お笑い芸人M氏、手術翌日に電話で元気な声が…驚異的回復…ってさ、あのね、腹腔鏡で手術された人はみんなそんな術後経過なんだけど…。 元気な声、は驚異なんかじゃなく“普通”。手術翌日に歩行、なんてのも“普通”。この“普通”は腹腔鏡手術の恩恵以外の何物でもないンであって、驚異的回復なんてのは、将軍様を崇めたてる国営放送じゃないんだからサ、「お笑い芸人M氏、フツーに回復中」って書けよ。ったく。
さて本題。内視鏡検査後しばらくして結果を聞きに行って先生から「胃がんです」と言われて大ショック。しかし「早期胃がんです」でほっと一息…ま、こんなモンですかな。多くの方は早期胃がんって言われると治るガンと認識しているはずだもんな。じゃが、医者は胃がんの定義に則って早期胃がんと告知している。そのアタリを踏まえるとこの会話はひょっとするとこんな感じに解説できちゃうかもしれない。「アナタのガンは粘膜下層までにとどまっている状態ですがリンパ節転移を伴っています」、となる。
オイオイ、転移しているのに“早期”かよって? そうです。早期胃がんの定義は「癌が粘膜下層にとどまっている状態であるが、リンパ節転移の有無を問わない」である。だから「エッ、早期胃がん? 不幸中の幸い…」みたいなノリで報道してほしくないのである。
さて、ガンの治療。基本は“ガン病巣を十分な正常組織を含めて切除する”じゃ。
胃ガンの切除法は2つ。ひとつは経口内視鏡(普通の胃カメラ)を使う方法。内視鏡的粘膜剥離法(ESD)が主流。これは胃カメラ検査の延長線上的な感覚、ということで認識してくれ。もう一つは胃袋を切除。切除範囲は病巣の場所と胃を栄養している血管の走行によって規定され、胃の上部にできてしまっていると全摘。胃の真ん中より下にできていると2/3切除、と思ってくれ。すなわちガンが5㎜だろうが10㎝だろうが早期ガンであろうが進行ガンであろうが関係なくできた場所でいずれかの切除法になってしまうのじゃ。
2/3切除はそれでも1/3は胃袋が残っているから術後にメタボを維持している御仁もいらっしゃる。しかし、全摘の場合は残りの人生胃袋なし。これは無念。食べたモノを一時的に貯めておく胃袋がないから、頻回に食事。しかも食事量制限あり。小腸だよりの消化吸収。生涯肥満とは無縁の人生となってしまう。
おわかりかな? M氏は胃がんのフツーの手術をしてフツーに回復しているだけのことなんじゃ。でもやっぱり何事もなき経過はまさに「おめでとうございます」と言えるのぅ。
では、少なくても2/3切除になってしまう胃袋切除術に対して、胃カメラ検査の延長線上的な感覚のESDの違いは何か。ESDは表在性、すなわち胃粘膜表面にのみ存在しているガンに対して選択される。その程度のガンは転移の確率が著しく低いため、胃粘膜だけを切除すればガンを治せる。あなたの手の皮をペロリと剝ぐイメージ。筋肉は残るから手は動く。すなわち胃袋は温存されるわけだ。結果、胃がんの治療後も治療前と同じ生活、飲んで食ってそしてメタボれる。ちなみにこのESD。日本の内視鏡医が開発し発展させ普及させたンだぜ。
さてM氏。ESDができずに2/3胃袋を切らざるを得なかったんだから、発見された状態は表在型でなかった、あるいはがん細胞どもが集合して塊を作らずバラケた状態で浸潤していくスキルスタイプであったというコトが予想される。まあ、そんな個人情報を出歯ガメるのはやめて、M氏にとって6年ぶりの健診(胃バリウム)でひっかかったそうで、ここいらがキモか?
1. すべてのガンは無症状。症状が出たらもう治せないと思え。
2. バリウム検査で早期がんを見つけても手術で胃袋を少なくとも2/3切らなくてはならない。
3. なぜならバリウム検査はバリウムの塗り壁を見て判断する検査法。ガンがあってもその場所が塗り壁っていなければ画像として映らない。これすなわち“見落とし”。
4. バリウム検査しか選べないのなら病院で。なぜなら病院では放射線科の技師さんが撮影するのが一般的なんだが、彼らは医師の要求に応えるべく落ち度のないキレイな写真を撮ってくれるからマルなんじゃ。逆に開業医ではペケ。診るに堪えない写真を撮っても誰からも文句を付けられないからそんな写真でナニ診断しろってんだ?
5. じゃあ内視鏡か? と言ったってカメラ突っ込んで写真とりゃいいってもんじゃあない。胃内の見る場所によって適切に粘膜を伸ばして(伸ばしきってもダメ)観察したりしなくてはイケナイ。このセンセイ、どこ見てんの? なる写真は少なくない。
ではオイラ的は読者らにどうして欲しいか? 検査方法は内視鏡治療。しかも内視鏡治療に携わっている、あるいは携わっていたセンセイに胃カメラしてもらうのが最良、と思う。そのお勧めにはメリットもある。だいたいそういうセンセイは内視鏡の“手練れ”だから検査の苦痛も少ないはず…、と思う。
そして内視鏡検査の間隔。ピロリ菌陽性の人は1年に一回。ピロリ菌がいない人は4〜5年に一回。ピロリ菌を除菌したひとであってもピロリ菌がいなかった人と同等の胃がん発生率に低下するわけではないので1年に一回。
さて、定期的に胃袋検査をしていない方々、するつもりのない方々。コイツらが問題。胃袋あたりにナニか症状を感じたらまず「ひょっとして…」と思ってください。そして医療機関を受診して「胃カメラやってください!」と先生にお願いしてください。命沙汰にならない胃がんは全くの無症状。できた胃癌を診断してもらえ、と御先祖様のお導きかもしれンのじゃから。その“ナニかを感じた”のは。 実際、そうとしか思えない早期発見のきっかけをいくつか経験している。そのへんの話はいずれ…。