COP-21も記憶に新しいが、地球温暖化は人類共通の大問題だ。そのやっかいな温暖化を引き起こすガスの代表例が二酸化炭素(CO2)であることは改めて語ることもないだろう。そんなCO2問題を意外なものが解決してくれるかもしれない。今回はそんな話
2015年12月のコラムでは酸素が一つ少ない一酸化炭素(CO)の話を書いた。一酸化炭素は酸素が一つ足りないから不安定で反応性(毒性)が高く、それゆえ人体にも有害だ。しかし、逆にCO2は人体には無害で非常に安定に存在する。しかし、この「安定すぎる」ことが今度は環境問題を引き起こす。安定すぎるということは、反応性が低すぎるということ。つまり二酸化炭素は、化学的に分解させたり捕まえてどこかに貯蔵したりしておくことが困難な化合物なのだ。それだけなら問題ないのだが、二酸化炭素は温室効果と言われる熱を捕まえて留まらせる性質を持ち、これが地球温暖化をもたらすと言われている(実は反論意見も出ているのだが、今回のコラムの趣旨とは違うので割愛する)。
この安定すぎる二酸化炭素を何とか分解したり、捕まえて貯蔵したりできないものか・・・と多くの科学者は考えた。植物の光合成を人工的に再現することを試みたり、レアメタルや貴金属(金とか銀とか)を使った化学反応を開発してみたりとこの分野は数多い論文が出ている。しかし、その多くがとんでもなくコストがかかったり、効率が悪かったりととても温暖化対策に応用できそうなものではなかった。
そんな中、ごく最近北里大学のグループから実に魅力的な報告が出た(英語論文はこちら 日本語ではこちらの14ページがよいかと。)それは、プトレシン、スペルミン、スペルミジンといったポリアミンと言われる化合物が非常に効率的に空気中のCO2を捕まえてくれるというものだ。このポリアミンは海洋生物に多く存在している、ごくありふれた化合物だ。前述の北里大学のグループの仮説では、海洋生物が有しているポリアミンがCO2を捕まえて甲羅や殻の成分である炭酸カルシウムへと変換させているのではないか?と報告されている。つまり、非常にごくありふれたポリアミンと言う化学物質が、実に効率的に空気中や水中のCO2を捕まえてくれるということだ。ありふれた化合物を原料にするということは、ポリアミンをベースに作る素材の生産コストが安くなり、産業展開が非常にしやすい。このポリアミンをうまく使いこなすことができれば、空気中のCO2濃度を自由にコントロールすることができ、温暖化問題は一気に解決に向かうかもしれない。
なお、スペルミジンやスペルミンといった化合物は、僕ら男性諸君にはなじみ深い精子の臭い成分として有名だ。そもそも名前の由来も精子(Sperm)から来ており、濃縮されたものははっきり言ってマジで臭い。そんなことも相まって悲しいかな、化学界でもスペルミンやスペルミジンと言ったら苦笑される化合物である。そんな虐げられている化合物たちが温暖化から地球を救う。そんな痛快なサクセスストーリーを是非見てみたい。今後の展開、産業への応用に大いに期待しよう。