12/27 fri

寄稿 ドロ舟日本の行方
  • 世界でお金が増えている
  • 質問 1ドル120円になるなんて、2年前には思ってもいませんでした。なんとなく景気が良いとは聞きますが、これがバブル景気なんでしょうか?父親世代の昔話しか聞いたことがないので、バブルってどういうものなのかよく分かりません。これから景気がどうなるのか教えてください。(25才、会社員)


  • 先のことが完璧に分かるなら、今頃私は世界を支配しているはずだw。
    真面目な話、ノーベル賞級の経済学者でさえ、景気の先行きがどうなるかはよく分からない場合がほとんどだ。アベノミクスの効果も学者の間で賛否両論、喧々諤々だ。2014年4月の消費税増税前にも、「駆け込み需要と反動減が諸悪の根源」、「増税自体が悪いのでやるべきではない」、「消費税の設計が悪いから景気を冷やす」、「増税しないと日本売りが始まる」、「今までの消費税2回は運が悪かったが、今回は補正予算で対応したから大丈夫」などと様々な意見があった。フタを明けてみたら、一部の予想通りの強烈な駆け込み需要の反動減が来たが、反リフレ派が言うほど落ち込んだ訳でもなさそうだ。ただ、次回も1%づつ上げると言う知恵を働かせる事ができるかどうかは不透明なままである。
    そして、今私がとても気になっているのは、日本の消費税再増税よりもおそらくあなた方の人生に影響が大きい世界各国のお金の爆発的な膨張である。

  • ■2008年からゲームのルールが変わった
  • 図は日米欧中央銀行のベースマネーの推移である。マネタリーベースとかハイパワードマネーといわれる事もあるが、要は中央銀行が作り出しているお金の量のこと。日本の場合は500円玉などの硬貨と紙のお札、それに銀行が日銀に預けているお金の合計のことだ。これが増えると、途中でいろいろあるが、下々まで回るお金が増えて、株や土地の価格が上がって、企業も資金繰りが楽になり、まあ、景気が良くなると言ってよいだろう。

  • 日米欧のベースマネーの変化
  • で、注目すべきはまず2002年ぐらいから日銀の赤い線がぐんと上がり2006年にまた下がったところだ。これはデフレから脱却するための手段として、日銀がお金を強制的にジャブジャブにする量的緩和という手段を“発明”した時の動きだ。2006年に景気が良くなったと思ってお金を絞ったら、何の事はないその頃には米国の不動産バブルが崩壊し始めていて、2008年の世界経済危機となった。相場勘の悪さが目立つが仕方が無い。
    2008年からの米連銀(FRB)と欧州中央銀行(ECB)の変化は物凄い。2002年の日本がやった量的緩和とは桁違いのお金ジャブジャブ政策を行った。一方の国がお金をガンガン刷って、他方が何もしないなら、当然ガンガン刷った国の通貨は弱くなる。で、日本だけ「ホメ殺し」の円高デフレとなって欧米の通貨切り下げによる近隣窮乏化政策に苦しんだ。

    そこで2012年末からアベノミクスが始まり、日本も「お金を誰がたくさん刷るか競争」に加わって、行き過ぎた円安が是正されて今の為替水準に落ち着いたという訳だ。

    ではもう一つ。2012年末からECBはこの競争から「一抜けた!」とばかりにお金の量を減らし始めた。結果はどうなったのか?欧州の好景気を独り占めするけちんぼドイツ以外のスペイン、イタリア、フランスなどはおしなべて不景気に逆戻り、デフレの一歩手前で、今のままなら「欧州の失われた10年」となる可能性が極めて高い。おそらく、来年の初めまでにはECBは「お金を誰がたくさん刷るか競争」に再び戻ってくるだろう。
    実は、統計数字をちょろまかすことで知られる中国も2008年以降ガンガンお金を増やしているようだ。2008年からの強烈なウォン安を見ると、外貨準備が不良債権だらけで実は心もとない韓国も似たようなことをしていた可能性がある。彼らは日本より早く2008年から始めているから目立たないだけのことだ。

  • ■これからどうなる?
  • 米国はすでにこれ以上お金増やすのをやめたと言っているし、来年にも金利を上げ始めて“正常な”状況に戻そうとしている。中国は過去にお金を突っ込みすぎて不動産バブルが起きているので、今それを減らそうとしてバブル崩壊の瀬戸際にある。まさに日本の80年代末の様相だ。韓国は格差の拡大とインフレ懸念もあって最近は輪転機競争から脱落して、韓国版デフレが目と鼻の先にある。

    一方で、日本は財政支出を支えるためにも当分ベースマネーを増やし続けるし、欧州も直ぐに加わってくる。米国は次の市場ショックが起こったら、即座にベースマネーを急増させる量的緩和を再開するだろうし、中国も韓国も景気の落ち込みが激しくなったら、「アベノミクスを見習え」という国内の声に負けて、「お金を誰がたくさん刷るか競争」に戻ってくるだろう。これが問題なのだ。

    18世紀の南海泡沫事件、同じく18世紀フランスのミシシッピ計画、これまた18世紀の田沼時代が似ているといえば似ているし、大恐慌後の日本の高橋財政や同時代のナチスドイツのシャハトによる初期経済政策の方がさらに近い。ただ、今回の違いは、主要国全部が同じことを同時にやっているので、仮にある国の通貨が安くなると思っても逃げ場がないことにある。各国の取り組みが画期的な経済政策上の発明として歴史に残るのか、どこもハイパーインフレを招いて札束をリヤカーで運ぶようになるのか、なにせ主要通貨総参加のお金ジャブジャブ競争なので予測がつかない。

    おそらく言えるのは、ベストシナリオでも預貯金よりも株式の方がよさそうということだ。悪いシナリオなら金やプラチナ、骨董、農地などのハイパーインフレに強い資産が勝つことになるだろう。なお、いずれのシナリオでも手に職を付け、1億円札が出回るようになっても新たに稼ぐ力があれば心配はない。

    (念のため付言すると、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではない。)

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