胃がもたれて・・・とやってくる外来の患者さんは昔から多い。すると多くの先生方は、バリウムとか胃カメラなんかをちゃっちゃとやって、「萎縮性胃炎、すなわち慢性胃炎です」とか「ただれて真っ赤」と「ささムケています」とかの粘膜の変化を理由付けに、お薬を処方・・・。まあ、こんなモンが一般的診察室風景だわな。
しかし、今や萎縮性胃炎のほとんどはピロリ菌の感染から引き起こされるもの。真っ赤っかな状態は粘膜内の血管のうっ滞によるものでこれもピロリ菌が多くの原因、となっておる。さてピロリ菌。国際ピロリ菌学会でのコンセンサスは「ピロリ菌の持続的感染状態でも症状はでない」となっている。すなわち慢性胃炎があっても真っ赤であっても、ソレは基本的にピロリ菌感染によって引き起こされるもの、すなわち無症状な粘膜変化であるから、症状の原因にはならない、理由づけにもならないというわけ。すなわち、アナタの胃もたれへの「慢性胃炎が原因です」との説明は、センセイ方の不勉強の証であるというコト。読者の皆さまは憶えておかれるとよかろう。
ところでこの胃もたれ、「もたれ」という日本語を調べると「重さをかけるように寄りかかること」という意味。 そこで実際に胃もたれで受診した患者さんに「あなたの胃もたれって、重さがかかるように寄りかかられている感じですか?」 と問うとほとんどの患者さんは、「いや、そうではなくってぇ〜、ウ〜ン・・・」と返答できない。助け舟を出して 「何とも表現できない不快感でしょ?」と聞くと、「そうよ、ソレそれ」と診察室は丸く収まるのが常。 ところが多くの医者は「もたれ」を先入観で“胃の動きが悪い時の症状”ととらえている。その先入観というバイアスを持った研究者がデータを出しているのだから 「もたれ」関連の論文が信用できなくなっちまうんだよな。
さて、消化管の動きが悪い状態と勝手に思い込んでいる多くのセンセイ方は、「もたれ」に消化管運動改善薬(多くはガスモチンとかガナトンとか)を処方する。しかし実はソイツら単体での処方例は少ない。多くはガスターに代表される胃酸分泌抑制薬との併用で処方されている。そして再診時、患者さんの「もたれなくなりました」にセンセイは消化管運動改善薬が効いた、と評価して丸く収まる。
オイラの場合、「もたれ」の患者さんには胃酸分泌抑制薬しか使わない。しかしほとんどの患者さんは「もたれなくなりました」と再診される。ナニか変じゃろ? 併用しなくたって「もたれがなくなる」んだ。・・・ということは“胃酸の関与が「もたれ」の原因のもっとも大きな一つである”ということになる。オイラは、胸焼けで代表される逆流性食道炎の症状を「胃」が「もたれる」と脳みそが判断して患者さんの口から症状として表現されているのでは?と感じている。ま、そのアタリは別の機会に指南いたすとして、話を戻して、では、消化管運動改善薬は効いていないというコトか? いやいや、別な意味で別な運動機能改善薬は有効かも知れん。機能性失調症(Functional Dyspepsia)=FDで「もたれ」は自覚すると思う。
ということで、次回は機能性失調症FDの話をさせていただくのでしばしお待ちくだされ。