- 正論はだれも幸せにしない(前編)
アラフォーのヘッポコピーライターが自らの失敗談で綴る、自戒と猛省の広告コラム。
- 第六回 <正論はだれも幸せにしない(前編)>
皆さま、遅ればせながら明けましておめでとうございます。前回のコラムは年賀状代わりに年末しこしこ書いていたので、今回が年明け一発目になります。
今さらですが去年の出来事で個人的に印象に残っているのは、政権交代なんかよりいじめで自殺した気の毒な子供たちがたくさんいたことです。賭けてもいいですが、事件の起きた学校にもこんなポスターが貼ってあったはずです。「いじめをやめよう」と大きく書かれたポスターが。
見た人の態度変容を促す点で、これも立派な広告(「公共広告」と言います)です。当然、いじめっ子たちもこの広告を見ていたでしょう。しかしいじめは止むどころかエスカレート。いじめられた子供たちが自ら死を選ぶという最悪の結末を迎えてしまった以上、この広告はまったく効果がなかったと言えます。
実は、この手の広告は町中に溢れています。「路上喫煙禁止」「痴漢は犯罪」「飲んだら乗るな」などなど。でも相変わらず吸い殻は落ちてるし、痴漢は捕まるし、飲酒運転による不幸な事故は後を絶ちません。
やってはいけないことがある。迷惑している人がいる。だから注意を促す。当然、事態は改善する…はずです。理論上は。でも実際はそうならない。なぜか。答は簡単。そこに書かれていることは、どれもわかりきったことだからです。
えっ?お尻って触ったらマズいんでしたっけ!?初耳だなぁ、なんてアホはどこにもいません。そんなことは常識です。知ってることをわざわざ言っても効果がないのは当たり前。見た人は何も感じません。悪いことはわかっている。でも、ついやってしまう。いじめっ子たちも、いじめが悪いことは十分知っていたはず。でも、やめなかった。
彼らを擁護する気は全くありません。ただ、ここには「正しいことを言えば人は聞いてくれるはず」という、広告作りで最も陥りやすい落とし穴のひとつが隠れています。
人間は頭ではわかっていても、心が言うことを聞かない生き物です。後で困るとわかっていても、夏休みの宿題は8月末まで手をつけない。お医者さんにいくら注意されても、つい飲み過ぎるし食べ過ぎる。好きになるのは、まわりが反対するような男ばかり。そもそもこの国難にあの投票率の低さです。
どんなに正しくても、気乗りしなければ動かない。それどころか上から目線で説教された気がして、敢えて逆らいたくなる。理屈で人は動かない。この前提に立たない限り、どんな広告も心に響きません。
恥ずかしながら、この事実に僕は長い間気づきませんでした。正しいことを言えば人は動き、物は売れるはずだと信じていました。この商品はこんなに優れている、生活を素敵に変える。だからあなたはこの商品を選ぶべきだ、と。
クライアントが広告制作者に求めることも正にこの通りでしょう。おいしい。最速。No.1。余計なギャグや凝った言い回しはいいから、商品メリットをズバッと言ってくれ。商品の映像と名前と値段をドカーンと大きく。もっと目立つよう画面いっぱいでよろしく。
営業時代の僕は、社内のクリエーティブスタッフに平気でこんなオリエンをしていました。そのたびに相手が苦虫を噛み潰した顔をするのが不思議でした。元々マーケ出身だったこともあり、正論が世界を救うと信じて疑わなかったのです。
第一、お金を出すクライアントのご希望なんだから、言われた通りにすればいいじゃないか。クリエーティブってのは、ホントにめんどくさい奴らだ。これなら自分で作った方がよっぽど早いや。クリエーティブ転局試験を受けてコピーライターになり、自分で広告を作るようになって初めて、僕は「正論広告」の無力さを思い知ったのです。では、なぜ「正論広告」は効かないのでしょうか。この続きは後編で。
※ 本コラムの内容は全て個人的な発言であり、所属する組織や団体とは一切関係ありません。むしろ早く関係して発言できる身分になりたいものです。
佐藤理人(さとうみちひと)
電通 第4CRP局 コピーライター。
マーケティング、営業を経て、2006年より現職。
東京コピーライターズクラブ会員。
受賞歴:TCC新人賞、ACC銅賞など。
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