寄稿 ドロ舟日本の行方


2020年までが勝負

質問「オリンピックが2020年に東京で開催されるのは嬉しいのですが、これは我々にとって本当に良いことなのでしょうか?」(30才、会社員)


自分の問題を「私たちはみんな不満なんです…」とか「我々日本人は…」と1人称複数にしたがる輩が多い。
「喫煙室がなくて不便だ」などと思っているときに「我々喫煙者の権利を守って欲しい」などという。「タールとニコチンを熱で気化させて、PM2.5を排出しつつ、一酸化炭素とともに肺に吸引する行為」は経営者にとって迷惑以外の何物でもない。
労働者の健康を害して経営のコストとなり、実質的な労働時間を減らしていることすら、「私=みんな」としか考えられない人たちは想像もできないに違いない(私もヘビースモーカーだったが、その時は喫煙に都合のよい理由をいろいろと考えたものだ)。


2020年東京オリンピックがどういう意味を持つか決めるのは誰か?

2020東京オリンピック

そもそも、あなたが言う「我々日本人」とは誰の事か分からないが、2020年の東京オリンピックという世紀の大イベントをどう活かすかは、「あなた次第」と極めて単純なことだ。

投資という観点で考えるなら、エイを連想させるような新国立競技場は1300億円かかるし、選手村や各種競技会場には東京都が石原前知事の時代から貯めてきた4000億円が使われる。
招致演説がフランス語・英語だったのに東京にはフランス語の案内がないというわけにもいかないだろうから「お・も・て・な・し」のためには都内各所の案内版の差し替えが必要だ。
施設が集中する臨海地区への交通手段として地下鉄8号線の延伸(豊洲〜住吉間)やトンネルもほぼ規定路線。
羽田空港の5本目の滑走路建設、東京モノレール羽田空港線の新橋延伸、首都高速中央環状線・外環道・圏央道の前倒し整備もあるし、都心直結線(成田・東京間を37分程度に短縮)も進みそうだ。
オリンピック開催中に直下型地震があっては大変だから首都高の耐震工事も要る。当然ながら、首相演説で約束した福島原発は金に糸目をつけずに解決しなければならない。


「どこにそんなお金があるの」というのはまともな発想だがお祭りには通用しない。
「日本は既に1000兆円も借金があるのだから、30、40兆円程度増えたところで大差はない。輪転機をフル回転させるだけだし。これに便乗して一儲けしよう」というのが人の常。
実際、年金などで老人に消費されて国の借金が増えていくよりは、乗数効果がちょっとでもありそうな分だけ大型公共投資も意味がない訳ではなかろう。

公共投資だけではない。
民間企業もホテル改装、臨海地区のマンション新築、テレビの更新需要狙いからスポーツ関連のオンラインゲーム、2020東京饅頭まで、2020年に向けて勝手に期待を膨らませて投資が行われることになる。
リニア中央新幹線も2020年に一部開通ということもありえるだろう。
つまり、日本の景気が上向く材料になるということだ。
もちろん7年もの間、株や不動産が上がり続けるわけではないが、底上げ要因となる事はまず間違いない。
アベノミクスで大儲けした話を羨ましいと思うなら、目の前にある2020年オリンピックで稼げばよい。


2020年はピンチでチャンス?

膨大な投資が2020年までに集中して行われるということは、裏を返せば2020年夏以降は金もガッツも続かないことを意味する。
オリンピック開催国の多くが経験したように、その後しばらくは大不況だ。
特に、今回日本では首都圏への公共投資てんこもりに加えて、東北の復興需要も2020年には一段落、少子高齢化はまったなしということを考えれば、「山高ければ 谷深し」で、相当大きな落ち込みとなるはずだ。

2020年まで「お口をあんぐり」開けて7年間を無為にすごした輩は、2020年夏以降の大不況だけをしみじみ味わうことになる。
また、調子にのってビジネスを拡大したり、借金を重ねて「サラリーマン大家さん」の所有物件を増やしたりしていると、首が回らなくなる可能性が高い。

老練な投資家や目敏い海外のヘッジファンドは、「2020年までの株式上昇トレンドで儲け、2020年夏までには手仕舞って、日経平均やTOPIXのプットを枕にゲーム観戦。
秋以降はそのプットで大儲けして、2021年の冬から秋にかけて暴落した株や不動産を安く仕込む」と虎視眈々と狙っていると思われる。

「そこまで投資に積極的になれない」というのであれば、「7年で無理して稼ごうとせず、その後の大不況に耐えられるように自給自足生活に入るか、借金をできるだけ減らしておく」ということも有効と思われる。


なお、第二次アジア通貨危機、朝鮮戦争、尖閣諸島で日中軍事衝突、チベットやウイグル独立運動激化、中国共産党崩壊、米国量的緩和縮小に失敗してリセッション入り、第6次中東戦争で第3次オイルショックというようなことがあれば、2020年の東京オリンピックで一儲けしようというシナリオは音を立てて崩れるリスクもあることは念頭においておく必要がある。
なお、蛇足ながら投資は自己責任である。

(念のため付言すると、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではない。)
eワラント証券 チーフ・オペレーティング・オフィサー 土居雅紹(どい まさつぐ)


土居雅紹 (どいまさつぐ)氏
土居雅紹 (どいまさつぐ)氏
eワラント証券株式会社
チーフ・オペレーティング・オフィサー
CFA協会認定証券アナリスト(CFA)

著書:勝ち抜け!サバイバル投資術バブルで儲け、暴落から身を守る 土居雅紹/著
【内容紹介】 中国バブル崩壊、米国発世界恐慌……ミッションは生き残り。日本と世界のこれから、次のバブルの見つけ方、グローバル経済時代の攻めと守りの最善手を説く。
出版社 :実業之日本社