意外と死ねちゃう家庭の化学


「傷口に瞬間接着剤」の人体実験

軍手で瞬間接着剤を扱うことは、やけどの可能性があり「大変危険です」――。接着剤メーカーのセメダインがツイッターに寄せたこんな注意喚起が、インターネット上で大きな注目を集めている。また、ついでに色々調べてみると瞬間接着剤をあろうことか傷口をふさぐのに使おうとする人がいるようでとても驚いた。多くの人が日常的に使うツールなだけに、改めてその危険性をシェアしておこう。


100℃くらいまでの高熱になることも

そもそも、接着剤とはどうやって固まるものなのだろうか?
例えば、アロンアルファを例にとって言うと、「シアノアクリレート」と呼ばれる化合物が自身で空気中の水と反応し、「シアノアクリレートポリマー」となることで接着面が固まり、二つのモノをくっ付けることができるようになる(化学的には重合反応と呼ぶ)。で、この「即座に空気中の水と反応」というのが、今回の事故の原因になっている。


接着剤

空気中の水に反応して硬まるということは、たくさん空気に触れれば触れるほど反応が早いということだ。そのため、布や紙など接着剤がしみこんで広がりやすい素材では、急激に反応が進行する。この重合反応は、熱を発しながら反応するタイプのものなので(化学的には発熱反応という)、急激に反応が進行するとその分だけ超高温が生じることになる。

アロンアルファの販売元である東亜合成のホームページによると、「綿、ポリエステル系、およびアセテート系の衣類に液状の瞬間接着剤が染み込んだ場合、100℃前後まで温度が上昇することが確認されており、やけどの恐れがあります。」とのこと。
なので、軍手を使って作業することや、ストッキングの伝線を瞬間接着剤で直すなど、もってのほかというわけだ。ストッキングの伝線を接着剤で直そうとして実際にやけどした事例もあるようなので、絶対にやめていただきたい。


傷口に接着剤は染みるだけでは済まない

また、瞬間接着剤を傷口に使うなんて言う意見がインターネットで溢れている。「ちょっとした傷を塞ぐのに使うのに便利」という意見がスポーツをされる方などを中心に挙がっていた。軍手の例とは違い傷口は瞬間接着剤が広がりにくいので、火傷するほどの発熱にはならないと思うが、それはそれで違う問題が浮上してくる。瞬間接着剤に含まれる多くの化学物質の危険性だ。当たり前だが、通常の工作に使うような瞬間接着剤は医療目的には作られていない。

瞬間接着剤は揮発性の有機溶媒や硬化促進剤のトルイジンといった人体に有害な物質が含まれている。特に、トルイジン系の化合物の一種であるオルト-トルイジンは、最近になって高い発がん性を持っていることが見つかったばかりだ。瞬間接着剤に含まれているトルイジン系の発がん性に関してはあまり良くわかっていないが、基本的には傷口に使用するなんてことを想定していないため、しっかりとした安全性テストはされていないのが現状だ。口に入ったり皮膚に触れたりでも嫌なそういった化学物質を、自分の心臓や脳にも届くかもしれない血液の中に塗りこんで、わざわざ人体実験に協力しなくても良いだろう。


傷口

ちなみに、医療用のアロンアルファというものがあって第一三共から「アロンアルファA」という商品名で売られている。これは安全性もしっかりテストされており、中身も不純物が少なくなるような工程で作られたシアノアクリレートが99%で、日焼け止めなどにも使われるヒドロキノンが1%未満で含まれているだけだ。かつては購入可能だったのだが、今では処方箋がないともらえないようだ。
手軽に傷口を塞ぎたい人は、液状絆創膏を使うのがベストだろう。


あしど毒多(あしど どくた)
某大手食品メーカー研究室に勤務。
学生時代、実験でスペルミジンの合成に成功するも、衣服に付いたその臭いで変態呼ばわりされた苦い過去を持つ。
学生時代に得た「化学のすすめ」を合い言葉に、日常生活における化学を一般の人にわかりやすく伝えたいと日々尽力する化学オタク