質問 新聞やテレビの報道を見ていると、安倍政権は安保関連の法律を無理やり通しているように思えます。日本はこのまま戦争をする国になってしまうのでしょうか?どこかに移住することを考えたほうがよいのでしょうか?(21才、学生)
各党が有する国会の議席数は選挙の結果である。だから、賛成・反対がそれぞれ意見を述べた上で多数決をとることは世界の常識だ。与党が圧倒的多数を占めていて採決すれば必ず勝つ状況なら、ドンドン法律を変えて公約に掲げた政治を実現するのが当たり前。そのために政党は存在している。それに対して、採決すれば必ず負ける(=国民の支持を得ていない政党)が“強行採決だ”、“ファシズムだ”とゴネること自体が異常である。もし、可決された法案に不満があるなら、次の選挙で過半数を取るべく国民に訴え、政権奪取後に旧法を全否定して、新しい法律を可決すればよいだけのことだ。
ちなみに、投資の世界も似た面があって、著名なエコノミストも大会社の社長も市場参加者の一部でしかなく、バブルに浮かれ、クラッシュで慌てふためくという点において、投資ビギナーと大差はない。もちろん、株式相場のクラッシュで大儲けする賢者はいつの時代もごく少数いる。しかし、それよりもはるかに多く棲息しているのは、相場が崩壊した後に「私が予想したとおりになった」と後講釈する輩たちだ。
大手マスコミの報道姿勢も似たようなものだ。かつて日露戦争後には賠償額が少ないと憤り、満州に飽きたらず中国戦線の拡大を主張し、太平洋戦争前には米英への敵愾心を煽っていた。それが敗戦直後から進駐軍によって検閲を受け、「プレスコード」で米英露中やGHQ、朝鮮人などへの批判記事が禁止されると、生き残りのために路線を変更したようだ。その意味では、完全に娯楽メディアと当事者も読者もきちんと分かっている夕刊紙や週刊誌の方が、受け手に誤解を生まないだけ害がないように思われる。
というわけで、投資でも政治でも、「誰が何を意図してどういうスタンスを採っているのか」と想像を働かすことが重要となってくる。
さらに言えば“日本が右傾化している”という見方は、地球儀を眺めてみるとかなり滑稽でもある。日本がこの70年間戦争をしないで済んだのは、アメリカの核の傘に入っていたからである。それも相対的に安いコストだったので、その分経済発展と福祉にお金を回すことができた。とはいえ、民主党政権の3年間のようにアメリカとの関係が冷え込むと、隣国は露骨な対日強硬姿勢を示しているのも事実である。
ちなみに、日本の“右傾化を懸念している”国の一つである中国は、66年前(1949年)に武力で中華民国を台湾に追いやってできた国だ。1949年にはウイグル(東トルキスタン)を占領、1950年にチベットに侵攻、1952年に朝鮮戦争に介入して北朝鮮を支援、1962年に中印戦争、1969年にはソ連と珍宝島/ダマンスキー島を巡って中ソ国境紛争が勃発した。1966年には毛沢東が復権を図って文化大革命を引き起こし、大規模な内乱となった。1974年にはベトナムから西沙諸島を奪取し、1979年と1984年にはベトナムに侵攻している(中越戦争、中越国境紛争)。1988年には再びベトナムから南沙諸島のジョンソン南礁を奪った。さらに言えば、軍事費は公称で17兆円、実額は各種推計で25兆〜30兆円にものぼり(日本の5〜6倍!)、核ミサイル・人工衛星攻撃兵器・原子力潜水艦・空母を保有し、サイバー攻撃を得意としている軍事大国である(日本はどれも保有していない)。
また、同様に日本の“右傾化”を批判している韓国と北朝鮮・朝鮮民主主義人民共和国(以下「北朝鮮」)は未だに戦争状態にあり、しばしば軍事衝突を繰り返している。さらに、北朝鮮は核兵器を保有しているし、韓国は(日本と韓国はともに米国と同盟しているので利用されることはないはずだが)日本全土が射程に入る巡航ミサイルを保有している(これも日本は持っていない)。さらに言えば、韓国はベトナム戦争に参戦しているし、両国とも武器輸出に忙しい。
日本のことを“右傾化”とは言っていないが、ロシアも日本の隣国だ。もちろん、言うまでも無く“超”がつく軍事大国である。
