ふとした瞬間にやってくる黒金の来訪者。そう、ゴキブリさんである。そんな彼らを一撃で、しかも後処理も楽に殺せると噂の「ソルベント」というものが話題になっている。
「ソルベント」というのは福岡工業社が製造しているシール剥がしである。良く取れるという評判だそうだ。しかし、なぜだか最近全く違う用途で話題になっている。
それは・・・
なんと、吹きかけるだけでゴキブリを一撃で殺せるというもの。殺虫スプレーのようにゴキブリがジタバタすることもなく、ソルベント自体はすぐに乾いてしまうため部屋も汚れない。なぜかAmazonでソルベントの商品レビューがゴキブリ関連で埋まるという事態に(今は修正されている)。で、気になるソルベントの成分は「ノルマルヘキサン」と「シクロヘキサン」というもの。いわゆる有機溶媒と呼ばれる化学物質だ。有機溶媒は油と仲が良く、ゴキブリの表面の「ヘプタコサジエン」という油分(テカテカしているところ)を溶かすことができる。特に数多くある有機溶媒の中でヘキサンは油をとてもよく溶かし、そのことがゴキブリを瞬殺するのにつながる。ゴキブリは、体に気門を持っていてそこで呼吸を行う。そして、雨などの水分で気門が塞がれないように、常に油分(ヘプタコサジエン)を出し続けて水を弾いて生息している。しかし、ヘキサンはゴキブリの油分で弾くことができず、逆に油分を容赦なく溶かし、ゴキブリの気門を塞いでしまう。生命力の権化ゴキブリと言えども、呼吸ができなければあえなく窒息死してしまうというわけ。
で、そんなソルベントだが大きな欠点がある。それはとても火が付きやすいということ。すぐに蒸発して見えなくなってしまうから気が付きにくいかもしれないが、気体になっても物質がなくなるわけではなく条件がそろえば火が付く。ガソリンみたいなものだとイメージしてもらえれば良いだろう。というか、ガソリンとはそもそもヘキサンも含んだ混合物のことである。ゴキブリが出やすいのは火を使うであろう台所回り、いくら瞬殺したいと思ってもそれで火事になったら元も子もない。かつて氷殺ジェットという可燃性ガスを使った殺虫剤が売り出されたが、火気の近くで大量に使ったことで火事になり製造中止となった。ヘキサンもシール剥がしに使う少量ならともかく、動き回るゴキブリに使う量は危険だろう。ちなみにボクもかつての研究室時代にフラスコから気化したヘキサンを着火させてしまい、火柱を出したことがある。火のついたフラスコを持って安全な場所に移動させるボクに対し、鎮火に協力しながらも「聖火ランナーみたいだね」とからかってきた同僚のことが忘れられない。皆様もゴキブリ退治で死んじゃわないように、どうぞご安全に退治くださいませ。