「医者の言うことは聞いておけ」by Dr.ホッピー


胃もたれは慢性胃炎?それともTVCMの逆流性食道炎?2

もしかすると市販の漢方薬なんかも効いちゃうかも

「逆流性食道炎」を疑うTVCMをやたらとみるが、心配になった皆さんは前回と合わせて読んでいただくとよいじゃろう。ということで、前回方の続き、ED(勃起不全)ならぬFD(機能性失調症)の話じゃ。
機能性失調症=FDについては最近の国際的な検討で「器質的、全身的、代謝的疾患では説明できない胃・十二指腸由来の症状」と定義された。つまり「いろんな検査やっても異常が見つからない上腹部の症状」っていうことかナ。原因はいくつかの因子が複雑に絡む。過敏性腸症候群(十二指腸を除く小腸と大腸の運動機能失調症)と併発(オーバーラップ)することも多い。オイラがめったに言わない「ストレスですね」も大きな因子と認知されている。そんな病気・・・。症状はこうじゃ。

(1)食後のもたれ感:食物がいつまでも胃内に停滞しているような不快感。
(2)早期満腹感:食事開始後、早期に食べた量以上の満腹感があり、それ以上食べられなくなる感覚。
(3)心窩部痛:胃のあたりの痛みで、人によっては臓器障害が起こっていると感じることもある。
(4)心窩部灼熱感:胃のあたりの熱感という不快感 


Dr.ホッピー

(1)と(2)はそれぞれ排泄遅延型、適応性弛緩不全型と分類される。(1)へは「いつまでも食べ物が胃袋にあるような感じ?」とか、(2)へは「食べているとすぐにお腹いっぱいになっちゃって、もういらね〜って感じ?」などの問診で判定される病態。これらも患者さんの口から最初に「胃もたれ」と出て来やすい。どうじゃ? オオっ、そうだ、オレもそんな時がある、と思い出された読者はいるじゃろう。そう、アナタはED、じゃなくってFDなんです。

さてFDに関する論文を読むと内容に納得してしまうが、実はオイラは、いつまでも食べ物が胃袋にあるような感じの排泄遅延型ってのに少々疑問を持っている。消化管運動生理学をカジルるとホンマでっか?と感じてしまうんだナ。難しいことではない。だってソレをオイラばかりか読者も実体験しているはずじゃからの。

昼飯に喰ったギョーザ定食。喰った後のゲップってサ、人目(?)をはばかる匂いだろ? それってずっと続くよね。夕方の4時ころまで。しかしその時刻を過ぎると速やかに臭くなくなって5〜6時ころには消滅。そして「腹減ってきたナ」と感じるはずじゃ。

まさしくこれが“胃の排泄曲線”というグラフで表される胃の運動生理学上の正常な胃袋からのおしるし。つまり、4~5時間は食べたものは胃の中に停滞しているのが普通、ということ。停滞していても無感覚なのが普段なのにFDではどうして「いつまでも残っている」と感じるのか? それは、胃袋が拡がってくれないからじゃないの?拡がってくれないから喰った後に胃の内圧が逃げないから「残っている」と感じるんじゃないの? と思わざるを得ないんだ。胃袋の拡張・・・これも動きという機能。そこで蠕動以外の胃袋の動きを解説しよう。

食べて胃内圧が上昇すると圧を逃すために“その分だけ”胃袋は拡張する。そしてまた食べるとまた圧がかかる。そして“その分だけ”胃袋は拡張する。この段階的な拡張の繰り返しが胃の運動生理学で確認されている。この内圧上昇に適応して胃袋が拡がる機能を“適応性弛緩”という。うまく弛緩してくれない状態が(2)の適応性弛緩不全型のFD、となるンじゃ。


さて適応性弛緩不全型のFDの治療は? これは市販の大○漢方胃腸薬なんか効いちゃうかもしれない。実験的には弛緩不全状態の胃袋に一酸化窒素を作用させると改善するようで、一酸化窒素はある種の漢方薬に含まれており市販薬でも期待できるかもしれない(しかし、2倍量飲まないと効かないよってソノ大手製薬メーカーの社長さんがソッと教えてくれましたが、くれぐれも用法・用量はお守りください。ホントに責任はトリマセン)。オイラ達が処方するクスリでは漢方の“6人の賢者が飲むお湯”がお勧めとなっている。43番じゃな。


トンガラシは控えめに・・・、んなこたぁない!

今夜のお食事

ところで普通の食いモンで胃を拡げる働きをもったモノがある。カプサイシンじゃ。かつての“大食い選手権”の決勝戦を思い浮かべてくれたまえ。限界ギリギリの時にトンガラシぶっかけていた選手いたでしょ? 彼らはコイツをフリカケるとまだ食えるようになると経験していたからと思うが、当時医局でそれを見ていたオイラ達は「バッカでね〜の」だった。ご存じのようにカプサイシンは唐辛子の成分。小腸の粘膜には“カプサイシン受容体”というセンサーがあり、唐辛子を食べるとこいつがスイッチオンとなって理論的には消化管運動亢進と胃袋が拡がる可能性が高い。ただし、最近の論文では逆にカプサイシンがFDの症状を悪化させるというのも出てきているので、ナニがホントじゃ?と悩んじゃうが、韓国の人たちは普通にメシを食うことができていて元気なンだから、オイラはキムチを信じる。

さて、「胃もたれが・・・」ばかりか「胃の調子が・・・」と受診した患者さんで、問診で適応性弛緩不全じゃろなと診断した患者さんに「胃が悪いからって普段のキムチ、やめていない?」と問うとほとんどの患者さんは「止めている」と言う。だって言い伝え的に胃の調子が悪い時には「唐辛子のような刺激物は控えるように」って医者が言っているからの。こいつぁマサに“昔からの言い伝え”医療以外のナニものでもない。なんの根拠もないと認識せよ。

「唐辛子のような刺激物は控えるように」なんて言われ始めた時…いつなのか知らんが、少なくとも言えることはその時代に内視鏡ばかりかバリウム検査があったか? ねえよ。おそらく明治時代の帝大教授あたりのこんなモンでしょう的な主観。少なくともバリバリ緊急内視鏡やっていたオイラの若かりし頃、キムチを代表とするトンガラシ系を喰いまくって胃が痛てえ〜とか吐血したりとかで緊急内視鏡騒ぎになった人はいない!! という事実の方が説得力を持つわな。 韓国の人たちは胃の調子悪い時にはキムチ、食べないのかなあ?食べるよね?

さて、オイラの目の前の患者さん。「トンガラシ使ってみて下さい、以前と同じように」とおススメしている。原因が複雑に絡むFD。胃酸分泌抑制剤(カプサイシン受容体を刺激する付加作用を持つ胃酸分泌抑制薬もある)と43番の処方箋を基本的にお渡しするが・・・。