では、どうやって“病変認証システム”作動中の先生を探せばよいのか?

最近の病院、開業医はホームページで客寄せしているからそれを見ればよい。略歴に「内視鏡治療に従事し」と書かれていたらオッケーだと思う。
ちなみに内視鏡指導医とか消化器病なんとやら医なんてのは、学会に参加していくつか発表して論文を少々書いて筆記試験に合格すれば頂ける資格であり、表在型(超早期がん)を見つける目をもっていますとの認定ではありません。

ということで、胃カメラで安心してから秋の味覚を心行くまで愉しむべし。