寄稿 ドロ舟日本の行方


企業と金持ちから取れ!?

質問 大企業から税金をもっと取るべきだと思います。法人税減税や優遇税制なんてもってのほか。富裕層からももっとお金を取るべきです。彼らはお金を右から左に動かすだけの不労所得が多いのに税金を払っていません。庶民からこれ以上とるなんてもっての他です。貧困をつくりだす消費税増税は憲法違反です。
(55才、団体職員)



経済活動やお金の流れがグローバル化し、国単位でも雇用と税収を奪い合っているのが現状で、この流れは止まりそうもない。
これに加えて、日本では少子高齢化が他国に先行して進んでいるため、退職世代は増える一方、労働して所得税や法人税を納めてくれる人々はこれからもますます減り続け、今のままでは税収が不足する。まだ手はあるものの、現行の政府の施策が続くなら必至だ。
日本国憲法のどこに「消費税は8%までは良いけれども、10%にしてはならない」と書いてあるのか私は知らないが、「自分以外からもっと税金を取れ!」とは古今東西、多くの人が主張してきたことなので、それ自体は違和感が無い。
そこで、質問者さんの提案を実行するとどうなるか考えてみよう。


大企業への課税を増やしたら、金の卵を産む鶏がいなくなる

金の卵

企業は金の卵を産む鶏だ。ある町に大企業が拠点を置けば、得られるメリットはその企業からの法人税収だけではない。その企業で働く労働者からは確実に所得税や住民税が得られるし、その企業の下請け企業だけでなく、従業員向けの居酒屋からスーパー、コンビニ、クリーニング店、ラーメン屋、衣料品店などの地域の雇用機会が副次的に生まれる。仮にその大企業が大赤字で法人税を納めていなくても、大企業の工場や研究開発拠点があるだけでその町は大いに助かる。だからこそ、地方自治体だけでなく、各国が自国への雇用機会の提供を大企業に求め、補助金を出したり、税金を減額してまで誘致するのだ。
一方、国内外の大企業は原材料供給地や大消費地に近かったり、高いスキルを持った労働者がいるところに拠点を起きたいと考える。もちろん、同じ利益をあげても税率が著しく高いようでは、別の立地の方が合理的となる。
そこで「大企業からもっと税金を取れ!」という“庶民の声”に従って法人税率と法人事業税を上げたらどうなるだろうか。日本に生産拠点や研究開発拠点を置く経済合理性が下がるから、日本から雇用機会が出て行ってしまう。ちょうど長年の円高政策で日本各地から仕事がなくなったのと同じである。日本企業が出て行くだけでなく、もしかしたら日本に工場をつくっかたも知れない外国企業も、他の国に拠点を探すことになる。
実際、これが世界規模で起きているから法人税率はどんどん下がる傾向にある。各国で協調して高い税率にできれば良いのだが、イギリスのような大国までが抜け駆けして法人税を下げている現状では、日本だけ法人税率を上げるのは金の卵を産む鶏をみすみす他国に差し出すことになる。優遇税制を止めるのも法人税増税と同じなので、これもまともなビジネス感覚がある政治家は口にしない。結局、大企業をイジメれば、日本はもっと貧乏になるだろう。


