「医者の言うことは聞いておけ」by Dr.ホッピー


ホタルイカ、解禁!! 踊り食いで失明は有名?

あれは何年前だったか、5月中旬のある日の外来。嘔吐と腹痛の40代の患者さん。聴診上は腸閉塞。レントゲンで閉塞部位は小腸。腹部手術歴なし。しかし魚臭い(臭診も診察法。だから香水プンプンのネーちゃんは嫌い)…。職業を尋ねると、な〜んだ、近所の割烹寿司屋の板長。「ホタルイカ、食べてませんよね」「いや、生きて仕入れたのを味見で…」「おどり?」「ハ…イ。まさか…」「…たぶんそうでしょう。生きが良い証拠なんて言っているバアイではないですよ」。


ホタルイカ


オイラも一度食べたことがある。ホタルイカの踊り喰い。口に入れると小さい吸盤が唇や口内にまとわりつき、ええい、往生際の悪い奴めってな感じで歯をあて、噛めば口の中でワタと身が混ざり合いあたかも上品な塩辛を己の口の中で熟成させていくかのようだったワイ。


さて、板長の腸閉塞はホタルイカの内臓に寄生する“旋尾線虫の幼虫“が原因。体長5〜10㎜、体幅0.1㎜、まさしく糸くずサイズで肉眼では認めがたし。ホタルイカの約2~7%に寄生していると報告されている。幼虫は組織侵入性を持つため体内で侵入・移動し幼虫移行症を引き起こす。つまり板長は消化管壁に入り込まれて炎症を起こし腸閉塞となったのじゃ。

板長の腸閉塞は、旋尾線虫幼虫移行症の急性腹症型といい、摂食の数時間〜2日後に発症。開腹手術で小腸切除なんてコトも十分ありうるんじゃ。もう一つの病態は皮膚爬行症型。摂食の後2週間前後に発症。幼虫が皮下にも移行し皮下を動き回り移動するもの。もぞもぞと。治療は皮膚を切開して虫体の摘出。この二つで旋尾線虫幼虫移行症の大部分をしめるが、前眼房内寄生(目玉!)への寄生も報告されている。コイツは失明の危機も!


Dr.ホッピー


旋尾線虫幼虫移行症は1994年に大々的に報道され認知され、加熱あるいは冷凍処理という不活化処理指導が徹底されたこともあり翌1995 年には激減。しかしながら昨今のグルメ志向と“認知、噂も75日”ってな忘却によって、内臓付き生食い、つまり踊り食いの復活と虫体の不活化処理の不徹底が相まって、板長、アンタの仲間たちが増えているようじゃ。

踊り食いっていえば“シロウオの踊り食い”ってのもあるのう。コイツにも寄生虫がいる場合がありますので御注意ウオ!! オイラ、コイツも喰っていますけど、生きたまま喰うってものすごく野蛮だと思いませんか?