アラフォーのヘッポコピーライターが自らの失敗談で綴る、自戒と猛省の広告コラム


高齢化社会万歳!

アラフォーのヘッポコピーライターが自らの失敗談で綴る、自戒と猛省の広告コラム。


第28回 <高齢化社会万歳!>

オープンカー

「年を取ったらアルファロメオのオープンカーに乗りたい」

母が言った。僕は驚いた。母は今年67歳。アンタの「年」ってのは一体いくつのことなんだ!80歳か!?言いかけてもう一度驚いた。そうか、母はまだ自分を「年」とは思っていないんだ。ちなみに父は69歳。65歳まで働き、引退後はフリーのエンジニアとしてNPOやらなんやらの仕事を請け負っては元気よく海外出張に出かけていく。1年の半分以上は日本におらず、現役時代より忙しくしている。そうなのだ。今の年寄りは「若い」のだ。ここまで元気な姿を見せつけられると、もはや「年寄り」の定義を改めなくてはならない。少なくとも「後期高齢者(この言い方すごく嫌い)」などと単純に年齢だけで区切ることはぜんぜん現実的じゃない。ただでさえ日本は世界一の長寿国。健康志向や医療の発達で私たちはますます年を取りにくくなっている。女性がよく言う「心は永遠の18歳だもん♡」などという恐ろしいセリフも実はまんざら冗談ではないのかもしれない。


僕が勤めている電通という会社は、知る人ぞ知る平均寿命の短い会社だ。昔、会社の健康説明会で医師が示したグラフによると平均寿命は確か70歳前後だったから一般的な日本人より10年近く短いことになる。原因は明らかだ。深夜残業による寝不足とそれに伴う不規則な食生活。酒、タバコ、真夜中のラーメン。思い当たる節があるのだろう。みんな笑って聞いていた。僕も笑って聞いていた。本当は全然笑い事じゃないのだが、あの頃は過労死するほど働くことを勲章のように思っていた。ワークライフバランスなんてことを言う人は誰もいなかったし、そんなことを言う人は白い目で見られたことは間違いない。


ただでさえ年月は残酷だ。社内ですれ違う同期を見ると、でっぷりと太り肉のついた浮き輪のような腹まわり。大分心もとなくなったツヤのない頭髪。脂っ気の抜けた皮膚に、深く刻まれたまま戻らなくなった額のシワ。入社当時の溌剌とした面影はもうどこを探しても行方不明だ。でもそれって自分も同じように見えてるってことだよね。そう思うと心底げんなりする。日常会話にも健康の話題が格段に増えた。痛風、糖尿病、血尿、結石、胃潰瘍、老眼、鬱。みんな何かしら爆弾を抱えており、実に「電通らしく」年を重ねていると言える。しかしそうなると困るのが食事の店選びだ。炭水化物ダイエット、食べ順ダイエット、脂質抜きダイエットなどそれぞれマイルールがあり一つに決めきれない。実に面倒くさい。普段の飲み物も血糖値やコレステロールや脂肪の吸収を抑えるお茶ばかり。そんなにあれこれ期待されてもお茶だって困ると思う。


かく言う僕も先月、健康診断だった。酒もタバコもやらないし、肉や揚げ物より魚や野菜が好きな方なのでそんなに心配はないのだけど、不安じゃないと言えば嘘になる。以前、製薬会社を担当してたとき、世界には原因不明の難病が数多くあることを学んだ。エコーで技師の手が止まるたび、怪しい黒い影でも見つかったんじゃないかと気が気じゃない。年を取るほど、無事に年老いていくことの難しさを思い知らされる。今ならわかる。10代の頃、ジジイだババアだと心無く呼んでた人たちこそ、実は人生の真の勝者なのだと。スーパーで仲良く買い物をする老夫婦を見るたびにうらやましい今日この頃なのである。

※ 本コラムの内容は全て個人的な発言であり、所属する組織や団体とは一切関係ありません。むしろ早く関係して発言できる身分になりたいものです。


佐藤理人(さとうみちひと)
電通 第4CRP局 コピーライター。
マーケティング、営業を経て、2006年より現職。
東京コピーライターズクラブ会員。
受賞歴:TCC新人賞、ACC銅賞など。