以前、もしも通り魔に刃物で刺されたらどうすればよいのか?万が一の事態の対処について指南したが、偶然にもそのタイミングで本当に通り魔事件が秋葉原で起こってしまって絶句したことがある。そして先日、かのリゾート地グアムで、まさかの通り魔刺殺事件が起こってしまった。あまりにもつらく悲しい事件だけに言葉もない。今の世の中、人の心がけだけではこのような事件が後を立つことはないのだろうか?
そこで、万が一の時のレスキューについて知っておいたほうがよいと言う範囲のことをcode-Gでも書いておく。
瀕死の状態をいかに治療していくか、医療の現場からお伝えしよう。救急蘇生のポイントは「ABC」の確保が最優先。Aは「Airway=気道」、Bは 「Breath=呼吸」、Cは「Circulation=循環」。つまり、三途の川を渡らせないためには、「空気の通り道を確保して、ちゃんと空気を通し、心臓を動かして血液を循環させる」ということじゃ。逆にこれらが障害されると「命が危ない」となる。
Aの障害は、餅を喉につまらせたり、溺れて水をたくさん気管に誤飲してしまうなど、空気の通りを悪くさせたり閉塞させたりしているなどの状態。
Bは、①脳や延髄にある呼吸を調節して いる場所の障害(脳卒中とか頭部外傷とか)、②呼吸筋(肋間筋・横隔膜筋)を刺激する神経の障害、③呼吸筋そのものの障害(安楽死目的の筋弛緩剤投与なんて犯罪があった)、④呼吸筋によって動かされる胸郭の拡張障害(土や雪中への埋没やお遊びの“ふとん蒸し”での死亡)などによって生じる。
Cは、①血液循環においてポンプ機能を司っている 心臓の障害(心筋梗塞や不整脈など→だからあちこちにAEDが設置されている)や、②出血による循環血液量の減少によって引き起こされる。
通り魔事件は“刃物で刺される”ことがほとんどだろう。緊急蘇生のABCを理解した読者なら、どこを刺されても危険であることはお分かりのコトじゃろう。 気管に達すれば出血が気道を閉塞してAの障害が発生する。肺の場合では血気胸によるBの障害。心臓の周りへの出血は心タンポナーデ状態での拡張障害・不整 脈・心外への出血、腹部では肝・腎・脾臓などの血管が豊富な臓器からの出血、腸間膜動脈・腹部大動脈からの出血、四肢では動脈出血、というようにCの障害 が起こってしまう。
さて、お気づきのように“刺された”時は出血に起因するCの障害が最も起こりやすい。そこで注意指南。刺されて体内にまだ刃物が残っている状況では刃物が栓となっている。つまり「刺された、大変だ!」とか「何じゃコリャー」とパニックになって引き抜くと出血を誘発してしまう。壮絶な状況であっても刃物はそのままに落ち着いて助け を呼べ!
被害者を受け入れた病院(救命センター)では、まさにすさまじい状況となっている。刺入経路に出血源があるんだから止血のためにそこを手術するのは当たり前なのだが、生命維持のための「ABC」がある程度確保されていなければならない。出血に起因するCの状況においてのキーポイントは循環血液量の維持。つまり輸血じゃ。
予定された手術では、あらかじめ“適合試験”をしているから安全な輸血が行える(ABO型・Rh型の適合だけでは安全とはいえないのだ)が、救急の現場、とくに大量出血の際は適合試験をやっている時間的余裕はない。患者さんのABO 型・Rh型が判明したら、同意の下に即座に同じ型を輸血する。しかもTVなんかで見る“ポタポタ点滴”でなく、50ccの注射器を使ってポンピングで注入 するんじゃ。輸血が遅れたから助からなかった命、つまり救命の現場では“出血死”をさせてはいけないんじゃ。
しかし、最近は輸血そのもののストックが少ないらしいから、積極的に献血してね。