アラフォーのヘッポコピーライターが自らの失敗談で綴る、自戒と猛省の広告コラム


J-POPに学ぶプレゼン術

アラフォーのヘッポコピーライターが自らの失敗談で綴る、自戒と猛省の広告コラム。


第十回 <J-POPに学ぶプレゼン術>

広告代理店の(現場の)人間が最も嫌うモノ。その一つに「競合プレゼン」があります。競合プレゼンとは、クライアントのお題について複数の代理店からアイデアを募り、いちばん気に入った案を採用するいわゆる「コンペ」のこと。代理店にとってはその年の、ヘタしたら今後数年間の売上を左右する「絶対負けられない闘い」です。

競合において、攻める方(扱いを取りに行く代理店)と守る方(現在扱いのある代理店)はどちらが有利か。それはまったくのケースバイケースですが、守る方は現状を肯定し、攻める方はこれまでのあら探しをするのが定石です。


今回は僭越ながら、僕がふだん実践しているどちらの側でも使えるテクニックをご紹介します。名付けて「J-POP式プレゼン」です。

J-POPには一般的に「応援ソング」と呼ばれるジャンルがあります。「今のままのキミでいいんだよ」「キミはひとりじゃないんだよ」「がんばってるの知ってるよ」など、自己肯定と自己愛に満ちた歌詞がこれでもかと並ぶあの手の音楽のことです。

聞いた話によれば、どこかの会社の新入社員研修では、新人に対して絶対に怒ったり否定したりしないよう担当者に厳命が下るとか。好きかどうかはともかくとして、これらの音楽が引きも切らずに売れているところを見ると「人はホメて伸ばすものだ」という考え方はますます強くなっているようです。

たとえ「ホメられて伸びる」タイプじゃなくても、貶されて喜ぶ人はいません。誰だって褒められた方が嬉しいにきまっています。そこで思ったんです。プレゼンでもまずはとにかくホメてみよう。現状を認め、受け入れ、肯定しよう、と。


競合は戦争です。特に攻める方になるとあれこれ理由をつけて現状の広告活動がいかにお金のムダ遣いかを主張しがちです。でもそれは同時に、そんな案を採用した宣伝部がいかに無能かを暗に糾弾するようなもの。もしも上司や社長の前でそんなことを言われたら、宣伝部長はどんな気持ちがするでしょうか。例え内心では失策だったとわかっていても、決していい気はしないでしょう。そうなったら、


なるほど!確かに僕の判断ミスだ。
もっと早くキミに頼むべきだったよ。


なんて言うわけありません。どれだけ提案の中身が優れていようが、その案が採用される確率は低くなります。そもそも「このままだとヤバいですよ!」と散々脅かしてから解決策を提示するやり方は、


俺たちの言うことをきかないとどうなっても知らないぞ
(素直に聞けば助けてやってもいいんだぜ)


と言うようなもので、言い方は悪いですが、構造的には恐喝に近いものがあるんじゃないでしょうか。そこで「J-POP式プレゼン」の出番です。


今のキャンペーンは悪くないよ。
御社ががんばってるの、弊社だけは知ってるよ。


現状は所与の前提として、その延長上に修正案や進化案を提示する。攻める時はやんわりと、守る時は自信をもって。理屈や正論でクライアントを納得させるのではなく、まずは相手の立場を尊重するところから始めることが肝心です。


これは僕の師匠の受け売りですが、クライアントには「顧客」の他に「患者」という意味があります。患者さんは専門家ではないので、どこか具合が悪くてもその原因をお医者さんに細かく説明することはできません。だからまずは相手の気持ちになって考えてみる必要がある。それが解決のいちばんの近道であることに「医療」も「広告」も違いはない。その意味が、最近少し分かってきた気がします。

※ 本コラムの内容は全て個人的な発言であり、所属する組織や団体とは一切関係ありません。むしろ早く関係して発言できる身分になりたいものです。


佐藤理人(さとうみちひと)
電通 第4CRP局 コピーライター。
マーケティング、営業を経て、2006年より現職。
東京コピーライターズクラブ会員。
受賞歴:TCC新人賞、ACC銅賞など。