11/24 sun

寄稿 ドロ舟日本の行方
  • バブル相場に乗るべきか、乗らないべきか?
  • 質問 一部のテレビ局や新聞が執拗に「独裁だ」、「金持ち優遇だ」と非難を続けている安倍政権が、内政も外交もやること成すこと上手く行っているように思えてきました。株価も上昇を続けているので、「日本の景気は良くない」、「ギリシャが危ない」、「中国バブルはもう崩壊している」といっていた評論家たちも、最近おとなしくなった気がします。私自身も心配ばかりしていて相場の上昇に乗り遅れてしまいました。今からでも思い切って株式に投資すべきでしょうか?(45才、会社員)


  • 投資の世界は結果が全てで、やましい行為をしていない限りは「勝てば官軍、負ければ賊軍」である。その点において、最近の日本株急騰と上昇にうまく乗った投資家が「勝った!勝った!弱気派は馬鹿だね〜」と喜んでいることは珍しくもなんともない。また、アベノミクスを散々批判している人も、実はお金持ちで自分の保有株式の大幅上昇でニンマリしていたりもする。
    実際のところ、私はここ数ヶ月間、米利上げ、中国バブル崩壊、ギリシャ破綻についてかなり心配していた類に属すると思うが、今の相場に対する感想は質問者さんとは全く逆で、もっと心配になってきている。

  • 相場の水準と企業価値による投資
  • 「賢明なる投資家」という世界恐慌の直後に書かれた投資の教科書と言われこともある書籍に、ミスターマーケットという架空の人物を使ったたとえ話がある。ミスターマーケットは全ての株式に毎日売値と買値を提示してくれるが、とても気分屋でトンデモナイ安値を出したかと思うと、物凄く高い値段を言ってきたりもする。
    普通の投資家は、皆が買いたい時に高く買い、だれも投資などしたくないときに安値で手放してしまう。賢い投資家は自分の基準を持ち、ミスターマーケットの提示する値段を聞いて、「この値段では高すぎ」、「この価格なら買っても良い」、「今日は何も売買しない」と淡々と対応する。

    一般に、感情や勘でバタバタ取引してしまうよりは、合理的で冷静な投資手法の方が投資パフォーマンスが良いことが多い。しかし、企業価値を分析する投資手法だと、「この価格なら買っても良い」という価格が大底のやや手前の時期になることが多く、「この値段なら手放しても良い」と考えて持ち株を売却するのは相場の天井のかなり手前になりがちだ。
    これは、相場が上にも下にもオーバーシュートすることを考慮すれば、想像に固くない。

    例えば、ある企業の株式が3000円で買えるなら大バーゲン、5000円でも合理的な水準と分析していたとしよう。リーマンショックのような時には、実際の株価は5000円から4500円、4000円と半年も経たないうちにドンドン下がってしまう。これが3000円になったら、この投資家にとっては“大バーゲン”だから喜んで買うはずだ。しかし、相場全体が売り込まれて、株価が2500円になってしまうことも珍しくない。
    一方、景気が回復してくると株価が上がり始め、4000円、5000円と値が付いていく。3000円で買って大底の期間は辛抱して保有していたので6000円で売れば御の字だ。もうちょっと頑張って7000円に戻ったら売って大儲けだった。しかし、相場がグングン上昇し、今は株価が9000円。こんなこともしばしばある。
    言ってみれば、これが今の日本株の状況に極めて近いと、私は考えている。アベノミクスが1990年代のバブル景気に並ぶ「日本大復活バブル」になるなら、これが10000円になるかもしれないし、過剰流動性相場が続けば12000円まで上がるかもしれない。リーマンショックの際に、アメリカの投資銀行幹部が語ったように、市場参加者の多くは今でも「音楽が鳴り止むまで、ダンスを踊り続けるしかない」と考えているのだ。

  • 乗るのも、待つのもアリ。ただし、どうやって大相場の終焉に備えるを考えるべし
  • 日本株相場に火がついて常識の壁を越えて株価が吹き上がると考えるのであれば、トコトン上げ相場に乗り続けて下がり始めたら降りよう、と考える投資手法もある。一方、2000年のITバブルの時に「古い」とか「時代遅れ」と言われながらも理不尽な水準に上がった株には手を出さないことを貫いて、結局その後のITバブル崩壊で名声を高めた老練な投資家たちもいる。
    これが一般のサラリーマン運用者であれば、半年や1年間も相場に乗り遅れていたとしたら、いくら結果として長期の相場見通しが当たっていても、数年後におそらく来る暴落の前にクビになっているだろう。
    ところが、個人投資家なら、誰に報告する必要もないので、「バブル相場の大型バスに乗る」のも、「危ない思いをしたくないから待つの」もどちらもアリである。ただし、相場に乗るなら、「天まで届く相場はない」という投資格言を肝に銘じ、どうやってガラ(相場の大崩壊)に巻き込まれないかを考えておかなければならない。やり方は一つではないが、相場勘に頼っているとほぼ確実に大波に飲み込まれる多数派の一人になってしまう。
    逆にこれから何年でも暴落を辛抱強く待って、ガッツリと大儲けすると肝をすえたなら、最も注意すべきは下げ相場が始まった頃になるはずだ。「インテリトラップ」と私が名付けている「大相場が崩壊して下げ始めたタイミング」で喜んで飛びついてしまわないために、自分なりの保守的な投資基準をしっかり持っておくことが不可欠となる。

    (念のため付言すると、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではない。)

  • 土居雅紹 (どいまさつぐ)氏
  • 土居雅紹 (どいまさつぐ)氏

    eワラント証券株式会社

    チーフ・オペレーティング・オフィサー

    CFA協会認定証券アナリスト(CFA)

    (社)証券アナリスト協会検定会員(CMA)



    ラジオNIKKEI「ザ・マネー」月曜日のレギュラーコメンテーター。月刊FX攻略、Moneyzine、日刊SPA、ロイターなどに寄稿。著書に『勝ち抜け! サバイバル投資術』(実業之日本社)『eワラント・ポケット株オフィシャルガイド』(翔泳社、共著)など。

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