- 時代の足音
質問「安倍政権になってから中韓との対立が目立つ気がします。なんで隣の国なのに仲良くできないのでしょう?法の支配と正義に基づいた問題解決は可能なのですか?平和を守るために、私たちは何をすべきなのでしょう?」(38才、会社員)
- ■隣人を巡る建前と実際
人間の記憶はあやふやだ。中国は2010年に酔っ払い軍属船長に海上保安庁の監視船めがけて体当たりさせ、2012年には一部の島(大正島)は明治以来国有地であったにも拘わらず他の島の国有化を口実に、大規模な反日デモを組織的に行った。当時の日本は民主党政権だ。韓国の李明博大統領(当時)が竹島に上陸し、天皇陛下侮蔑発言を行ったのも、野田首相の親書を付き返す外交的な非礼を行ったのも2012年の民主党政権下である。アベノミクスが始まったのはその後だ。中韓が日本への明白な挑発を行っていなければ、安倍氏が首相に返り咲くことはなかったと思われる。
なお、歴史を客観的にみるなら、隣国と仲が良い状況の方が珍しい。古代中国でも「遠交近攻」といわれていたように、利害関係が少ない遠くの国とは良好な関係を築き易く、隣接する国とは何かと対立することが多い。例外的に平穏な状況になりえるとすれば、3つのケースだけだ。一つは、一方の国力が他方を圧倒し、かつ小国が外交・防衛・経済・文化において大国との良好な関係がないと存亡が危ぶまれる状況だ。分かりやすい例を挙げるなら、ロシアとそれに隣接する旧ソ連邦諸国、5千年間の中国歴代王朝と朝鮮、あるいは現在の中華人民共和国と北朝鮮がこのような関係にある。二つ目は、ヨーロッパのように千年以上も領土の分捕りあいを繰り返し、2度の世界大戦を引き起こした反省に基づき、価値観を共有する国々が経済共同体を作っているような場合である。南米の経済共同体やアセアンも似たものを目指している。最後は、共通の強大な敵や危機が存在する場合である。呉越同舟という言い方もできよう。
翻って日本と中国、南北朝鮮、ロシアとの関係を考えてみる。現在の日本と4つの隣国は上記のどれにも当てはまらない。敢えて言うなら、中国の台頭を警戒しているという点でロシアと共通点があるぐらいである。だから、相対的にロシアとの関係が改善されつつある(といっても、ロシアは中国を公然と敵視している訳ではない)。
「隣国だから仲良くすべき」という論理を個人ベースの隣人との関係で考えてみよう。通常は、“隣人の言う事をなんでも聞かなければいけない状況”にはないし、“先祖代々喧嘩していたが先代から和解した”なんてことも一般家庭ではあまり聞かない。まして、“共通の敵と戦っている”なんてことは住民運動のような特殊な事例を除けば極めて稀だ。そんなあなたのお隣さんが、「30年間何もなかったのに、いきなり境界線が違うと叫び始めて一方的に杭の位置を変えてしまうおっさん」だったり、「大量のゴミを山積みにし、悪臭被害を訴えても無視するゴミ屋敷の主」だったり、「根も葉もないあなたの悪口をでっち上げてブログにアップし続けるオバサン」だったりしても、あなたはニコニコ毎朝気持ちよく挨拶できるだろうか。あなたが隣人と穏便に暮らすためには、隣人があなたが常識としている価値観を共有し、同じルールに従って、かつあなたと仲良くしたいと考えている必要がある。つまり、「隣国と仲良く」を建前論で言うのは簡単だが、実際には一方だけの意思で良くなることはない。双方がともに友好的な関係を維持する事にメリットを見出さなくては難しいのだ。
- ■法の支配と正義の限界
日本国憲法の前文は人類の理想を述べている。「…平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。」
この通りの世界なら、地球上に戦争も内乱も存在しないだろうし、圧政や人権抑圧もないはずだ。ただこれは、“「法の支配と正義」が主権国家に対して実効力・強制力を伴うものであれば”という大きな前提条件がつく。実際には国連は国家の行動を規制できないし、特に安全保障理事会で拒否権を持つ大国の行動に対しては無力だ。ウクライナの暴動鎮圧を批難する欧米諸国が、ウイグルで銃を持たないイスラム系市民をテロリストと決め付けて日常的に射殺する中国政府に対して経済制裁を発動することはない。その中国が1950年に武力で占領したチベットにどんどん漢民族を入植させてチベット民族殲滅を進めていても、国際社会の非難の声は全く中国の政権に強制力を持たない。その中国が学生デモに対して無差別発砲を行った1989年の天安門事件の後には、さすがに欧米諸国は制裁に回った。しかし、真っ先に制裁解除に動き中国共産党政権を助けたのは高邁な理想を掲げているはずの我が国だった。その中国が今や世界第二の経済・軍事大国になり、尖閣諸島奪取に動いて来た途端に「法の支配と正義を!」と日本が世界に訴えても嘲笑されるだけである。
- ■隣国の無理難題も彼らから見れば当然の行動か
「韓国はなぜ日本統治時代の高給の慰安婦募集広告の存在を知りつつ、また朝鮮戦争当時に“洋公主”という国連軍(実際は米国、韓国軍)向けの慰安婦制度を韓国政府主導で設置していたことを敢えて無視して、日本を貶める情報捏造・宣伝工作を世界中で続けるのか」、「日韓基本条約で巨額の資金援助を得て、漢江の奇跡といわれる発展ができたことを国民に伝えていないではないか」、「対馬から盗まれた仏像が数百年前に韓国にあったことを理由に返還しないのは常識外れだ」、「竹島問題で日本が数十年黙っていたのに、近年になって日本を挑発し始めたのはなぜか」、「日本海を東海と呼ぶ運動をしているのに黄海を西海と呼ぶ運動はしていないではないか」、「第二次大戦の時は枢軸国だったのになぜ戦勝国のつもりなのだ」等々、日本から見れば理不尽極まりない行動ばかりが目に付く。
