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寄稿 ドロ舟日本の行方
  • 自社株投資はリスクが高い
  • 質問「今年から社会人になりました。勤務先に従業員持ち株会というものがあり、毎月の給与から天引きで、自社株を買うと奨励金が出ます。先輩は「目一杯入るといいよ」と言っていますが、どうしたらよいのでしょうか?」(24才、会社員)

  • ライン
  • ずばり、自分が何に投資しているのか分からないのであれば止めておいた方が良い。従業員持ち株会に入らないと「愛社精神に欠ける」といわれて角が立ちそうだったら、三千円程度に設定されている最低限度だけ入っておくことがオススメだ。

  • 200万人が利用している株式投資制度だが、リスク分散の観点からみると最悪
  • 東証の「平成23年度従業員持株会状況調査」によると、平成24年3月末の東証上場企業2,276社のうち、87.8%にあたる1,998社に従業員持株制度がある。これを利用している人数は218万人にものぼり、一人当たり137万円相当の勤務先企業の株式を保有している。
    日本国内で株式を保有している「ほふり口座」の数が1690万口座で、重複を考慮すると実際の株式投資家数は300万人から400万人程度であるようだ。となると、従業員持株会を通じて株式投資をしている人数は相対的に「非常に多い」といえるだろう。

    この従業員持株会だが、企業の経営者からすると「会社に何でも賛同してくれる便利な安定株主を作る」というのが目的である。
    もちろん、従業員の福利厚生とか資産形成といったもっともらしい理由をつけるが、「企業業績が良く、かつ、市場全体の株価水準が高く」ないとその企業の株価はまず上がらないので、福利厚生や資産形成に役立つかどうかは「神のみぞ知る」のが実際である。
    たとえば、日本の株・不動産バブルがはじけた1990年に当時の東証上場企業で従業員持株会を利用して、今までの投資成績を鑑みればかなり多くのケースで投資パフォーマンスは悲惨なものとなっているはずだ。

    また、資産運用の目的の一つが「もしもの時に備える」ことであるなら、勤務先の業績不振や倒産などの際に資産価値をなくす自社株への投資はもっともリスクが高く、避けるべき投資手法である。
    自社の破綻をうすうす知りつつ社員の愛社精神をあおって自社株を購入させた事例や、高給取りのはずだったのに大部分を自社株やストックオプションでもらっていたため勤務先の破綻や株価暴落で霧消した事例も少なくない。

  • 自社株投資はリスクを上回るメリットがある場合に限るべし
  • 現時点で従業員持株会を利用した自社株投資のメリットがデメリットを上回ると思われるケースはおそらく以下の2つに限定されるだろう。

  • ① 奨励金の額が多い
    従業員持株会は、経営者にメリットがあるので従業員にインセンティブとして奨励金を出す事が多い。上記の東証資料によると平均で千円の購入当たり78.66円にもなる。
    つまり、買った瞬間に7.866%儲かっていることになる。3割以上の企業では100円以上出るので、これなら使わない手は無い。といっても購入した瞬間にメリットを得られるので長く持つ必要は皆無。1-2年おきにさっさと売却して他の投資先に変えることがオススメだ。

    ② 勤務先が未公開企業で近々上場する可能性が高い
    未公開企業で近いうちに上場が予想され、かつ業績が良ければ未公開株式に投資できる千載一遇のチャンスともなりえる。
    この場合は、従業員持株制度で大きく儲かるチャンスがある。特に株式公開時に価格が跳ね上がる傾向が強いバイオベンチャーやIT企業であればなおさら。
    しかし上場を目指していたものの業績悪化でいつまでたっても上場できなかったり、破綻してしまったりする事例もある。自分の勤務先の業績の良し悪しぐらいはしっかり見極めなければならない。
    なお、上場後は評価益だけで有頂天になってはいけない。株式公開直後に高値を付ける企業も多いので、まず持分をすぐに売却し、その後の購入分は①の奨励金だけもらって早々と売却するやり方が得策だ。

    なお、奨励金が少ない、未公開企業でも無いとなれば、最低限のお付き合い以上に自分の資産をリスクに晒すことは避けたほうが良い。

    (念のため付言すると、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではない。)

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