意外と死ねちゃう家庭の化学


シナモンの化学物質で肝臓障害

シナモンは多くのお菓子(ビスケット、クッキー)に含まれているし、スパイスとしての利用やサプリメントとしての利用も一般的だ。また、広く言えば、八つ橋に使われるニッキもシナモンの仲間(というか、樹木シナニッケイの樹皮がシナモンと呼ばれ、根はニッキと呼ばれる)だ。それが毒性ありとはちょっと驚き、そんな話


「シナモンロール禁止」を巡りEUで対立が

シナモンロール

このシナモンの毒成分の正体はクマリンと呼ばれるもので、実は桜の匂い成分としても有名な化学物質だ。
しかし、このクマリン、食べ過ぎると肝臓毒性があることが知られている。以前、ドイツのリスクアセスメント研究所が「体重50kgのヒトで5mgがクマリンの許容量」という報告をし、デンマークの伝統的なお菓子であるシナモンロールを食べるとクマリンをとりすぎてしまうのではないかと話題になった。この報告を受けEUでは伝統食を守りたいという意見と、食品のリスクを抑えようとする意見が対立し、食品業界ではちょっとした話題となった。結果的には使用するシナモン量やシナモンに含まれるクマリンの量を規制することで決着し、我々日本人にも身近なシナモンロールが店頭から消えることは回避できた。
しかし、この肝臓毒性が広く知られるようになってから、クマリン自体を食品の香りつけなどに使うことは禁止され、日本でもクマリンを食用の添加物に使うことはできなくなった。今ではクマリンは食用では使われず、有機ELディスプレイの材料や蛍光塗料の原料として工業面から欠かせない化学物質となっている。


安いシナモンはリスクアップ

シナモン

しかし、規制がかかっているシナモンロール以外の食べ物はどうなのだろうか?
シナモンの1日許容量(各食品について、人が一生涯にわたり摂取しても健康への影響上問題がない一日当たりの摂取量)は東京都福祉保健局のホームページを見ると分かりやすい。まとめると以下のようになる。

・常識的な量であればシナモン料理だけで危険になることはない(シナモントーストに、シナモンコーヒー、チャイ、さらにデザートとシナモンクッキー5枚でもOK)
・シナモンサプリメントは適量(1日2カプセル)を守る
・シナモンサプリメントをとるときは、ほかの料理にシナモンを使わない

老化防止が謳われているシナモンサプリを摂取している人は気をつける必要があるだろう。
また、「シナモン料理だけで危険になることはない」とあるが、注意すべきは種類によってクマリンの量が違う点だ。
日本で流通されているシナモンの多くはスリランカ製のセイロンシナモンであるが、中国やベトナムでとられるカシアというシナモンと似たものも流通している。カシアはシナモンに近い香りで、シナモンと比べ安価なことが売りとされている。安いシナモン風味食品の表示を見るとこのカシアが使われていることがある。
このカシア、安さは魅力的だがクマリンの含有量はセイロンシナモンの200倍。肝臓毒性のリスクが高いことには気を付けてもらいたい。

単体で食べるのは禁止だが、シナモンや桜の葉に入っているくらいならOKという微妙な毒であるクマリン、これからも微妙な距離で楽しみたいところである。


あしど毒多(あしど どくた)
某大手食品メーカー研究室に勤務。
学生時代、実験でスペルミジンの合成に成功するも、衣服に付いたその臭いで変態呼ばわりされた苦い過去を持つ。
学生時代に得た「化学のすすめ」を合い言葉に、日常生活における化学を一般の人にわかりやすく伝えたいと日々尽力する化学オタク