アラフォーのヘッポコピーライターが自らの失敗談で綴る、自戒と猛省の広告コラム。
「天才は1%のヒラメキと99%の汗である」っていう
エジソンの言葉、あれ、ウソだと思うんですよ。
ワイングラス片手にN氏が言った。N氏はものすごぉーく成功しているIT企業の社長。スーツはゼニア、時計はパテック、愛車は泣く子も黙るマクラーレン。自宅に巨大なワインセラーを複数所有するほどの有名ワイン愛好家であり、その卓越した知識はマリアナ海溝よりも深い。会話も巧みで、物腰もスマート。嫌味なところなどまるでない、全身から上品さと柔らかさの入り混じった成功の甘い香り漂う、絵に描いたような紳士である。
そんな彼の下には連日のように起業家志望の若者が話を聞きにやってくる。「話を聞きに」と言えば聞こえはいいが、要は「成功の秘訣を分けてちょんまげ」という他力本願極まりない下心である。そんなもんこの世にあるわけないし、万が一あったとしてもオマエらに教える義理などどこにもないわ!このタワケ!僕なら1000%そう喝破する。しかしN氏は違う。短絡的で浅はかな「意識高め」の若者たちに対しても親切なアドバイスを厭わない。実に余裕である。僕のような小物とは違い、男の器が何万倍もビッグなのである。しかしアドバイスの中身はその外見ほど甘くない。
エジソンは多分ツイてたんでしょうね。
事実、成功の99%は運なんです。
なんとまぁ身も蓋もないことを…。話を聞いた未来の起業家(自称)たちのあっけに取られた顔が目に浮かぶ。それを言ったらおしまいじゃん!もっとさぁ、あの本を読めとか、こんなことしろとか、できるだけラクしてカンタンにうまくいくコツみたいの…ないッスかねぇ?いや、別に努力しないとは言ってないッスよ、しますよ努力。1日5分くらいなら。神妙な顔とは裏腹な彼らのココロに渦巻く図々しい本音が聞こえてくる。「答えを見つける=ググる(Googleで検索する)」世代は、正解がどこかに「落ちている」と本気で信じて疑わない。ああ、恐ろしや恐ろしや。
もちろんN氏のアドバイスの半分は謙遜である。見えないところではそれはもう凄まじい努力をしている。ただ、彼にとっての努力は面白いマンガを徹夜で読みふけることと同じ。好きすぎてたまらないことなので努力と思わないだけである。しかし残りの半分は間違いなく真実だ。多分。ただしこの場合の運は「巡り合わせ」、つまり「人の縁」を意味する。競馬や麻雀など賭け事における「運」では断じてない。
ひとりで成功できる人は少ない。どんな強打者も打席に立たなければホームランは打てない。誰だって自分を認め、チャンスを与えてくれる人が必要だ。そこでモノを言うのが「縁」だ。世界は狭い。自分が属する業界はもっと狭い。いつどこで誰の力が必要になるかわからない。今日の敵は十年後の友かもしれない。昨日までペーペーだった若者が、上司が変わった途端にヒットCMを飛ばし、トントン拍子にブレイクしてゆく様を何人も見てきたし、昔はキレッキレだったスタークリエイターがいつの間にか昼行灯を囲う様はもっと見てきた。今なら自信をもって言える。運を運んでくるのは縁なのだ、と。
N氏に限らずうまくいってる人は皆、出会いを大切にしている。といってもそれは巷に溢れる「出会いに感謝」みたいな安っぽい話じゃない。他人を踏み台にしようとするヤツらの大好きな「人脈づくり」でもない。結局のところ、大切なのは「誰のこともナメない」ことに尽きるのではなかろうか。若者の斬新な発想を受け入れ、年長者の豊富な経験に教えを請う。リスペクトなんていう軽い言葉ではなく、敬意を払うこと。当たり前だけど。
ごめん…私、幸世くんじゃ成長できない
大傑作恋愛映画「モテキ」で長澤まさみは森山未來に言った。なんという破壊力。こんなこと言われたら相手が長澤まさみじゃなくてもKOは必至。「友達になる」ボタンひとつでカンタンに仲良くなれる時代。「いいね!」では伝えきれない濃い話を交わすことで、また会いたいと思われる人になろう!そう気持ちを入れ替えて打合せに臨んだ。夕べN氏と朝まで遊んだせいか瞼が重い。気がつくと居眠りをしていた。目を覚ました僕に部長が言った。
おまえ…ナメてんのか?
成功への道は遠い。
※ 本コラムの内容は全て個人的な発言であり、所属する組織や団体とは一切関係ありません。むしろ早く関係して発言できる身分になりたいものです。