質問 先週行きつけのラーメン屋で好物の油そばを食べていたら、観光客らしい外人さんのカップルが油そばを注文したものの、どんぶりを目の前にしてアタオタしてました。普通のラーメンと思って適当に券売機のボタンを押し、出てきたものを見て何をどうやって食べたらよいのか迷っていたようです。そこで、カタコトの英語で食べ方を教えてあげると大変喜んでくれました。こういうちょっと良いことの積み重ねは、回りまわって自分に幸運をもたらすはずなのですが...。一昨日は満員電車の中でハイヒールでつま先を踏んづけられて涙目でした。12月にはテレビでよく見る著名なエコノミストのセミナーで「日本株はま~だまだ買いですよ」と聞いて、虎の子の資金で勝負したら、1月に入ってからの株価暴落で大損でした。世の中は悪い人だけがお金持ちになるようにできているのでしょうか?
(30才、油そばが大好きな会社員)
質問者さんの普段の行いがどうなのかは全く知らないが、投資は確率が支配する世界である。一般的にいえば「お金に色は無い」から、投資者の行いや品性は無関係といえる。なお、投資スキルで差がつく部分、言い換えれば投資の巧拙については、どちらかといえば「人が嫌がる投資機会を無遠慮に狙える、揚げ足取りが得意な『いやらしい』性格」の方が投資には向いている。
たとえば、超大型宝くじを買って当たる確率を考えてみよう。2000万枚に1枚の割合で一等5億円当たるとすると一等の当選確率は2000万分の1だ。このとき、油そばの食べ方を外人さんに教えてあげたAさんと、電車でセミオヤジの靴をハイヒール踏んづけて謝りもしないB子さんが、1枚ずつこのくじを持っていた場合、Aさんの方が宝くじが当たりやすいかどうか。答えはもちろん、どちらも同じである。
同様に、雷に打たれたり、自動車事故にあったり、隕石に当たったり、カラスに汚物をかけられたりする確率は、注意して減らすことはできる場合もあるかもしれないが、各人の主観的な判断に過ぎない善人・悪人であるということとは全く無関係だ。さらに言えば、地道にコツコツ貯めたお金で買った宝くじ1枚と、道に落ちていた宝くじ1枚の当選確率も同じだ。
もちろん、前述の油そばのAさんが1年前に買ったD銀行株と、ハイヒールのB子さんが暴落後に安値で買った同じD銀行株の今日の値動きが全く同じことはいうまでもない。さらに言えば、職業トレーダーC氏がこのD銀行株が割高だと思って空売り(ショート)していたら、「少しぐらい上がってもあまりうれしくないAさん」、「ちょっとでも上がると儲けが出てうれしいB子さん」、「下がれば下がるほど利益が出るが、淡々と取引するC氏」と各人各様だ。しかし、やはり今日のD銀行株の値段はこういった様々な感情を織り込んだ結果なので、特定の人が良い人だろうと、悪人だろうと無関係となる。
こういった市場の現実を認識していれば、そもそも質問者さんの悩みは存在しないはずだ。善行はぜひ続けてほしいところであるし、そのうち良いこともあるかもしれない。しかし、確率が支配する事象には無駄な期待を抱かないことだ。
投資に「いやらしい性格」の方が向いているということも、質問者さんをがっかりさせる一面かもしれない。例えば、投資対象のうち、タバコ、酒、パチンコ、カジノなどの産業は、ニコチンやアルコール中毒を一定の割合で増加させ、ガン患者を増やし、ギャンブル中毒、家庭崩壊、自己破産などの問題の遠因を生み出すビジネスを行っている。このため、投資家の中にはこういった企業には投資対象としないところもある。
この結果何が起こるかというと、こういった反社会的な側面を気にかけない投資家にとっては競合する投資家が減って安く投資ができ、より儲かる可能性が高い投資対象となりうるのだ。
また、ちょっと状況は異なるが、株価指数の銘柄入れ替えで、一定期間後のある時点で確実にある銘柄を購入し、別の銘柄を購入しなければならない巨大ファンドの先回りをして儲ける手法がある。これで損をするのは、株価指数連動の運用をしている年金基金やインデックス運用を絶対的なものと信じて毎月積み立てている人たちだ。それを知った上で「ごっつぁんです」と裁定取引を行うことを厭わない投資家は、ほぼリスクフリーのリターンを得ることができる。また、株式の取引量が極端に少ない上場企業の従業員持ち株会が、毎月同じ日の同じ時間に自社株買いを行うことが知られている場合がある。この場合、その前日に先回りして買い、翌日に従業員持ち株会の買い注文にぶつけて売る手法で、リスクを抑えてコツコツ稼ぐことができる場合がある。「従業員の給料から掠め取っているようで、そんなことはしないぞ!」という人には無意味な情報も、「取れるところから遠慮なく取る」トレーダー的な性格であればやはり超過リターンの源泉となる。
このようにF1から自転車まで同じサーキットで競争しているような世界では、世間一般で言う「嫌な奴」の方が勝ち残りやすい。
とはいえ、あくまでこれは匿名性が極めて高い投資の世界においてのこと。実際に相手の顔が見えるビジネスにおいては、近江商人の経営哲学とされる「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」の「三方よし」の方が長寿企業となるように思える。
(念のため付言すると、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではない。)