- 知識人待望の円高・株安がやってくる?
質問 アベノミクスも期待倒れで失速し、私が懸念していたとおり消費税増税は失敗に終わりました。需要が無いところに量的緩和で景気が良くならないのは経済学の常識ですし、円安で株価や物価が上がったのを喜ぶのは一部の金持ちと国賊だけです。賃金が上がらないのに物価を上げて増税する安倍政権は酷いと思います。政権交代で中国や韓国との関係も良好になり、日本がよい方向に進むのはいつになるのでしょうか?(35才、会社員)
- ■円高と不景気が大好き、でも忘れっぽい?
株価が下がって円安が一服したら、「ほら、言ったとおりでしょ」と自慢するエコノミストたちが目立ってきた。どうもアベノミクスが始まる前のデフレ・円高を演出してきた以前の日銀に近い考え方をする方々のようだ。こういう方々は、押しなべて「経済学の常識では量的緩和と財政出動に頼るアベノミクスは無意味」、「安倍政権が中国や韓国との関係を悪くした」、「アベノミクスが始まる時期は景気回復期にあったから、何もしなくても株高になったはず」、「消費税増税が諸悪の根源」、「円安は百害あって一利無し」という結論が先に決まっていることも共通だ。
“喉もと過ぎれば熱さを忘れる”とはよく言ったものである。
- ■経済学はせいぜい中世の医学程度かも
まず従来の「経済学」がそんなに立派なものだったら、どうして各国はバブルの発生と崩壊を防げず、経済学の造詣が深い方々の多い日銀はバブル崩壊後の20年も無駄に過ごしたのだろうか。2008年のリーマンショックの後に、大恐慌研究の第一人者だったバーナンキFRB議長が従来の経済学の常識では未知の領域の大胆な量的緩和を行わなかったら、未曾有の世界恐慌になっていたはずだ。
私は、“現在の経済学は中世の医術程度しか実際の経済活動を説明できない”と考えている。だから、10年経つと新説が出てくるし、20年経つとそれがノーベル経済学賞を受賞する。だから、せいぜいここ数十年でできた理論を振りかざして誰かを論破したところで、溜飲を下げるだけの意味しかない。 “量的緩和と財政出動で、株価が上がり、経済活動が持ち直した”という事実の方がよほど役に立つはずだ。
- ■韓国・中国が日本の弱体化に付け込んできたのは民主党政権の時
また、時々「安倍政権が中国・韓国との関係を悪くした」という輩が居るが、どうも短期記憶もないらしい。デフレ・円高で日本経済が弱体化したとみた李明博韓国大統領(当時)が政権末期の人気浮揚を狙って韓国が不当占拠を続ける竹島に上陸したのが2012年8月。「(日王が)『痛惜の念』などという良く分からない単語を持ってくるだけなら、来る必要はない。韓国に来たいのであれば、独立運動家を回って跪(ひざまづ)いて謝るべきだ」と天皇陛下侮蔑発言をしたのはその直後だ。これ以降、日本の世論は一気に嫌韓に傾いた。安倍政権が成立したのは2012年12月だ。どっちが先かは幼稚園児でも分かるはず。
中国が尖閣諸島の日本領海内に海洋調査船(海監46号、海監51号)を進入させたのが2008年、(工作)漁船が海上保安庁の巡視船に体当たり攻撃をしかけたのが2010年9月で、それ以降中国船が領海侵犯を繰り返すようになった。これが2012年9月の尖閣諸島のうち3島の国有化につながった。これに中国が国内の反日デモ煽動で対抗し、現在に至っている。これもすべて民主党政権の時で、安倍政権成立以前のことだ。
こういった外圧を受けた国に強力な指導力を持つ政権ができるのは実は歴史の必然、作用・反作用の関係ともいえる。安倍政権を作ったのは韓国と中国なのに、因果関係を逆にするのはゴマカシである。
- ■間接的な通貨安競争と市場一体化を認識すべし
「何もしなくても2012年末から株高になったはず」というのは、誰にも検証できないことではある。しかし市場関係者の実感としては“ちゃんちゃらおかしい”。安倍政権登場時の「これで日本が変わる」という高揚感や期待感が、相場を動かす原動力だった。これがなくても、「知らないうちに円安になり、株価が40%上がっていた」ということはありえない。相場が動くにはきっかけ(カタリスト)が必要なのだ。
また、「消費税」を決めたのは民主党政権であって、現政権ではない。予算を膨張させて、子供手当てを無節操にばら撒いたのも民主党だ。「これよりもっと良い方法があった」と、実現される見込みがないことを酒場で論じて知識人ぶっていても、投資にも実業にも役に立たない時間の無駄である。
最近増えてきた「円安有害論」も不思議な話だ。これを主張しているのはよほどの資産家か、日本企業と競合する外国企業の利害関係者かと勘ぐってしまう。仮に通貨安が有害なら、なぜ米国はちょっと前までドル安誘導し、ECBはユーロを安くしたがり、オーストラリア、ニュージーランド、スイス政府が自国通貨を安値誘導するのか。韓国が為替レートに直接介入してウォンを未だに安値に止めようとし、中国が米国圧力に対抗して人民元高を嫌うのか、ぜひ説明して欲しいものだ。円安になれば、直接輸出が増えなくても海外事業の連結決算は向上して株価が上がり、内需企業も輸入品との競合に勝てるようになる。市場関係者でこれが分からないと言い張るのは摩訶不思議だ。アベノミクスが始まるまで、日本は諸外国との通貨安競争でめった打ちにされ、一人負けだった。それがファイティングポーズをとって異次元緩和を始めたから、行き過ぎた円高と株安が一気に修正されたのだ。
今世の中で起きていることをとりあえず批判すればインテリっぽく見えるし、楽観より悲観の方が賢く聞こえるのは世の常だ。そういう輩は、株価が下落して、円高になったら、今度は「政策が悪いから株価が下がる」、「円高も行き過ぎると良くない」などと言い始める。3年前のデフレ、円高に戻りたい人が本当にそれほど多いとは思えない。
もう一つ忘れてはならないのは、いかに安倍政権が良い政策を実行し、黒田総裁が万人を唸らせる金融政策を実施しても、世界情勢にかかわらず日本経済だけうまく行くということはない。為替レートは、各国の相対的な金融緩和の程度によって決まってしまうから、米国経済が失速して米国が再び金融緩和に動いたら円高になるだろう。また、いまや日本株の主たる参加者は外国人投資家なので、米国株や中国株がクラッシュしたら、日本株も暴落する。そうなると円高、不景気がまたやってくる。これが現実であり、政策の限界でもある。今の政治は嫌いだけど、次の誰かがもっと良くしてくれると願っているだけでは何も変わらない。それに気が付けば、不平不満を吐露して無駄に時間を過ごすよりも、自分が今何をすべきか考え始めることだろう。
(念のため付言すると、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではない。)
土居雅紹 (どいまさつぐ)氏
eワラント証券株式会社
チーフ・オペレーティング・オフィサー
CFA協会認定証券アナリスト(CFA)
著書:勝ち抜け!サバイバル投資術バブルで儲け、暴落から身を守る
土居雅紹/著
【内容紹介】
中国バブル崩壊、米国発世界恐慌……ミッションは生き残り。日本と世界のこれから、次のバブルの見つけ方、グローバル経済時代の攻めと守りの最善手を説く。
出版社 :実業之日本社
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