ちなみにアメリカの軍事予算は為替レートにもよるが60-70兆円程度で、日本の12-14倍にも上る。アメリカのGDPは日本の3.8倍程度なので、もしアメリカ並みに軍事費を負担すれば、16兆〜19兆円程度(現在の3〜4倍)、中国並みでも13兆円(現在の2.6倍)もの軍事費になる。
こういった隣国に囲まれた日本が70年間戦争をしていないのに、“軍事大国化している”と危惧するなら、やけにカワイイ軍事国家である。そうなると、なぜ日本の“右傾化”を特定の隣国や、それに便乗して野党や国内メディアが“懸念”するのかと考えてみる必要があるだろう。
80年前と言えば、世界恐慌後に各国で通貨安による近隣窮乏化政策が進められ、それが英米仏のブロック経済による世界経済の分断につながっていった。それで市場縮小に困り、当時の覇権国に挑戦したのが当時の“新興勢力”であったドイツや日本であった。
翻って現在。2008年の世界金融危機(Global Financial Crisis)は世界恐慌一歩手前だった。幸いな事に、世界恐慌の研究者として知られたバーナンキFRB議長(当時)の機敏な対応と各国の政策協調で何とか乗り切った。しかし、よくよく見れば、80年前の米国のニューディール政策、ナチスドイツの初期経済政策、日本の高橋財政と大差はない。同時にEUは完全なブロック経済といえるし、日米主導のTPP、中国の目指す“一帯一路”、アセアンのAEC(アセアン経済共同体)、ロシア主導のユーラシア経済連合、中南米やアフリカでも同様のブロック経済化の動きがある。
また、中国が言う“中国の夢”とは17世紀以前の圧倒的な超大国としての地位の復活を目指すもので、アメリカの世界覇権に挑戦するものである。ロシアは冷戦時のソビエト連邦の軍事超大国の地位の復権を目指しているように見える。つまりは、第二次大戦前の英米仏の支配に異議を唱えるドイツと日本という構図が、アメリカの覇権に挑戦する中国とロシアに代わっただけのことである。
それが、これからどういう結末になるかは、「人類の英知にかかっている」と多くの識者は言っているようだ。しかし、現実は既に“軍事”衝突が始まっている。ただ、戦場はかつてのように国境地帯ではなく、冷戦下の代理戦争でも、最も危惧されていた核戦争でもない。サイバー空間で相手国のネットワークへの攻撃を行い、軍事・企業機密情報の奪取、経済・国家運営の混乱による相手国の弱体化を目指すサイバー戦争なのだ。
こういった状況で質問者さんに「〇〇に移住すればよい」というアドバイスはし難い。どこかのジャングルでさえサイバー戦争から安全かどうかも分からない。サイバー戦争とともに進んでいる軍拡競争が従来型戦力による武力衝突を招く可能性は高くは無いが、ゼロではない。それに、「戦争をしない国に行きたい」といっても、欧州の先進国は米国との軍事同盟であるNATOがあり、実際にしばしば戦争を行っている。また、永世中立国であるスイスは国民がイザとなったら銃を取って戦う国だ。平和そうにみえるニュージーランドでさえ、オーストラリア、カナダ、イギリスとともに米国の同盟国中の同盟国として軍事情報を共有して諜報戦に加担している(ちなみに日本やドイツ、フランスはこの仲間には入っていない)。
さらに、アメリカが冷戦でソ連に勝ったように中国とのサイバー戦争に勝った場合、中国経済は本格的に崩壊し、おそらく政変を伴うから世界経済も一時的に大混乱となるだろう。逆に、中国がアメリカにサイバー戦争で勝つとどうなるかは想像し難いが、恐らく確実に言えるのはアメリカの同盟国である日本の政府や企業の被害が甚大となることだ。
なお、質問者さんが「それならこれから何か行動を起こすための資金を稼げそうな分野は何?」と考えるのであれば、軍事的な意味で世界各国のサイバーセキュリティ関連銘柄は急成長が見込める成長分野の一つといえそうだ。
(念のため付言すると、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではない。)