12/28 sat

寄稿 ドロ舟日本の行方
  • 経常赤字国でどうよ!
  • 質問 日本の経常黒字が激減し、近いうちに経常赤字国になると聞きました。一方、“アメリカも経常赤字国だし国が赤字で大騒ぎするのはバカだけ”という記事も見ました。これが私の生活にどう関係するのかピンときませんが、やっぱり大変な事なんでしょうか?(33才、自由人)


  • 貿易
  • “経常黒字をできるだけ大きくして富を溜め込む”というのは古典的な重商主義政策とも言えるもので、それで国民が豊かになる訳ではない。ただ、年初に自国通貨が売り込まれて困った“脆弱な5カ国”(インド、インドネシア、ブラジル、南アフリカ、トルコ)は全て恒常的な経常赤字国だし、経済破綻したギリシャも困難な状況にあるウクライナも経常赤字国である。
    そういうと、
    「アメリカは財政赤字に経常赤字でも大丈夫じゃないか!」
    という主張をする輩もいるが、好きなだけ自国通貨を発行して貿易決済に使える特権を持つ基軸通貨国と、それ以外の普通の国を混同してはいけない。

    「でも、日本の国債は円建てでファイナンスできるからOK」
    という似非学者にはどこから貿易決済用の外貨を持ってくるつもりなのか聞いてみたいところだ。少なくとも民間の保有する外貨は危機的状況に陥った国には戻ってこないし、中央銀行が無節操に国債を引き受ければ第二次大戦直後の日本やジンバブエ並みのハイパーインフレが軒先にやってくる。
    その意味で、「もしかしたら大変なこと?」という直感は悪くない。

  • ■経常赤字はアベノミクスのせい?
  • 日本は巨額の財政赤字を垂れ流し、高齢化で貯蓄率が下がりつつあり、いずれ経常赤字国になるといわれていた。それが前倒しされてしまった。
    そういうと、「アベノミクスで円安にしたのが悪い。だから私が言ったじゃないか! 輸入代金が円安で膨らんで貿易赤字が拡大して、経常収支が悪化したんだ」と批判する声もある。
    では、論より証拠、経常収支の推移を見てみよう。

  • 経常収支の推移
  • 「なんかだんだん悪化しているなぁ」
    ということは分る。ただ、貿易統計には季節性があるから、これを修正した図を見るとサルでも分ることがある。

  • (参考)経常収支の推移
  • 季節修正済の経常収支を見れば、2011年3月を境に貿易収支の黒字が消え、以来どんどん貿易赤字が拡大していることが一目瞭然だ。つまり、転機はアベノミクスではなく、東日本大震災なのだ。では2011年3月以降、誰がどういう行動をとっているのかを考えてみると…
    まず、日本国内に工場を持っていたメーカーでは、輸出品の生産を海外に移した(輸出減)。壊れた東北の工場を作り直すなら外国に新工場を作った(輸出減)、国内工場で使う基幹部品は日本国内企業への依存を減らし輸入を増やした(輸入増)。また内需企業は、外国製品を増やして生産地リスクを分散するようになった(輸入増)。外資系では日本の巨大地震リスクを再認識し、拠点を海外に移した(輸入増、輸出減)。さらに原発停止で各電力会社は効率の悪い古い石油火力発電所を動かし、ガスタービンLNG発電設備を新設した。また、各企業も自家発電設備を増やした(原油やガスの輸入増)。このため貿易収支は2010年に輸出67.4兆円、輸入60.8兆円だったのが、2013年には輸出69.8兆円と微増に留まる一方、輸入は81.2兆円にもなり、11.4兆円もの貿易赤字となったのだ。
    「だから円安にしたから輸入が増えてるわ〜け。お分かり〜?」
    というのは早計だ。円安になってもJカーブ効果が出ず、構造的に輸出が増えなくなったのなら、円高になればますます輸出が減り、国内の産業基盤がさらに傷んでいくことになる。

  • ■何をやればよいかは自明。だが、もう止まらない
  • 経常赤字国の常連にならないためには、原因が原発停止であろうと、円安であろうと、原油価格高騰であろうと、2013年に27.4兆円にも上る総輸入額の33.8%を占める鉱物性燃料(原油、ガス、石炭)を減らす必要があるのは小学生でも分ることだ。大幅値上げか課税強化で需要を減らすか、安いものを買ってくるか、代替物を見つければよい。しかし、「原発再稼動絶対反対!」、「電気料金値上げ反対!」、「地熱発電所反対!」、「風力発電は環境破壊だ!」、「ガソリン課税強化は庶民イジメ」、「領土問題解決前のロシアからのガス輸入増反対!」などの総論賛成各論反対で何も進まず、太陽光発電補助金も惜しくなって減らしはじめ、水素自動車も重点投資を決断できず遅々として進まない。

    鉱物性燃料以外の増えてしまった製品輸入を減らし、輸出を増やすには、円安誘導、電気料金引き下げ、法人税下げで国内に製造ラインを戻してもらうことが必要だが、これも現在のナメクジ程度の改革スピードではあまりにも遅い。アメリカのように高付加価値の新しい輸出産業を興せればよいのだが、論文コピペのゆとり君、外国嫌いの氷河期世代、リストラ制度疲労のバブルさん、昼からカラオケの年金老人たちでは心もとない。

    マクロ経済学的には、財政赤字、貿易赤字、貯蓄不足には恒等式が成立するので、財政黒字にし、女性や高齢者の就労を増やして貯蓄を増やせば、途中の経路はどうあれ、貿易収支も改善することが予想される。でもこれも岩盤反対勢力の抵抗で進みそうもない。

    となると、円暴落・輸入インフレで、ガラガラポンの荒療治となる可能性が高い。次の世界同時資産暴落時にはいままでの惰性で「リスクオフの円高」があるかもしれないが、もしあれば恐らくそれが最後の円高となりそうだ。20年後にはシャンパンやハワイ旅行が庶民の夢だった1ドル360円の時代に逆戻りしているかもしれない。

    ということで、せいぜい後悔がないようにきちんと選挙には行くことだ。隣国と結託して日本国民の血税を巻き上げることを画策する特定メディア、なんでも反対するけど解決策は決して提案しない“似非識者”、子や孫に負担を押し付ける共産主義者に投票するのも良し、現実志向のまともな政治家を探して応援するも良し。
    それから、外国株への投資をETFやG20トラッカーなどで今から始めておくことも悪くはないと思われるので、ご参考まで。

    (念のため付言すると、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではない。)

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