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意外と死ねちゃう家庭の化学
  • 正体不明のアジサイ毒
  • 6月になりました。テンパで汗っかきのボクにとっては最悪な季節、それが梅雨。そんな季節を象徴する花も実は結構危険だよって話です。

  • アジサイ食中毒、原因は不明?
  • アジサイ
  • アジサイなんて食うやついねーだろーと思っているアナタ。これが意外に結構あるんですよ。天ぷらとして出てきたなんて例もあるくらい。確かに色は綺麗だし、季節を感じるし、菜の花みたいでいいのかも・・・と安易に思うことなかれ。意外にこれで「死ねちゃう」かもしれないものなのだ。実は、2008年にはアジサイが原因とみられる食中毒が2件もでている。どちらも飾りとして料理に添えられていたアジサイの葉を口にしたことが原因とのことだ。まあ、食中毒だけなら古いもの食べてしまったとかそういうことが原因かと思いきや、この事件は気味が悪いことに原因が特定できていない。昔の研究報告にアジサイには青酸配糖体(ミステリー小説とかで有名な青酸カリの仲間ね)が含まれているという記述があったため、青酸配糖体が食中毒の原因であると断定している意見がネットを見ていると結構多い。しかし、化学者として言わせてもらうとこれは間違いだ。もちろん、青酸(シアンとも呼ぶ)は猛毒で文句なしに食中毒の原因となりうる。青酸は血の中に入っているヘモグロビンにくっついて、酸素を全身に送るという血液の最も大切な機能を止めてしまう。で、アジサイに入っている青酸配糖体も胃酸と反応して青酸ガスが生成するので、毒であるという理屈は正しい。しかし、決め手になるような動物実験がなく、そもそもアジサイに含まれる量も少ないので、「アジサイの毒=青酸配糖体」と言ってしまうのは怪しいとボクは言いたい。アジサイには青酸という毒が入ってはいるけど、量が少なすぎてこれが食中毒の犯人とは言えないという状況だろう。ちなみに厚生労働省のサイトなどを見るとアジサイ毒は不明とされている。

  • 毒の正体を見つけるのは命がけ
  • さらに事態はアジサイだけにとどまらず、アジサイに似た品種でも気味の悪い事故が発生している。例えば、甘茶。甘茶はヤマアジサイの一変種であり、見た目もアジサイに似ている。そして、2009、2010年に相次いで甘茶が原因とみられる食中毒が発生した。こちらも原因物質は特定できずアジサイ中毒と同じく気味が悪い状況になっている。特に甘茶はサプリメントになっていたりするのでより気になるところ。規則がいっぱいある医薬品と違い、サプリメントはしっかりとした安全性試験(動物実験とかね)をやらないことが多い。サプリに加工する過程で甘茶の毒成分が濃縮されたり変性したりしても、チェックせずに世に出てたって不思議じゃない。

    じゃ、早く毒の正体を見つけろよという話が聞こえてきそうだが、それは簡単ではない。ボクが昔いた研究室では天然ものから毒成分を取り出す研究をしていたが、これが大変なのだ。正体がわからないので、どういう実験をしたらいけないのかがまず分からない。空気に触れただけでダメな場合もあるし、ずっと液に漬けておかないとダメな場合もあるし、毒成分が単一の物質でないことだってある。全ての作業、実験が手さぐりなのだ。しかも研究が進むにつれ、毒の正体に近づいていくのでその毒自体による危険度が増す。毒成分そのものを扱ったことがある人は世界のどこにもいないわけだから、研究している本人だって何が起こるのかさっぱりわからん。ある意味、ゴールが見えない命がけの研究と言って良い。

    そんなわけで毒成分が分からん以上、リスクを減らしたいなら食べる量を減らすのが一番。正体不明の青菜はなるべく口に入れない。甘茶自体は薄くして、大人が飲む分には問題がないと思われるのでそうするべき。そして、甘茶成分濃縮サプリなんていうものを見つけたら、それは手に取らない方が賢明だ。

  • あしど毒多(あしど どくた)

    某大手食品メーカー研究室に勤務。

    学生時代、実験でスペルミジンの合成に成功するも、衣服に付いたその臭いで変態呼ばわりされた苦い過去を持つ。

    学生時代に得た「化学のすすめ」を合い言葉に、日常生活における化学を一般の人にわかりやすく伝えたいと日々尽力する化学オタク

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