寄稿 ドロ舟日本の行方


プロのアドバイス

質問 株式相場が活況とは聞くのですが、私はいままで仕事漬けだったので株のことは全くわかりません。とはいえ、小さいながらも会社を経営しているので、それなりの蓄えはあります。
まあ何とかなるだろうと最寄のターミナル駅にある証券会社で口座を開いて、株をはじめたものの、なかなか上手くいきません。証券会社の担当者は若いのに世界情勢に詳しく、新商品の説明は熱心にするのですが、肝心の上がる銘柄の情報はあまりあてになりません。好業績というニュースが新聞に出たら株価が下がったり、二期連続赤字という報道で急騰したりと、株価は世の中の常識では測れないものに思えてきました。このところ証券会社の担当者は、専門家が私にあった運用をしてくれるというラップ口座をさかんに勧めてきます。どうしたらよいのか、ご意見をいただければ幸いです。(57才、会社員)



■ロールスロイスと地下鉄

地下鉄

「ウォール街とは、アドバイスをもらう人々がロールスロイスでやってきて、アドバイスを与える人々が地下鉄でやってくる唯一の場所だ」
これは投資で巨万の富を築いたアメリカの投資家ウォーレン・バフェット氏の言葉である。実はこの言葉は日本各地で毎日のように繰り返されている質問者さんのような状況にもぴったり当てはまる。
たいてい銀行や証券会社に資金運用相談をする側は、山あり谷ありの人生経験を積み、ビジネスで成功したり、退職金としてまとまったお金を受け取った小金持ちが多い。そうでなければ資金運用の相談などはできないから自明でもある。
一方の金融機関の窓口を担当している社員の多くは、社会人経験がせいぜい数年、長くても10年程度で、彼らの顧客ほど資産を持っていない人たちがほとんどだ。つまり、お金を自分で上手に増やした経験がない“投資のプロ”が、人生経験が豊富で実際にお金を持っている顧客に、お金の増やし方についてアドバイスをしている、という傍から見るとかなりおかしな光景となる。
もちろん大手金融機関ともなれば、社員の素養も高く、社員研修もしっかりしているだろうから、「さすが一流の金融機関のプロは親切で知識が豊富だ」などと思っている顧客も少なくない。しかし、営業店で“投資アドバイス”をしている側は、会社の営業マニュアルや金融の教科書とおりのことを繰り返しているだけなので、結論は誰に対しても同じようなもので、「△△投資信託や○○サービスを使いましょう」となる。何のことはない、自社で取り扱っている商品の中で、手数料が高くて営業成績が上がるものを売っているだけだ。
さらに言えば、金融機関の窓口にいる“投資のプロたち”が拠り所としている資本資産価格モデルとか、ポートフォリオ理論といった小難しく聞こえる金融知識そのものが、せいぜい数十年間のアメリカ株への投資を前提に作られてきたものに過ぎない。大部分の金融機関関係者がまともに説明できないオプション理論にしても、私を含め専門部署の人間は、「計算式に現実離れした仮定が多くて欠陥があることは知っているけれど、他に適当なものがないので使っている」だけで、唯一絶対と崇めているわけではない。
一部の市場関係者やメディアがしばしば口にする「長期投資」や「分散投資」にしても、日本のように人口減少と金融政策の失敗で20年間も物価も株価も下がり続けるデフレ経済はまったく想定されていないし、それがこれから欧州、中国、韓国、シンガポール、タイなどで繰り返されることも敢えて触れないのが「お約束」である。さらに言えば、2000年以降顕著になってきた世界経済の一体化の影響を考えるなら、日本株もアメリカ株も暴落時には同時に下げるから分散投資の効果は昔のようには得られないことも皆分かっているはずだ。


■小さく始めて、得意なもので稼ぐ

景気がよくなってくると、週刊誌では「株式投資で億万長者!」とか「FXで300万円を3億円にした」という記事が目立つようになる。こうなると、まとまったお金を手にしている人たちほど、居ても立ってもいられなくなる。
「この3000万円で3割儲けたら900万円かぁ。ウッシッシー」
といった皮算用で妄想が広がる。
この顛末はたいていいつも同じ。リーマンショック直前に大量退職した団塊世代が、退職金の多くを彼らが信頼を置く金融機関から薦められた割高な投資信託につぎ込んでしまい、多額の損失をこうむる結果となったのは、その典型的なパターンだ。
一般に、人生の成功体験が多く、まとまったお金を持っている人に限って「投資なんてチョロイチョロイ」と考える。そうなると、詐欺師はもちろん、不動産業者、銀行や証券会社の営業マンにとっては「鴨がネギ、味噌と鍋を背負って歩いているようなもの」となる。
で、質問者さんへの私なりのアドバイスをするなら「小さく始めて、得意なもので稼ぐ」だ。
なにも株式投資でなくとも、自分の会社にもっと資金を入れたほうが儲けが多いこともあるだろう。もちろん、金融商品は大きなお金を手っ取り早く運用でき、換金性に優れ、管理の手間が少ないという他では得がたい利点もある。だから、商売で銅や金地金の扱いが多いなら銅相場や金相場に投資することから始めれば、勝ち目は普通の人よりも多いはずだ。また、取引先の好不況を実感しやすい仕事なら、日経平均やTOPIXへの投資を小額から始めてみることがとっつきやすいはずだ。eワラントの日経平均5倍プラストラッカーや金5倍プラストラッカーなら1万円程度から相場に慣れることができるし、数千銘柄もある投資信託でも、最近は「ノーロード、株価指数連動、低信託報酬」というものが増えてきたから、これを使っても悪くないはずだ。

(念のため付言すると、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではない。)


土居雅紹 (どいまさつぐ)氏
土居雅紹 (どいまさつぐ)氏
eワラント証券株式会社
チーフ・オペレーティング・オフィサー
CFA協会認定証券アナリスト(CFA)
(社)証券アナリスト協会検定会員(CMA)

ラジオNIKKEI「ザ・マネー」月曜日のレギュラーコメンテーター。月刊FX攻略、Moneyzine、日刊SPA、ロイターなどに寄稿。著書に『勝ち抜け! サバイバル投資術』(実業之日本社)『eワラント・ポケット株オフィシャルガイド』(翔泳社、共著)など。