富裕層への課税強化は進むものの、庶民への課税も増えていく

海外への移住が珍しくない国々では、富裕層への課税を強化すると富裕層の国外脱出に直結する。一方、ほぼ単一民族国家で日本語という難解な言語、おまけに10年習っても話せない外国語教育の結果、富裕層への課税を強化しても国外脱出にはつながりにくい。
とはいえ、大企業の創業者一族などの超富裕層では既に海外脱出が始まっている。また見えないところで実際かなり日本は損をしている。本来なら日本に居住して多額の所得税・住民税を日本で支払い、消費額も多かったであろう高給取りの外国人が、日本ではなく税金が安い香港やシンガポールを選ぶ結果となっている。もちろん、アジアの拠点になるには法人税、交通網、起業環境、英語での生活のしやすさ等がも関係するが、かつては多くの企業がアジアの拠点を日本に置いていたことを考えれば、やはり日本が失った税収・GDPといえるだろう。
 なお、質問者さんに指摘されるまでも無く、富裕層への課税は着実に強化されつつある。2015年1月から相続税が増税され、所得税の最高税率も40%から45%になった(実際にはこれに復興特別税0.945%と住民税10%が加わって55.945%)。さらに、かつては「トー・ゴー・サン・ピン」などと言われたように、「サラリーマン100%、自営業者50%、農業従事者30%、政治家10%」と言われ、本当のお金持ちが多い会社経営者や自営業者は所得が不透明なままだった。これが2016年1月からのマイナンバー導入と2018年からの預金口座とのヒモ付け義務化で、今後ジワジワと捕捉されていくことになる。
 それで万々歳かというと、残念ながら質問者さんがいう“庶民”への税金も今後上がっていくことになるだろう。図1は欧米との個人の所得に対する実効税率の比較である。財務省が作った資料なので、税金を上げる方向にバイアスがかかっている可能性が無い訳ではない。ただ、これが実情であるなら、日本(図中赤線)は低~中所得者への課税が少ない。だから、この赤線が左上方にシフトして(低・中所得層への課税が増加)、イギリスやドイツ並みの水準を目指していくことになるだろう。



個人所得税の実効税率の国際比較 個人所得税の実効税率の国際比較

(出所:
財務省http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/income/028a.htm


金融資産への課税は横並び

「それなら株式やFXの儲けにもっと課税しろ!」
というのが質問者さんの考えのようだが、これはおそらく上手く行かない。所得税や消費税などと違って、他の先進国でも金融所得に対しては20%の“そこそこ”の税率で幅広く課税するのが流れだ。これは、労働(所得税)や消費(居住に伴う消費活動)と異なり、金融所得のモトとなる金融資産は簡単に国境を越えてしまうからだ。現に日本のすぐ近くには、株式などの売買益が非課税の香港やシンガポールがある。だから、他の先進国よりも金融資産への課税を強化すると、お金がヒラヒラと日本から出て行ってしまうリスクが高い。それなら、一律20%で税金を納めてもらったほうがトータルで見て税収が上がるという訳だ。


結局どうしたら良い?

日本は税収以上に年金、老人医療や生活保護などの社会保障にお金を使いすぎているから借金がどんどん膨らんでいる。かといって年金支給を激減させると政治家は選挙に落ちるのでやらない。とはいえ、法人税は上げると雇用も税収もなくなってしまう。そこで、取りやすい個人からますます税金を取ることになる。
だから、残念ながら質問者さんの意見とは逆行する方向となっていく。20年単位で見れば、庶民への課税は所得税増税だけでなく、消費税増税やインフレによる資産価値の目減りという形態となることもありえるし、おそらくそのすべての組み合わせとなるだろう。結局のところ、みんなが「自分以外の他人から取れ」と言っているから、“みんな”からとることになる。
そこで、質問者さんがこれからどうすべきかは本人の選択である。政治家を目指すもよし、スキルアップや副業など自分の稼ぎを増やすことに専念してもよいだろう。課税対象とならない家庭菜園やDIYに注力することもできるし、もちろん、趣味に生きることもアリだ。ただ、「庶民をいじめるな」、「憲法違反だ」と不満をSNSにぶつけるだけでは何も変わらないだろう。

(念のため付言すると、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではない。)


土居雅紹 (どいまさつぐ)氏
土居雅紹 (どいまさつぐ)氏
eワラント証券株式会社
チーフ・オペレーティング・オフィサー
CFA協会認定証券アナリスト(CFA)
(社)証券アナリスト協会検定会員(CMA)

ラジオNIKKEI「ザ・マネー」月曜日のレギュラーコメンテーター。月刊FX攻略、Moneyzine、日刊SPA、ロイターなどに寄稿。著書に『勝ち抜け! サバイバル投資術』(実業之日本社)『eワラント・ポケット株オフィシャルガイド』(翔泳社、共著)など。

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