アラフォーのヘッポコピーライターが自らの失敗談で綴る、自戒と猛省の広告コラム


ショーンは正しい(ただし半分だけ)

アラフォーのヘッポコピーライターが自らの失敗談で綴る、自戒と猛省の広告コラム。
※ 本コラムの内容は全て個人的な発言であり、所属する組織や団体とは一切関係ありません。むしろ早く関係して発言できる身分になりたいものです。


第二回 <ショーンは正しい(ただし半分だけ)>

“Ads aren’t cool!(広告はクールじゃない)”
これは映画「ソーシャル・ネットワーク」で、ジャスティン・ティンバーレイク演じる起業家ショーン・パーカーが、フェイスブックの創業者マーク・ザッカーバーグに言ったセリフです。確かに「お気に入り」を集めた自分のページが無関係の広告で埋め尽くされている様は決してクール(カッコいい・オシャレ)とは言えません。近ごろ、サイトの広告を非表示にするサービスが次々と生まれている背景には、人々のそんな嫌悪感がある気がします。しかし嫌われるために生まれた広告はこの世にひとつもありません。


パソコン

すべての広告はみんなに愛されたくて生まれてきます。広告はいわば、企業から消費者への愛の告白。私を気にいって欲しい。そしてできれば買って欲しい。甘い言葉や笑顔、楽しい歌や踊りで、広告は一生けんめいあなたの興味を惹こうとします。こんなに愛されたいのに嫌われる存在が他にあるでしょうか。しかし告白はタイミングが重要であるように、広告にもまた適した時と場所があります。動画サイトで好きなアーティストのプロモーションビデオを見ようとしたら、興味のないCMを強制的に見せられた。スマホでネットを見るたびバナーがしつこく追いかけてくる。そんな経験を持つ人は少なくないはず。カッコいい広告の代表であるアップルやナイキだって、TPOを間違えればクリックひとつでスキップされかねない。


思うに、「クールじゃない」のは広告そのものではなく、無理に見せようとするその強引な態度ではないでしょうか。それはまるで自分の主張を拡声器でがなりたてる演説のようです。大きな声(文字)で言えば人に届くと思ったら大間違い。人々が話を聞かないのは声が小さいからではなく、聞きたくないから。逆に聞く価値があると思えば、言葉はどんな小さな声でも届きます。なぜなら、人々の方から耳を傾けてくれるからです。


「言う」と「伝える」は同じではありません。思いがけないひと言に膝を打つ。意外なオチについクスリと笑ってしまう。そんな感情の「揺れ」を起こしてこそ、言葉は相手のフトコロに飛び込むことができるのです。言いたいことだけを一方的にまくしたてるのではなく、消費者を信じてメッセージが伝わるのをじっと待つ。その時間が広告を少しだけ愛すべき存在にしてくれるのではないか。僕はそう信じています。


11月22日、僕も編集委員のひとりとして参加した「コピー年鑑2012」がいよいよ発売になります。東京コピーライターズクラブ(TCC)が選ぶ2011年の優れた広告の集大成であり、記念すべき50冊目の年鑑。過去50年のコピーの歴史に敬意を払いつつ、広告の未来を示す羅針盤となる。そんな年鑑を目指しました。「クールな広告」とは何か。その答がこの一冊に詰まっています。15秒のTVCM。たった一枚のポスター。一瞬で見た人を楽しませ、何かを伝えようとする。そこには、ただ商品を売ろうとする以上の知恵と情熱が存在します。ちょっと値段は張るけれど、広告嫌いのあなたにこそ見て欲しい。つまらない。うっとうしい。そんな広告に対する認識を、厳しい審査を勝ち抜いた珠玉のアイデアたちがガラリと変えてくれることでしょう。


佐藤理人(さとうみちひと)
電通 第4CRP局 コピーライター。
マーケティング、営業を経て、2006年より現職。
東京コピーライターズクラブ会員。
受賞歴:TCC新人賞、ACC銅賞など。