アラフォーのヘッポコピーライターが自らの失敗談で綴る、自戒と猛省の広告コラム


眠くなる話

アラフォーのヘッポコピーライターが自らの失敗談で綴る、自戒と猛省の広告コラム。


第16回 <眠くなる話>

これは僕がまだ新入社員でマーケティング部門にいたときの話。ある日、初めて「プレゼン」というものに行きました。テーマはCMの好感度調査の報告会。当然、資料の中身はグラフとデータばかりです。案の定、開始数分で僕は眠くなりました。

眠気を我慢するって辛いですよね。寝ちゃいけないと思うと余計に眠くなるのも不思議です。スースーするタブレットも眠気スッキリ!なガムもまったく効果ナシ。先輩の声がだんだん遠のくのがわかります。メモの字はヘビがのたくったようにグニャグニャ。社会人の自覚が足りなかろうが、眠いものは眠いのです。睡魔の巨大な渦に僕は飲み込まれる寸前でした。


しかし学生気分のいかに抜けない僕でも、プレゼン中に寝たらマズイことくらいわかります。シャープペンの先を手のひらに血がにじむまで突き刺し、腿の内側を痣になるまでつねりあげて僕は必死に耐えました。2時間後、ほぼ白目を剥いた状態でプレゼンは終わりました。

命からがらクライアントのビルを出ると、先輩が尋ねました。

「初プレゼン、どうだった?」

僕は悪気なく正直に答えました。

「いやー、マジ眠かったッス」

バコーン!

先輩に勢いよくどつかれたのは言うまでもありません。今思えば、僕は本当に無礼なガキでした。ただ敢えて言いますが、失礼な口をきいたのは100%僕が悪いけど、眠くなったのは100%先輩が悪い。今だからこそ、僕は強くそう思います。


広告は、難しきことを易しく、易しきことを面白く伝える仕事。企画書もまた、企画を買って頂くための立派な広告です。どんなにグラフとデータだらけの資料でも、興味深く伝えるのが広告代理店の使命のはず。言葉で何かを伝えようとする以上、すべてのページ、すべての文章が印象的でなければなりません。少なくとも我々広告制作者にとっては、眠くなるのは眠くならせた方が悪い。

人は正しいことを求めるくせに、正しいことだけ言っても聞いてくれない厄介な生き物です。主張を一方的にがなりたてる選挙カーのように、どんなに正しい話でも伝え方が悪ければ誰も聞いてはくれません。伝わらなければ言ってないのと同じこと。相手の記憶に残す工夫もせずに、「言ったじゃないですか」は通用しません。

正しいことは当たり前。大切なのはそこに興味を惹く「ストーリー」があるかどうか。だから僕は、本来マーケが書くべき戦略企画書もすべて自分で書いています。データは正面から見れば単なる数字の羅列にすぎません。でも別の角度から見れば、今まで気づかなかった潜在顧客や商品の価値など「新しい売り方のストーリー」が必ず隠れているもの。正面が正しい面とは限らない。どんなときでも正解はひとつではないのです。


ではその「ストーリー」はどう見つけるのでしょうか。経験上、誰もが当たり前だと思っていることにこそ盲点は隠れています。どんなときでもまず前提を「それって本当?」と疑ってみること。よく言われるようにピンチは裏を返せばチャンスだし、グラスに水はまだ半分も残っています。物事のポジティブな面だけを見ていれば「ストーリー」はおのずと見つかります。

物をどう売るかは、人がどう生きるかに非常に似ています。だからこそ、縁あって担当した商品には、できるだけ末長く幸せな一生をおくらせてあげたいんです。

※ 本コラムの内容は全て個人的な発言であり、所属する組織や団体とは一切関係ありません。むしろ早く関係して発言できる身分になりたいものです。


佐藤理人(さとうみちひと)
電通 第4CRP局 コピーライター。
マーケティング、営業を経て、2006年より現職。
東京コピーライターズクラブ会員。
受賞歴:TCC新人賞、ACC銅賞など。