アラフォーのヘッポコピーライターが自らの失敗談で綴る、自戒と猛省の広告コラム


僕、ジミリーマン

アラフォーのヘッポコピーライターが自らの失敗談で綴る、自戒と猛省の広告コラム。


第12回 <僕、ジミリーマン>

早いものでこのコラムも12回目。これまでの分を読み返していてつくづく思ったことがあります。

地味だな…。

そうなんです。僕、地味なんです。往年の勢いはもう見る影もないものの、広告代理店のクリエーティブといえば、一応はまだ花形職業と言えるのではないでしょうか。服装自由で勤務はゆるゆる、海外ロケで世界中を飛び回り、夜はタレントや女子アナと合コン三昧。そんなイメージを抱いている方も少なくないでしょう。チクショウ、お前らばっかりウマくやりやがって、と。事実、僕もクリエーティブに転局するまではそう思っていました。

全然ない。

もうびっくりするほどまったくない。少なくともそんなこと僕には一度もありませんし、周りでも聞いたことさえありません。確かに女優や女子アナと結婚する人はいるらしいですが、それってあれでしょ?学生時代からの知り合いなんでしょ?よく知りませんけど。


思うにそれは僕がコピーライターであることが大きく影響しています。広告代理店のクリエーティブ職には大きく分けて3種類あります。TVCMのストーリーを考える「CMプランナー」。新聞やポスターの絵を考える「アートディレクター(AD)」、そして両方の文案を考える「コピーライター」です。

通常、CMプランナーは「CMプロダクション」と、そしてADは「グラフィックプロダクション」と組んで実制作にあたります。しかし「コピープロダクション」というものはこの世に存在しません。

コピーライターは常にひとりで仕事をします。ひとつの仕事を複数のコピーライターで担当することはありますが、何人コピーライターがいて、何十案コピーが並ぼうと、採用されるのはたった一本だけ。必然的にコピーライターはひとりで仕事をしたがる傾向にあります。

かく言う僕も打合せ以外はずっとひとりですし、朝から晩まで誰とも喋らないなんてこともざらです。元々口数の多い方ではないので、全く苦になりません。人に気を使わなくて済むので、むしろ有り難いとさえ思います。


しかし他の職種、特にCMプランナーはそうはいきません。TVCMは動くお金も大きい分、動く人の数も多い。当然、社交的で物怖じしない快活な人の方が向いていると思います(たぶん)。もちろん内向的なプランナーもいますが、そうした人は凄まじく優秀なヒットメーカーだったりするので、黙ってても周りが話しかけてくれるのです。

いずれにせよ、コピーライターは根暗な文学青年崩れ、CMプランナーは明るいみんなの人気者、というステレオタイプな認識はそれほど間違っていないと思います。


傍から見て「美味しい思い」をしているのも圧倒的にCMプランナーです(注:個人の感想です)。TVCMは撮影しなければ作れませんから、当然ロケに行きます。やれ、日本の空は色がどうだの、この空気感はロスならではだのと、なんだかんだとよくわからない理由をつけてすぐ海外ロケに出かけます。そして真っ黒に日焼けした顔で帰国して言うのです。

いやー、撮影大変だったよー。

と。

ウソつけ!

と心の中では全力でツッコミますが、顔では、

自分、ロケとか興味ないッスから。

と平静を保ちます。僕の精一杯のプライドです。でも本音を言えばものすごく行きたい。喉から手が、いや足が出るほど行きたい。飛行機苦手だけどガマンしてでも行きたい。ロケ先でマズい現地の料理に日本語で文句言ったり、休憩時間に女優さんとおしゃべりしたり、スタッフ全員で記念写真撮ったりしてみたい。

クリエーティブに来てもう8年になりますが、未だに僕のパスポートは真っ白です。紙と鉛筆があればコピーは書けるし、ケータイのメールで送れば仕事は終わる。ただでさえ広告費の削減が著しい昨今、コピーライターがロケに行く余裕などどこにもないのです。このコラムも当分地味なままだと思いますが、懲りずによろしくお付き合いお願いします。

※ 本コラムの内容は全て個人的な発言であり、所属する組織や団体とは一切関係ありません。むしろ早く関係して発言できる身分になりたいものです。


佐藤理人(さとうみちひと)
電通 第4CRP局 コピーライター。
マーケティング、営業を経て、2006年より現職。
東京コピーライターズクラブ会員。
受賞歴:TCC新人賞、ACC銅賞など。