アラフォーのヘッポコピーライターが自らの失敗談で綴る、自戒と猛省の広告コラム


音楽、この難しきもの(前編)

アラフォーのヘッポコピーライターが自らの失敗談で綴る、自戒と猛省の広告コラム。


第18回 <音楽、この難しきもの(前編)>

楽しそうに見えて、実は意外と難しい。それがCM音楽の打合せです。よほどの理由がない限り、音楽が嫌いな人はあまりいません。誰だって思い出の曲やお気に入りのミュージシャンがいるはず。打合せでは映像やメッセージに合うと思う曲をチーム各人が持ち寄るのですが、近ごろはみんな好みがバラバラすぎて全然まとまりません。

ミリオンヒットが出なくなったと言われて久しい昨今、昔のように子供からお年寄りまで誰もが口ずさめる流行歌はほぼ絶滅しました。ふだんの会話の中で「あの曲いいよねー」となることは皆無ですし、「いやー、二次会はカラオケで朝まで盛り上がっちゃてさ」みたいな話も聞きません。僕は20代の人と話すとき、好きな音楽を尋ねるようにしていますが、好きなミュージシャンは特にナシと答える若者がなんと増えたことか。

音楽は個人の趣味なので優劣はつけられません。誰かの選んだ曲が死ぬほどダサいとか、そんなマイナーな曲知らねーよ!と思っても、チームメンバーの好みは貶しにくい。必然的に打合せでの発言はみんな遠慮がちになります。


ネットのおかげでチャートに関係なく、自分の好みを好きなだけ追求できるようになったのはいいことですが、その結果音楽市場はタコ壷化しました。あるコミュニティでは空前の大ヒットを記録した曲も、その外にいる人は名前も聞いたことがないなんてザラです。

最大のコミュニティ、それは「世代」です。先日も、とある車のCMの音楽打合せでCD(クリエーティブ・ディレクター)がこんなことを言いました。

この商品には先進的なイメージが欲しいな。
思い切って新し目の曲(※洋楽)でいこうよ。

それまで使用していたのは、バート・バカラック(60〜70年代に活躍した「雨にうたえば」などの数々のヒット曲で知られる希代のメロディメイカー)の名曲でした。今回は久々の新商品ということもあり一気に若返りを図ろうというのです。CDはさらに続けました。

これは家族みんなを幸せにする商品だ。
「人生」や「生きること」について歌ってる
スケールの大きな曲がいいね。

佐藤、ちょっと何曲かオススメ選んでくれよ。

よしきた!僕は張り切りました。最近の、生きることについて歌った、スケールの大きな世界的ヒット曲といえば、もうこれしかありません。

コールドプレイの「Viva La Vida(美しき生命)」

です。


アルバムの総売上枚数約7000万枚。彼らは現在、説明の必要もないほど最も売れているバンドの一つです。そして「Viva La Vida(美しき生命)」はアメリカとイギリスのチャートで1位を獲得し、第51回グラミー賞で最優秀楽曲賞と最優秀ボーカル入りポップパフォーマンス(デュオもしくはグループ)賞を受賞した、商業的にも芸術的にも成功した筋金入りの名曲です。

さらにAppleの「iPod+iTunes」のCMにも使われたので、日本での知名度も高いはずです。しかし曲を聴いたCDは言いました。

知らん。

後半につづく。

※ 本コラムの内容は全て個人的な発言であり、所属する組織や団体とは一切関係ありません。むしろ早く関係して発言できる身分になりたいものです。


佐藤理人(さとうみちひと)
電通 第4CRP局 コピーライター。
マーケティング、営業を経て、2006年より現職。
東京コピーライターズクラブ会員。
受賞歴:TCC新人賞、ACC銅賞など。