寄稿 ドロ舟日本の行方


円安・物価高の行方

質問「アベノミクスとかアベクロ相場といって株価が上がったと喜んでいるのはお金持ちだけだと思います。庶民は、物価高でも給料は上がらないので、生活は楽になりません。安倍首相を信じてよいのでしょうか?」(29才 会社員)


ライン

これから円はもっと安く、株は高くなる可能性が高い。一方、物価はどんどん上がるが、預貯金の金利は上がらないだろう。理由は簡単で、日銀がガンガンお金を供給しているから。金利というのはお金の値段で、お金が貴重(少ない)なら金利は上がるし、お金がいくらでも借りてこられる状況なら金利は下がる。


ところが、円という通貨の価値は、キャベツの豊作貧乏みたいなもので、供給が増える分安くなる。加えて、同じような金融緩和政策を採っていたアメリカは、景気が良くなってきたのとシェールガス革命の恩恵で、そろそろお札の輪転機フル稼働をやめる時期が近づいている。だから円安ドル高が進み、輸入物価が上がり、便乗値上げもあるので、身の回りのモノの値段はもっと上がっていく。

一方、給料は当面上がらない。なぜかというと、給料は企業が儲かっているだけではなく、「もっと払わないと人員が確保できない」状況になって始めて上がってくる。だから、景気がよくなっても、失業率が下がってこないとダメで、半年から1年先の話となるだろう。

「それは話が違う。安倍さんは騙したのか!」
というのはお門違い。「デフレからの脱却」とか「インフレターゲット」というのは物価が上がることだ。民主党政権の「財源が無いのに借金を増やして無節操にばら撒き、売国的な円高・デフレ政策で職を失う」のと、保守派の「物価は上がって、もっと働かなければならないけど、仕事も生きがいもある」のでは、後者がよいと選んだのが昨年12月の衆議院選挙の結果なのだ。


ケネディ大統領

有名なケネディ大統領の就任演説にあるように、
「祖国があなたに何をしてくれるかを尋ねてはなりません、あなたが祖国のために何をできるか考えて欲しい」
というのが日本の現状である。台所は火の車なのに、「もっともっと」と欲しがる輩が多くて困っている。来年度の一般会計予算を見ると、税収が43兆円。
一方、年金などの社会保障費だけで29兆円も使っている。日本は中福祉・低負担国家と言われているが、払い過ぎである。もともとは「平均寿命になったら引退できるように」と設計された制度を長生きになっても大して変えなかった為に、まだ働ける方々を温泉旅行と趣味に追いやり、それを実現するために若い人に1000兆円もの借金を押し付けている。年金改革と少子化対策(つまり年寄りではなく若者にお金を使う政策)が必要だと、新聞を読んでいれば誰でも分かりそうなものだ。
だが、歪んだ選挙制度の為に投票により多く行き、地方在住が多い老人に有利な法律しか通らない政治になってしまった。


そこで、国を憂う賢い人たちが考え出したのが、実質的な年金減額と貯金に対する間接的な課税である。早い話が高率のインフレで物価を押し上げ、年金は上げずに実質的に減額し、預貯金にも金利はつけずに目減りさせる(これは間接的な課税と言える)。一方、税収は名目的な企業利益や給料が上がれば自然と増える。こうして、国の借金を減らし、年金を減らし、日本という国の形を維持できるという方法だ。なんと賢い方法ではないか。

というわけで、日本はこの方向に動いている。おしなべてアベノミクスで若い方は救われることになるだろう。

ただし、「口を開けて誰かがどうにかしてくれると期待している人たち」には当面厳しいままだし、恩恵も少ないだろう。「国が」、「会社が」、「社長が」「部長が」、「ばあちゃんが」と「〇〇がなんとかしてくれる」という発想をやめ、アベクロ相場で自分に何ができるか、今一度考えてみるとよいだろう。

(念のため付言すると、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではない。)


土居雅紹 (どいまさつぐ)氏
土居雅紹 (どいまさつぐ)氏
eワラント証券株式会社
チーフ・オペレーティング・オフィサー
CFA協会認定証券アナリスト(CFA)

著書:勝ち抜け!サバイバル投資術バブルで儲け、暴落から身を守る 土居雅紹/著
【内容紹介】 中国バブル崩壊、米国発世界恐慌……ミッションは生き残り。日本と世界のこれから、次のバブルの見つけ方、グローバル経済時代の攻めと守りの最善手を説く。
出版社 :実業之日本社