寄稿 ドロ舟日本の行方


ドロ舟日本の行方 「オランダ病もどきの日本」のこれから

土居雅紹 (どいまさつぐ)氏
土居雅紹 (どいまさつぐ)氏

eワラント証券株式会社
チーフ・オペレーティング・オフィサー
CFA協会認定証券アナリスト(CFA)

日本は「オランダ病」にかかっているらしい。オランダ病とは、1960年代に天然ガスで資源輸出国となったオランダが石油ショックで潤った結果、輸出増による通貨価値の上昇、国内産業の弱体化、社会保障費の増大を招き、財政赤字が急増し、その後長らく低成長と高失業に苦しんだことを言う。「日本には天然資源はないし、持てる国の悩みとは関係ないよ」ということもできる。だが、円高の原因が天然資源の輸出ではないという点を除けば、通貨価値の上昇、国内製造業の空洞化、社会保障費の増大と財政赤字の急増、おまけに低成長までそっくり。失業率も非正規雇用の増大や引退世代の増加を勘案すれば、実は似たようなものといえる。
輸出で稼ぎ、そのお金を過大な社会保障に回す一方、通貨価値の上昇で虎の子の工業基盤が失われて苦境にあるという点で、日本はやっぱり「オランダ病」、正確に言うなら「オランダ病もどき」だ。


日本がオランダ病だろうが、ギリシャ病だろうがどうでもよさそうに思うかもしれない。ところが、残念ながらそうでもない。これからが皆さんにも関係がある危機本番となる。

経済危機というと、ギリシャやスペイン、イタリアの状況を想像するかもしれないが、これはちょっと甘い。日本の公的債務はGDP比200%近いといわれ、今年実質的に破綻したギリシャの160%程度よりもはるかに多い。今問題となっているスペインやイタリアなどはギリシャよりははるかにマシ、ということは日本の方が問題は深刻だ。加えて、日本には欧州連合のような放蕩息子の面倒を見てくれる親組織は無い。


ジンバブエ

となると、どうなるか。極めて簡単で、経済危機に陥った場合の「普通の事態」が起こるだろう。自国通貨の暴落である。これは全く珍しい事ではない。イギリスでは1980年頃から大きく通貨価値が下がり、1992年にはポンド危機といわれるような暴落もあった。また、過去に似たような経済危機に陥ったブラジル、ロシア、アルゼンチン、メキシコ、韓国、タイ、インドネシア、ジンバブエなども、自国通貨が暴落し、物価が急騰、株・不動産の価格は暴落するなど経済活動が麻痺する事態を経験している。

ただ、それらの国が消えてなくなったというわけではなく、それどころか通貨安を活かして見事に立ち直った国々も多い。それでも、経済危機の最中は大変で、企業はバタバタ倒産し、物価は急騰し、生活は苦しくなり、庶民の貯蓄は紙切れと化す。また、外国に出稼ぎに行かなければならない者も増える。つまり、その国の生活水準が大きく下がって均衡して危機が収まるということだ。バナナやパイナップルが高級品になり、海外旅行は高値の花だからネットで見て行ったつもりになるだけ、家電製品も軒並み大幅に値上がりするのだ。もちろん、公務員でも一般サラリーマンでも失業は他人事ではなくなる。


レート

ここで頭に入れておきたいのが、その時期とそれに対する準備だ。
日本の経済危機が表面化するのは、おそらく、恒常的な経常赤字国への転落時である。最近は日本は輸入が輸出を上回っているが、まだ外国子会社からの配当やロイヤリティ収入を入れれば、外国からの稼ぎの方が多い。これが経常黒字の状態。お金が外国から日本にまだ入ってきている。でも10年もしないうちに、お金が足りなくなると予想されている。それが、経常赤字国に転落するという状態だ。こうなると原油や食料を輸入するには誰かが日本に投資するか、お金を貸してくれなければならなくなってくる。借金だらけで低成長の国は魅力が少ないので、奇特な外国人はとても少ないだろう。そうなると、ますますお金は出る一方になり、円の暴落が進むだろう。


一方、日本の経済破綻に準備するなら、「将来は逆立ちしても無理になってしまうから、今のうちに良い思い出を作っておく」ことがもっとも安直な方法だ。皆さんには楽しい人生の一時を有意義に過ごして欲しい。「そんな無責任な!」とか「でも、これだとやっぱり心配…」という方は、新興国や資源国の通貨、金やプラチナなどのコモディティに投資したり、長期に寝かせられる資金があれば外国株やヨーロッパの骨董品、米国のREIT(上場不動産投信)などに投資するのもよいだろう。手に職をつけたり、農地を確保しておくという手も無いわけではない。英語や中国語ができれば海外で仕事を探すこともできる。ちなみに、「日本が経済危機になったら日本株が上がるから、今のうちに買っておこう」という珍説も出ているようだが、「竹槍で飛行機を落とす」よりも難しいと歴史は教えてくれるはずだ。

なお、最近陰鬱な気にさせるのが日本のマスコミの報道姿勢だ。TVや新聞は、国民に誰かが見せたくないもの、聞かせたくないことは流さない。首相官邸周辺で数万人とも10万人とも言われる規模の反原発デモがあるのに国内主要メディアは無視。一方で、インターネットや海外メディアでは報道されていた。どこから情報を得るかも、「人生の分かれ道」となると思う。
(念のため付言しますと、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。)

eワラント証券 チーフ・オペレーティング・オフィサー
土居雅紹(どい まさつぐ)


勝ち抜け!サバイバル投資術
著書:勝ち抜け!サバイバル投資術バブルで儲け、暴落から身を守る
土居雅紹/著
【内容紹介】
中国バブル崩壊、米国発世界恐慌……ミッションは生き残り。日本と世界のこれから、次のバブルの見つけ方、グローバル経済時代の攻めと守りの最善手を説く。 出版社 :実業之日本社