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アラフォーのヘッポコピーライターが自らの失敗談で綴る、自戒と猛省の広告コラム
  • 正論はだれも幸せにしない(後編)
  • アラフォーのヘッポコピーライターが自らの失敗談で綴る、自戒と猛省の広告コラム。

  • 第七回 <正論はだれも幸せにしない(後編)>
  • 先日、とある新商品のキャンペーンについて打合せしていたときのこと。オリエンから2週間も経つのに、コピーも企画もタレントも何ひとつ「これだ!」と思えるアイデアがなく、会議室には重苦しい空気が漂っていました。すると突然、マーケティング部門の女性が沈黙を破って言いました。

    「要するに!」

    おお、救世主よ!ついに名案の誕生か!ハレルヤ!チーム一同固唾を飲んで次の言葉を待ちました。

    「登場感をどう作るかってことなのよ!」

    ガクーッ!その瞬間、頭の中でCOWCOWが踊り始めました。

    「あたりまえ〜あたりまえ〜あたりまえマーケ〜…引くっ!」

    新商品なんだから、登場感が重要なのは当たり前だろっ!むしろ最初からそれしか考えてませんけど!?怒鳴りたいのをグッと堪えて僕は訪ねました。

    「それは具体的に…どういうこと…でしょう…か?」

    彼女は屈託のない笑顔で答えました。

    「私、クリエーティブじゃないからわからないもん(はぁと)」

    おお、ジーザス!これが組織の壁か!セクショナリズムか!何よりこれまで散々話して出した答えがそれなのか!

    もちろん彼女に悪気はありません。だからこそ、そんなことを言ったら大ゲンカになります(不思議なことに、この手の話は痛いトコを突いた方が悪いとされるのです)。僕は何も言わず、そっと頷くだけに留めました。

  • 正論は反論しにくい。だから、息が詰まる。わかってる人にとっては、痛くもない腹を探られているようで鬱陶しい。耳が痛い人にとっては、上から目線の説教でしかない。だから、みんなが目を背けたくなる。それはダイエットで悩む人に「腹八分目にすれば?」とか「運動したら?」と言うようなもの。言ってる方は親切のつもりでも、言われた本人は自分の至らなさを責められてる気がするものです。ただでさえいつも上司や得意先や家族に怒られてるんだから、せめてTVを見てるときや電車に乗ってるときくらい楽しい気分でいたいじゃないですか。

  • 正論広告が効かないのは、内容が当たり前すぎて、驚きも共感もツッコミどころもないからです。テーマが深刻なほど真正面からガツンと言ってやりたくなるのは当然のこと。でもたとえどんなに正しくても、価値観を押しつけられると人はウンザリするものです。そんなときこそユーモアの出番。笑いは人のガードを下げる最も効果的な方法です。「そう言われちゃあ仕方ないな」とクスリと笑わせてしまえばこっちのもの。正しいからって上から押しつけてるだけでは、人の行動を心から変えることはできないと思います。

    SNSの普及で、誰もが批評家や評論家になれる時代。もっともらしく分析し、論じ、断じて解決した気になる。社会や親や国のせいにしてスッキリする。でも現実は別に変わりませんよね。広告の仕事は、売上や知名度などクライアントの課題を、コミュニケーションで「具体的に」解決することです。どんなにコンセプトやらベネフィットやら小難しい単語で戦略を立てても、辿り着けるのは竜王のいる城の前まで。肝心のラスボスと闘うのはクリエーティブのアイデアです。理屈で物が売れたら誰も苦労はしないのです。

  • 僕はいじめも同じだと思います。子どもたちが本当に聞きたいのは「いじめをやめよう」なんていう綺麗事ではなく、いじめに加わらない勇気や、いじめをやめる覚悟、何よりいじめられたらどう逃げるかの具体的な方法ではないでしょうか。もちろんそれはすごく難しいし、複雑なことだし、恐らく100点はおろか70点の解決策すらないかもしれません(だって大人になってもいじめはありますから)。でも当たり前の正論をただ言い続けてるよりは、ずっと現実的で効果があるんじゃないかと僕は思います。

    ※ 本コラムの内容は全て個人的な発言であり、所属する組織や団体とは一切関係ありません。むしろ早く関係して発言できる身分になりたいものです。

  • 佐藤理人(さとうみちひと)

    電通 第4CRP局 コピーライター。

    マーケティング、営業を経て、2006年より現職。

    東京コピーライターズクラブ会員。

    受賞歴:TCC新人賞、ACC銅賞など。

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