アラフォーのヘッポコピーライターが自らの失敗談で綴る、自戒と猛省の広告コラム


キメるぜ!サクセス

アラフォーのヘッポコピーライターが自らの失敗談で綴る、自戒と猛省の広告コラム。


第21回 <キメるぜ!サクセス>

① 意識の高さが日本を救う!?

どんだけ勉強熱心なんだよ、日本人…。先日、大手町の本屋さんに行ったとき、思わずそんなことを呟いていました。土地柄もあるでしょうが、フロアの半分近くがタイトルに「法則」「習慣」「方法」「ルール」などの文字が躍る、いわゆる成功本や自己啓発本で埋まっていたんです。あれだけ本があったら読むだけでも膨大な時間がかかるはず。覚えた法則や方法を実践する時間なんてあるんだろうか。そもそもそんなにたくさん習慣やルールを覚えられるのか。一度に2つ以上のことができない自分としては、頭の下がる思いです。選挙の投票率が低くても、おまわりさんがタイーホされても、円周率が3になっても国が傾かないのは、偏に「意識の高い」方々のおかげに違いない。日本の行く末に胸を撫で下ろしながら僕は本屋を後にしました(欲しかった漫画は売っていませんでした)。


② 「成功」という名の合法ドラッグ

ドラッグ

成功本や自己啓発本には批判的な意見が少なくありません。「あんなものを読んで成功した人はいない」「当たり前のことしか書いてない」「成功の秘訣をはした金で人に教えるはずがない」など、正論を鬼の首をとったように言うのです。なんて野暮な人たちでしょう。あれはビジネス書ではなくファンタジー。ビジネスマン向け「ロード・オブ・ザ・リング」です。こんな俺(やアタシ)でもいつか六本木ヒルズに住めるかもしれない。子供が空想の世界に遊ぶように、大人にも辛い現実を忘れさせてくれる物語が必要です。難易度の高さを考えれば、もはやSF小説に近いかもしれません。自己啓発本を読んでアガっている人を笑うのは、「スターウォーズ」を観ている人に「そんなことあるわけねーじゃん」と水を指すのと同じこと。読むだけで気分が高揚するなんて、違法な薬物を摂取するよりよっぽど安価で安全じゃありませんか。自分のお金と時間をどう使おうがその人の自由。だからどうか、そっと夢を見せてあげておいて欲しいのです。

もちろん麻薬と同じで効果はすぐに薄れます。読んだだけではただの知識ですから、当然すぐには仕事で使えません。ホームランの打ち方を理解することと、バッターボックスに立ってピッチャーと対峙することが別物であるのと同じです。「万能感」という効き目が消えると、すぐに別の本に手を出したくなるところも麻薬と似ていますよね。


③ 成功本が教えてくれたこと

サクセス

僕らが売っている商品。それはコピーやCM企画といった「無形のアイデア」です。品質管理の徹底された工場があるわけでも、最先端の技術を持つ研究所があるわけでもない。そんな海のものとも山のものとも知れない紙切れ一枚で数千万の制作費と数億円の媒体料を頂戴しようってわけですから、企画書や絵コンテにはそれ相応の心配りがされているべきだと思うのです。にもかかわらず、こともあろうにキャンペーンの旗印であるキャッチコピーのど真ん中に汚い線が入っている。そりゃ怒るってもんです。


しかし同時にあの手の本は私たちに非常に大切なことも教えてくれます。それはまず、

仕事の正解はひとつじゃない

ということ。あれだけたくさんの本が出版され続けていることが何よりの証拠。「教義」はまだ統一されておらず、「バイブル」と言えるべき一冊はまだ存在していないのです。また「時間をムダにするな」など、突き詰めれば内容がどれも当たり前のことばかりなのも素晴らしい点です。うまい金儲けの話を期待して読んだ人を拍子抜けさせることで、「成功に近道はない」と戒めてくれるだけでなく、「初心の大切さ」を思い出させてくれているのです。なんとありがたい本ではありませんか。

大事なのは結論ではなくそこに至るまでの過程。試行錯誤の結果、自分で答えを見つけた。その「発見」という行為にこそ真の快感は存在します。誰かに与えられた答に正解はありません。逆に自分で見つけた答は、お金では買えないその人だけの財産になります。その苦労を面倒くさがってスキップしようとするから、いつまでたっても満たされない。答えだけを求めてムダを省く、その行為こそ実はいちばんのムダ。なんと人生の妙や不条理を教えてくれるありがたい本なのでしょうか。やっぱり地道に働くのがいちばんだな。そう思えるだけでも読んだ価値はあると言えるでしょう。


④ いちばん使える成功本は?

僕がこれまで読んだ中で仕事に最も役立った本。それは、

 教科書

です。学校の勉強なんて社会に出たら役に立たない?とんでもない。仕事に必要なのは自分で問題を作り、自分で正解を導き出す能力です。しかも答は複数だったり、場合によっては存在するかさえわからない。それに比べれば学校の試験のなんとありがたいことか。答が確実に、しかもひとつだけ存在する問題を、誰かに与えてもらえるんですから。そんなものも解けないで、どうして答のない問題が解けるでしょうか。学校の勉強とは社会で直面するであろう課題を、さまざまな例題を用いて解決する「訓練の場」なのです。

自分で考えればわかることを誰かに教えてもらおうとしている時点で成功は期待薄です。もしもあなたの近くに成功の幻想でラリっている人がいたら要注意。彼らは間違いなく「疲れが吹っ飛ぶ」「人生観が変わる」などと本の素晴らしさをトロンとした目で熱く語ってきます。そこで「一度くらいイイかな…」と思って手を出したらダメ、ゼッタイ。

※ 本コラムの内容は全て個人的な発言であり、所属する組織や団体とは一切関係ありません。むしろ早く関係して発言できる身分になりたいものです。


佐藤理人(さとうみちひと)
電通 第4CRP局 コピーライター。
マーケティング、営業を経て、2006年より現職。
東京コピーライターズクラブ会員。
受賞歴:TCC新人賞、ACC銅賞など。