寄稿 ドロ舟日本の行方


日本大崩壊

質問「2014年に世界経済が崩壊してアベノミクスも大失敗に終わると本で読みました。ハイパーインフレになって銀行預金の引き出しが出来なくなり、街が失業者と犯罪者で溢れるらしいです。同時に首都圏で大地震が発生して、それに乗じて中国が沖縄に侵攻し、韓国は対馬を占領するとか。もうどうしたら良いのか分かりません」(42才、会社員)


“実は私も来年の世界経済と日本を取り巻く状況を大変危惧している。ギリシャやキプロスで起こったことが現実の問題として日本にひたひたと迫っている。世界経済が総崩れになり、米ドルによる世界支配が終焉し、世界中の株価は再び同時に暴落し、リーマンショックよりも大変なことになるはずだ。日本では統制経済が復活して、食料や燃料の配給制が敷かれるはずだ。2014年から起こることは戦後最大級の危機といえる。もう日本経済の未来はないから真剣に移民を考えるべきだ。”


という私の答えを期待していたのなら、あなたへのアドバイスは一つだけだ。
「バカな本を読むとバカになるから気をつけた方がいいよ」
これは私が学生時代に恩師から聞いた言葉である。大学受験のための勉強は年号や英単語、古語、文法、数式などを正確に暗記することばかりだったので、このアドバイスには正直とまどった。しかし、30年も経済と株式相場とにらめっこする仕事をしていると、これほど役に立つアドバイスはないと実感できる。新聞、雑誌から書店に山積みされる書籍、インターネットに流れる膨大な情報は“大手”も含めて極めていい加減なものばかり。バカな情報を鵜呑みにしていると大損をするのは自分だが、当の発信者たちは痛くもかゆくも無いどころか大儲けできることもある。


「本で読んだ」
「ネットにこう書いてあった」
「テレビ番組で放送されていた」
こういったことを根拠に話す人も増えたが、いちいち反論するのも疲れる。印刷すればどんなくだらない内容でも“本”になるし、サーバーにアップさえすれば古代マヤ語でもネットに掲載され世界中で見ることができる(中国と北朝鮮を除く)。テレビも捏造番組でしばしば問題になったり、2時間インタビューして15秒なんてことがザラだ。福島原発事故当時に「メルトダウンではない」と大本営発表を垂れ流していた “前科”もある。それなのに無条件でこういった情報を信用する頭の構造は相当オメデタイ。


経済評論家と称する方々は書籍の印税と講演料で生計を立てている。だから、基本的にエンターテイナーでなければやっていけない。聴衆が聞きたいことは何か、スポンサー企業が話して欲しいことを何かを正しく理解し、TV番組などで論破されないように相手を煙にまかないと生き残れないから、売れっ子漫才コンビのボケ役並みの“頭の良さ”が必要な職人芸ともいえる。


仮に中国不動産バブルが崩壊して、世界同時株安となったとしても、EUメルトダウンはEU設立の政治的な目的から考えてありえ無いし、諸々の問題が未解決の日本の通貨である円が50円に高く評価される時代もなさそうだ。その逆の“日本国債デフォルト”は日銀がいくらでも発行できる円建てなので理論的にありえない。TPPも、楽市・楽座の原理から考えても日本が一方的に損をすることは考え難いし、過去の牛肉やオレンジの自由化で和牛やみかんが壊滅したわけではない。

もちろん、円安が予想以上に大きく進行して高率の輸入インフレになったり、偶発的な日中軍事紛争が起きたり、首都圏大地震で数万人の犠牲者が出たりという可能性を完全に否定する事はできない。だからといって、「米ドルも円も紙くずになるから全財産を金に換えろ」、「放射能で日本の農業は壊滅する」、「中国が東京に核攻撃を仕掛けるから自宅に核シェルターの準備を」といったデマに近いシナリオに基づいて行動することは現実的ではないし、「ノストラダムスの大予言」をまだ引きずっているともいえるだろう。

なお、メディアの方々が大好きな言い回しに「〇〇を読み解く」と言うものがあるが、たいてい「〇〇の噂を寄せ集めてみた」程度の内容であることがほとんどだ。これからの時期、来年の予想が諸説飛び交う。真に受けずに斜に構えてみておけば、実害を蒙ることなく、それなりの余興にはなるだろう。

(念のため付言すると、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではない。)
eワラント証券 チーフ・オペレーティング・オフィサー 土居雅紹(どい まさつぐ)


土居雅紹 (どいまさつぐ)氏
土居雅紹 (どいまさつぐ)氏
eワラント証券株式会社
チーフ・オペレーティング・オフィサー
CFA協会認定証券アナリスト(CFA)

著書:勝ち抜け!サバイバル投資術バブルで儲け、暴落から身を守る 土居雅紹/著
【内容紹介】 中国バブル崩壊、米国発世界恐慌……ミッションは生き残り。日本と世界のこれから、次のバブルの見つけ方、グローバル経済時代の攻めと守りの最善手を説く。
出版社 :実業之日本社