アラフォーのヘッポコピーライターが自らの失敗談で綴る、自戒と猛省の広告コラム。
あいつ、マジうざいッス…
先日、若手のコピーライターやCMプランナーと食事をしたとき、入社3年目のK君がボソッとつぶやきました。聞けば、先輩が自分のコピーやCM企画をまったく採用してくれないとのこと。おまけにみんなの前でボロクソに貶すらしいのです。「あれは立派なパワハラですよ!」酔いに任せて吐き捨てるK君の言葉に大きくうなずく若手たち。でも僕は思ってしまいました。
怒られてよかったね!
会議室で怒られても恥をかくのはK君一人で済む。でも広告が世に出たら恥をかくのはクライアントです。今どき悪評はTwitterやブログであっという間に広がる時代。下手に炎上でもしたら賠償問題になりかねないし、何千万円もの予算を信頼して預けてくれたクライアントに恥をかかせるなんて仕事じゃない。世に出る前で、ホントよかったじゃん。
クリエーティブ職を志す人間はみな、自分が面白い(はず)と思っています。でもいちばん大事なことは、実はその「独りよがりな面白さ」をできるだけ早く、徹底的に叩きつぶされることです。広告は芸術や自己表現ではありません。美しいビジュアルにしたり、笑えるコントにしているのは、商品の良さをわかりやすく伝え記憶に留めてもらうために必要だから。商品不在の面白さなんて、ただの悪ふざけに過ぎない。飲み会でウケる「面白さ」と、広告の「面白さ」はまったく別モノ。自分なんてホントはちっとも面白くない。そこに気づいてからが本当のスタートです。
ちなみに僕の師匠は死ぬほど怒る人でした。
コピーなんて商品のスペックを詩っぽく書いて、
テキトーに句読点打っときゃ一丁上がりでしょ?
そんなナメきった考えを徹底的に叩き直された3年間。昼に怒られ夜も怒られ、居酒屋で朝まで説教大会。男が三十過ぎて怒鳴られるのは精神的にかなりキツいものがあります。こんなことならコピーライターになんてならなきゃよかった。心底そう思いました。
それでも辞めなかったのは、とにかく悔しかったから。せめて一矢報いたい。案が通らないということは、利益を上げていないということ。自分の給料どころか、一円も稼いでいないただのお荷物です。だから自分の至らなさを棚に上げて文句を言うことはできなかったし、たまにかけてくれる褒め言葉がものすごくうれしかった。今はわかります。あれが「愛のムチ」ってやつだったんだと。少なくとも僕が今、人並みに仕事をさせてもらえてるのはみんな師匠のおかげ。3年も自分の時間を使って怒り続けてくれた師匠に、僕は心から感謝しています。
だから若手の愚痴なんてただのノイズにしか聞こえない。だいたい怒られずに上達したものなんてひとつもないでしょ?!「ホメられて伸びるタイプです」とかヌルいこと言ってるからダメなんだよ。でもゼッタイ言わない。いつの間にか「褒めて伸ばす」が本当に若手育成のスタンダードになっちゃったからです。
風の噂によると、研修では「怒るべからず」が不文律だとか。逆ギレしたり、鬱で休職したり、最悪は辞めちゃうからだそうです。本当に恐ろしい時代だと思います。まだ何もできない人の一体どこをホメればいいのか。ご機嫌を損ねないようお客様扱いしてその先に何があるのか。でも、そんなことを言っても始まらない。優秀な方々が熟慮の末、教育方針としてそうお決めになられたのですから、よもや間違いなどありますまい。それに万が一、うっかり気に障ることでも言って、若者の逆鱗に触れて出社拒否でもされたら、こっぴどく怒られるのはこっちの方です。そんなの割に合わない。しかもこの少子化時代、これ以上若手が減ったら、負担は丸ごと上の世代にかかってくるのです。
結局、望むと望まないとに関わらず、若者は大切にするしかない。なら、こう考えてみてはいかがでしょうか。彼らは希少な愛玩動物なのだと。あなたが守ってあげなければ、いずれ淘汰され自滅する運命。だから今だけは徹底的にホメて、おだてて、そやしてあげる。花よ蝶よとチヤホヤしてみる。だけど絶対期待しない。ヘタに期待するから腹が立つんです。期待しなければ、裏切られることもない。若手には「いい人アピール」できて人望を集められるわ、ストレスも溜まらないわで言うことナシです。え?ホントに絶滅しちゃったら?そうしたらまたあなたの天下が来るだけです。
※ 本コラムの内容は全て個人的な発言であり、所属する組織や団体とは一切関係ありません。むしろ早く関係して発言できる身分になりたいものです。