2週間前からの咳で受診した患者さん…一通り問診と聴診をしたオイラ、少し悩んで2週間も咳が続いているからレントゲン撮りましょうか?と問うと患者さんも安堵の表情。
普通は「エッ!レントゲン?カゼじゃないんですか!! (なんだよ、この医者!)」なんて心配を増長させることも少なくないのだ。しか〜し、この状況でレントゲンという次なるアクションを起こすというのは当たり前なのでござる。決して「アナタ、長引く咳カゼですな」などと安易な診断をし
てはいけないのである。でも多いんだよな、こういう医者。
この国は、他の国に存在しない総合感冒薬なるモノを買うことができる。単に症状を緩和させるだけのクスリなのに治ると信じこませて1000億円の売り上げを得るために「アナタの咳はカゼです、飲むと治りますから早く飲みましょう」とCM。物心ついた時から「咳はカゼ」と刷り込まれているから始末が悪い。
結果、アナタ方は咳がでれば反射的に風邪と思うようになってしまった。ゆえに受診の時期を逸して命沙汰となり最悪の「残念ながら…」が起こりうる事態になっているのだ。
そうならない為にもまず、知っておいていただきたいのは命沙汰の病気だと診断できる特有の咳はないということ。つまり命に関わる病気の咳であっても「単なる咳」なのだ。ではナニに気を付けるか?呼吸器内科の先生方からお叱りをいただきそうですが、以外によくある要注意の病気の咳について指南いたそう。
1.肺がん
今現在闘病中の患者さんの多くは、単なる咳だが長引くからレントゲンを撮り診断されている。先に言ったように肺がんに特徴的な咳の出方はない。件の患者さんは「実はテレビで長引く咳カゼと思っていたら肺がんだったって番組があって心配になっちゃって…」だったのだ。安堵の表情は「長引く咳カゼですな。咳止め出しとくね」とありげな対応でなく、レントゲン、する?に安心したからだったのだ。
2.喘息
毎年、成人で約2500人が命を落としている。末梢気道狭窄つまり奥の奥の方の気管支が細くなる病態。軽い程度の狭窄で最も多い症状は咳。コイツもなんら特徴のない「単なる咳」である。しかし狭窄の程度と経過はさまざまで、細くなりすぎて最終的に閉まってしまうと空気が肺胞(酸素と二酸化炭素のガス交換をする小部屋)まで届かなくなり窒息状態となり命沙汰となる。「単なる咳」が短時間でその状態まで陥ってしまう場合もある。
では、単なる咳のときに末梢気道狭窄が起こっているかを判断するには…。肺胞伸展受容体がどうのこうのとか胸腔内圧がどうのこうのとか解説しません。
息を吐き切りなさい。その時に咳が誘発されれば気道狭窄あり!じゃ。上気道のジクジクしたカタル性炎症ではないわな。すなわちカゼといわれる気管支炎ではない。
よって「咳止め」は気管支拡張剤じゃ。
3.肺結核
高齢者の新規登録が増加しているとはいえ、結核は昔の病気ではない。
毎年2万人が発症し、毎年2000人が命を落としている。
しかし、当初の症状は単なる咳。2週間続くならレントゲンを撮れ! 以上!
4.百日咳
百日咳菌による特殊な気管支炎である。10年くらい前から世界中で流行っているンだけど…。認識を変えて頂きたいのは子供の病気ではなく、全年齢で感染し、しかも人→人感染であるということ。未治療でも平均50日で自然に治るが、あまりにも咳が長く続くので「百日咳」。しかし乳児への感染では死亡率0.5%ともいわれ、数字的にはインフルエンザよりかなり危険だわな。そんな感染症なのにメディアが騒がないからアナタも知らず、お子さんを命沙汰にしてしまうのだ。
百日咳の咳の「長引く咳」以外の特徴は「日々増強するオエッとするくらいの激しい咳込み」。しかも数分に一回位はおそってくるモノ。しかしながら発症時は軽い咳。
基本的に発熱はない。ハナミズを伴うこともあってまさしく「カゼ引いた」ですわな。しかし日に日に咳が増強し7~10日でオエッとする激しい咳込みが完成。
実はこういった咳の増強期(カタル期)に適切な抗生物質を使っておかないと、次に続く激しい咳の時期(痙咳期)に突入してからの投与では、菌を消失させても咳を鎮める効果は期待できないと医学書には書かれている(が、そうでもない人も多く、どの時期でも抗生物質をとりあえず使っておいても良いみたい)。
つまり理想的には、咳が日々増強していくカタル期に受診し、その時に医者も「まさか…」とレスポンスすることが大事。診断は百日咳菌の遺伝子を調べる核酸検査(インフルエンザ検査と同様に鼻ウガッ)か血液での抗体検査。結果判明までに3〜4日。それこそ早めの治療が一番、ってことでオイラは検査日に抗生剤を開始していマス。
抗生物質を飲み始めて5日目から菌の排出はなくなるからそれ以降はたとえ咳が残っていても感染性なし。抗生物質を飲まなかった場合は、排菌がなくなるまでに発症から3週間を要すとされている。
「咳はカゼ」とCMなど広告によって刷り込まれているから、多くの患者さんは「長引く激しい咳カゼ」と自己診断してしまう。その結果、マスクもしないで電車・バスに乗り、咳と同時に命沙汰の菌をばらまいているわけだ。
他の国に存在しない総合感冒薬なるモノを、治るわけがないのに治ると錯覚させ買わせる企業努力の結果、国民を無知にし、アナタとその家族、友人を不幸へと誘っているのだ。