アラフォーのヘッポコピーライターが自らの失敗談で綴る、自戒と猛省の広告コラム


ピンチです

アラフォーのヘッポコピーライターが自らの失敗談で綴る、自戒と猛省の広告コラム。



第17回 <ピンチです>

いま、近年稀に見るピンチを迎えています。年明けから9ヶ月間、紆余曲折を経てようやく実制作に漕ぎつけた案件が、撮影一週間前に社長の一声で降り出しに戻ったんです。


この手の恐ろしい出来事が時々起こることは噂には聞いていました。突然予算が半分になる。起用タレントが○○○で捕まる。外資に買収されてクライアント自体がなくなっちゃう。などなど、自分たちにはどうしようもない理由で突然制作進行がメチャクチャになる「広告都市伝説」の数々。しかしそれはあくまで飲み会における笑い話のひとつであり、自分のような下っ端には無関係の話だと思っていました。先輩たちがその手の武勇伝を披露するたびに笑いながら思っていたのです。僕ならとても耐えられない。下準備には念を入れよう、と。


制作準備に入れば、広告は離陸したも同然。ところがホッとしてシートベルトを外した途端、巨大な隕石が降ってきて胴体を突き破ったのです。備えなんて無意味です。それでなくても9ヶ月間ダッチロールし続けてきて、その度どうにか切り抜けてきた上でのこの仕打ち。命からがら不時着はしたものの、飛ぶ気力はもう完全に萎えています。


僕たち制作職の人間は「納品してナンボ」です。戦略立案が見事でも、プレゼンが上手でも、クライアントに好評を博しても、そんなものは何の意味もありません。広告は世に出たら100%消費者のもの。お茶の間に認めてもらって初めて価値を持つのです。同僚たちが次々と話題になる広告を世に送り出しているのを横目に見ながら、9ヶ月間ひたすら下書きをし続けるのは精神的にかなり辛いものがあります。いつまでもこんなことやってて何か意味があるんだろうか。昔どっかの軍隊であった、ひたすら穴を掘っては埋めさせ続けるという恐ろしい拷問の話を思い出しました。

もう無理かも

さすがにそう思いました。長年担当してきたクライアントだし、これまでにもいろいろ無茶なことはありましたが、ここまで大きなダメージを食らったことはありません。営業やCD(クリエーティブディレクター)が何度も電話をかけてきましたが、あまりの虚しさに何を話していいかわからず出られませんでした。いざ話したらとんでもないことを口走りそうで恐かったのです。


調査したわけではありませんが、世の中の広告の99%は商品を自画自讃するだけの都合のいい自慢話です。だから見た人が共感しないし、話題にもならない。でも残りの1%は面白いだけでなく商品にもオチている。当然話題になるし、商品も売れる。その1%の同業者たちはいつもこんなに無数のハードルをクリアし続けてるのかと思うと、今更ながらこの仕事の深淵を覗き込んだ気がします。

ああ、いいアイデアがまだひとつも浮かばない。本当は前回の続きで、プレゼンの最初にクライアントの心をつかむ方法について書こうと思っていたのに、まさかこんなことになるとは。心はまだポッキリ折れたままです。本当に明日が見えません。

※ 本コラムの内容は全て個人的な発言であり、所属する組織や団体とは一切関係ありません。むしろ早く関係して発言できる身分になりたいものです。


佐藤理人(さとうみちひと)
電通 第4CRP局 コピーライター。
マーケティング、営業を経て、2006年より現職。
東京コピーライターズクラブ会員。
受賞歴:TCC新人賞、ACC銅賞など。