これに対しては、太平洋戦争当時は日本帝国軍人であり、かつて京都大学で学んでいたこともある元台湾総統の李登輝氏が大変興味深い見方をしている。「…韓国は常に強い国に寄り添って生き延びてきた国である。それは真横に中国という強大な国家があったからで、日清戦争、日露戦争で日本が中国、ロシアを破り、日本が強い国として彼らの目に映ったからこそ日韓併合を呑んだのだ。朴槿惠大統領の父、朴正煕は日本の士官学校で教育を受けた人で、彼女も親日的かと思いきや、むしろ反日の姿勢を明確にして再び中国に寄り添おうとしている。今は日本よりも中国のほうが強いと彼らは考えているからだ。だから彼らは日本に対して罵詈雑言を投げかけ、中国に阿(おもね)っている。」(SAPIO2014年2月号)
つまり、“失われた20年の間に産業の空洞化が進み、少子高齢化で“先が見えている”日本の利用価値が無くなった“と韓国は考えているから親中反日を明確に打ち出しているわけだ。そういった時代背景の下で、「泣く子は 餅を一つ余計に貰える」と教えられて育った朝鮮半島の人間と、「人に迷惑をかけてはいけない」「お天道様はきちんと見ているからウソをついてはいけない」と小さい頃から言われ続けた日本人が話し合いで問題を解決しようとしたら…今のような対立に至るのは必然といえる。
同様に、日中国交正常化時や天安門事件直後の中国は、日本の経済力や技術力が必要であった。現在の中国共産党指導部は日本との良好な関係が必要とは思っていない。だから恫喝含みの高圧的な態度に出るし、スキがあれば領土を奪う対象と見ている。すべては日本と中国・韓国との相対的な国力の変化に起因しているのだ。
- ■時代の流れを踏まえて何をすべきか
戦前の日本はそうであったし、江戸幕府末期なども同様であったかもしれないが、時代の大きな流れに一個人が抗うことは極めて難しい。いくら反原発を主張したところで、代替エネルギーの目処が立たず、燃料の輸入で貿易赤字が膨れ上がっている以上、いくつかは稼動させるという判断にならざるを得ないだろう。また、米国との関係強化を考えれば、TPP合意時に“農産物の聖域”はかなり絞られたものになっているはずだ。また、米軍が軍事費を圧縮する中、中国が日本の4倍以上の軍事予算を年率10%で増やしているなら、日本の防衛予算も増えていくことになる。
日中冷戦はもう始まっているし、2015年末に在韓米軍が予定通り韓国から撤退を始めるなら、第二次朝鮮戦争が現実味を帯びてくる。また、中国の不動産バブルは「崩壊するかどうか」のという状況ではなく、「あと何年もつか」だけの議論になりつつある。そうなったら、国民の不満を外にそらしておきたい中国が日本から尖閣諸島を奪取し、“日清戦争から120年後のリベンジ”を果たそうとすることも十分ありえる。
先人の定義によると、“平和とは戦争と戦争の間の期間に名前をつけたもの”あるいは“二つの戦争の間に介在する騙しあいの期間”であるらしい。米国の核の傘の下で69年間も戦争や内乱がない時間を過ごす事ができた日本の幸運はそろそろ終わるのかもしれない。
そんな時代に何をすべきか?「平和を守るために、あるいは共同体のためにできるだけのことをやってみる」というなら「近隣諸国との草の根交流に励む」、「政治家や外交官になる」、「プロ市民になる」、「自衛隊に志願する」という道もある。自分や家族レベルでできることというなら、「帰国できなくなる可能性がある地域には仕事でも旅行でも行かない」、「相手国に没収される可能性がある資産には投資しない」、あるいは「中韓に依存度が高い日本企業の株式は避ける」といったことが考えられる。英語の復習をして、「できるだけ海外のニュースを読む」のも国内メディアのスタンスに左右されない判断をするためには必要であろう。多くの中国国民のように「金地金に投資する」ことも考えられるし、「中国の富裕層のように海外移住する」ことも選択肢としてはある。最も後悔が少ないと思われるのは、「情報源を疑い、アドバイスを疑い、自分で調べ、自分の頭で考えて行動する」ことであるとは断言できそうだ。
(念のため付言すると、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではない。)
eワラント証券 チーフ・オペレーティング・オフィサー 土居雅紹(どい まさつぐ)
土居雅紹 (どいまさつぐ)氏
eワラント証券株式会社
チーフ・オペレーティング・オフィサー
CFA協会認定証券アナリスト(CFA)
著書:勝ち抜け!サバイバル投資術バブルで儲け、暴落から身を守る
土居雅紹/著
【内容紹介】
中国バブル崩壊、米国発世界恐慌……ミッションは生き残り。日本と世界のこれから、次のバブルの見つけ方、グローバル経済時代の攻めと守りの最善手を説く。
出版社 :実業之日本社
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