1991年に崩壊するまでソビエト連邦という国家があった。社会主義の理想の下に建国され、当時はアメリカと並ぶ超大国であった。全面核戦争の恐怖から米ソは直接対決とはならず、代理戦争が世界各地で起き、軍拡競争を続け、米ソ冷戦といわれた。
この当時においても、「なんかおかしいなぁ」と感じ、数十年先を見て準備をしていた名経営者や知識人はいたようだ。私個人はと言えば、ちょうど大学1年生だった頃、何かのテーマのディスカッションの際に、「世界を数百回も破滅させる事ができる核兵器をお互いに向け合って対立するのは何かへんだ。おまけにソ連では一般人の生活は犠牲にして、軍拡に国力を使っている。人類は、もう少し合理的に考えられないものだろうか」と疑問を持ったことを記憶している。「ソ連という無理がある体制は崩壊する」というところにまで私は考えが至らなかったが、なんらかの疑問は誰でも感じえたのかもしれない。
同様に、今も「なんか変だなぁ」と皆さんが感じることがあるはずだ。そのうちの多くがこれから20年、30年のうちに瓦解することになると思う。ちなみに、人口統計を基に50年先のGDPを予想する手法がもてはやされているが、それを妄信してはいけない。10年前に今日の中国の台頭を“当てた”からといって、同じやり方が今後も通用するとは限らないのだ。かつて人口の巨大さが国家にとって大きな負担であった時代もある。例えば中国が米国との冷戦に入れば、そういった平和的発展の前提は崩れてしまう。
そこで、大胆にも20年以内の5大予想をしてみたい。いずれも「不自然な状況は長く続かない」ことに着目したものだが、どう備えるか、ぜひ考えてみて欲しい。
中国は世界第2位の経済大国になった。軍事・政治大国でもある。しかし、チベット、ウイグル、モンゴルの一部、朝鮮の一部、満州全域という他民族の領土を支配下においた漢民族主導の大帝国の政治体制は、崩壊前のソ連となんら変わらない共産党一党独裁である。経済は共産党が一声かけるだけで、レアアースを禁輸し、フィリピンからバナナの輸入を止め、日系企業の資産を打ち壊し、不買運動を始めることが可能だ。軍隊は共産党の私軍であって国家の軍隊ではなく、幹部は国外に巨万の富を持つといわれる一方、国内の貧富の差は激しい。今までは「3丁目の夕日」のような高度成長に伴う高揚感で国民は納得していたが、低成長に移行すると夢は萎む。また、重商主義的な通貨政策で、意図的に通貨価値を低く抑えて競争相手国の産業を潰して席巻してきた。しかし、既に世界第2位の経済大国である。失業を国外に輸出して、政治の矛盾を覆い隠す手法は限界だ。インターネットへの国民のアクセスを管理する手法もいたちごっこで、長続きはしないだろう。日本の自民党のように平和的に政権を失うか、ソ連のように国家分裂を伴うかは分からないが、体制変化の可能性は低くない。
「日本は捨てたものではない」とよく耳にする。失われた20年を経ても、失業率は相対的に低いし、健康保険は国民皆保険を維持し、相対的に治安が良い。街もきれいで、おいしいものも食べられる。セーフティネットとして生活保護も(多少問題があっても)支給されるし、消費税もまだ5%、上がっても10%でまだ低い。インフレもないし、食料品も店に溢れている。
しかし、おいしい話はいつまでも続かない。日本が過去20年の安定の代償に払っているのは、GDPの倍にも上るギリシャやスペインよりもはるかに巨額の借金、つまり子供たちのお金である。借金はいつまでも増やすことはできないし、いずれクビが回らなくなる。「自国通貨だから刷ればよい」という議論も聞かれる。確かにそのとおりで、現に日銀が実質的に国債を大量に引き受け始めている。これがそのうち、どういうことになるかは歴史の示すところ。自国通貨建てでデフォルトがなくても、通貨の信用は落ち、円はいずれ暴落するだろう。そうなると、多くのものを輸入に頼る日本の物価は急騰、3倍ということもありえる。国民の生活は極めて苦しくなり、治安もかなり悪化する。第二次大戦後のハイパーインフレ時の混乱はひどかったと聞く。「衣食足りて礼節を知る」である。経常収支が恒常的に赤字になると予想される5〜10年以内が要注意だ。
年金の支給開始年齢は昭和17年(1942年)に55歳からスタートして現時点では65歳である。厚生省のデータなどによると、戦争の要因を除いても当事の平均寿命は50歳程度であったようだ。年金支給開始年齢=平均寿命という設計だったのである。現在の平均寿命が男性80歳弱、女性86歳程度に大きく伸びたのだから、年金支給開始年齢も上がって当然。仮に、年金の支給開始年齢が85歳になっていれば、現在のような問題はそもそも起きていない。20年もすると制度疲労が限界になるが、85歳までの引き上げは政治的に無理そうなので、支給減額とセットで75歳程度までは引き上げられると予想する。
奢れる企業も久しからず。日本の就職人気企業ランキングの推移を見れば一目瞭然である。となると、今は一人勝ちではあるがカリスマ経営者を失ったアップル、ウォン安とキャッチアップ戦略で日米欧の家電メーカーを駆逐したサムソンも例外ではない。20年もすれば、現在の面影は無いだろう。
隣国だが関係が薄いロシア。だが、日ソ中立条約やシベリア抑留について日本が賠償を求めているわけでもなく、領土問題についてロシアが存在を否定しているわけでもない。また、ロシアは原油やガスを日本に輸出したいし、極東の開発を中韓だけに頼らず選択肢を増やしたい。ソ連時代は日本の仮想敵国だったが、今の日本の防衛課題は東シナ海である。さらに、両国とも相手国に対しての敵対的な教育をしているわけではない。それなのに、未だに平和条約が無いのはいかにも不自然である。両国指導者のリーダーシップで平和条約締結となれば、一気に戦前賑わった対露貿易が復活する可能性があるだろう。
(念のため付言すると、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではない。)