何杯目かのグラスを空けた時、私はふとその店のウェイターの着ているTシャツに目を留めた。1週間ほど旅の中で長髪の若者などひとりも見かけたことのなかった中国だが、坊主頭のその若者はTシャツの袖を破いてノースリーブにして着ていた。「パンク」と呼べないことはない……。
「Is there any ROCK MUSIC in China?」
私がもう何度となく会う人会う人に質問して来たその質問を発した途端、従業員控え室のような小部屋から、別の若者が飛び出して来て私にこう言った。
「Oh!! do you wanna Rock’n Roll?!!」
見れば、ちょっとパンクスのような出で立ちではある。
以下、お互いの英語力があまりにもレベルが低いので「英語の筆談」となってコミュニケイションが始まる。
「お前はラッキーだ。実は今夜ロックパーティーがある。バンドが4つ出る。俺は今からそれを見に行くんだ。よかったらお前も一緒に行くか?」
この言葉に私は小躍りしてテーブルを叩いて立ち上がろうとしたが、その場にいたすべての人間はそれを止めた。
「せっかく友達になれたんだ。どうしてあんな悪いヤツについて危険なところに行かなきゃならないんだ」
ホテルのボーイはそれこそ目に涙を溜めながら、必死で私を説得した。
私は身の危険を感じてはいたが、「ロック」という言葉の魅力的な言葉の響きの方がわずかに勝っていた。
「パーティーは4時に終わると言うから、5時までに帰らなかったら大使館に連絡してくれ」
私は日本から一緒に来た仲間にパスポートと現金を託して、そのパンクスについて北京の地下クラブに行った。
あの頃は中国だってロックを見るのは命懸けだったのだ。
地下クラブでの黒豹(HeiBao)との出会い。
「俺は中国でロックを見つけたんだ!!」という身体じゅうの血が逆流するような感動。
その後の彼らとの熱い友情。
ロックブーム……そしてロックの商業化……。
今、中国にはあの頃のような熱いロックはもう……ない!!
「北朝鮮?いいですよ、行きましょ!!」
私は荒巻にふたつ返事でOKを出した。