- 広告を出すプロ
アラフォーのヘッポコピーライターが自らの失敗談で綴る、自戒と猛省の広告コラム。
- 第14回 <広告を出すプロ>
広告を作るプロがいるように、広告主にもプロがいます。もちろん特別な資格や技術がいるわけではありません。いわゆる「見る目がある」というやつです。一般的に広告宣伝がやりたくて企業に就職する人は稀でしょう。広告活動が盛んな一部の企業を除けば、世の宣伝部員の多くは
「ホントは製品企画がやりたかったのにな…」
なんて思いながら人事異動でたまたま配属されたにすぎない。当然、広告のことなんて何も知らない素人。美大でデザインを勉強したわけでも、映像や文章の特別な訓練を受けたわけでもない。しかし、広告代理店が提案するキャンペーンを採用するのは他ならぬ彼らです。どんなにいい企画が提案されても「見る目」がなければ選ぶことはできません。多額の広告費をムダにせず、確実に売上につなげるためには、まず「見る目」を鍛える必要があります。では一体どうすればいいのでしょうか。
まずこれだけは言いたいこと。それは「見る目=センス」ではないということです。流行の服やタレントをチェックすることでも、映画や音楽に造詣が深いことでもありません。
「昔、映画研究会に所属していてね。こう見えて映像にはちょっとうるさいんだよ」
なんて、ありがたくアドバイスを頂戴することも(多々)ありますが、99%ロクな結果になりません。そんなことはどうでもいいんです。だってそのために「作るプロ」がいるんですから。どれだけ映画に詳しかろうが、音楽を聞きまくっていようが、24時間365日それだけやってる人に敵うわけがない。大事なのは
「世間一般の感覚」を持ち続ける
ということ。つまらないCMはスルーする、中吊りより週刊誌の見出しやスマホに夢中になる、そのシビアな感覚で案を選別すればいいんです。要は、家で寝転がってTVを眺めるときのノリで選ぶ。ただそれだけ。え?そんなの簡単じゃないか?とんでもない。不思議なことに、ほとんどの人はいざ制作サイドに立つと
「自社の広告はみんな見てくれるはず」
「商品の良さをていねいに説明すればわかってくれるはず」と思ってしまうのです。
広告はマス媒体を使った、良く言えば「営業活動」、悪く言えば「押し売り」の、送り手に極めて不利なコミュニケーションです。長い年月と多額のお金を使って開発した新製品ですから、自慢したくなる気持ちはよくわかります。しかし「武士の商法」の例えにもあるように、威張っている人からは誰も物を買いません。にもかかわらず、冒頭からいきなり商品説明に入る。都合のいい設定で都合のいい自慢話を展開する。細かい文字で難しい説明をぎゅうぎゅうに詰め込む。お客さまとか地球のためとか、綺麗事をウソ臭い笑顔で話す。一流の営業マンなら絶対やらないことが、なぜか広告では平気で行われています。
そうなってしまう理由はいくつもありますが、最も多いのが「社内調整」です。社長がこのタレントを知らない。副社長が商品の細かい説明をしたがっている。営業本部からもっと値段を大きくするよう言われた…などなどなどなど。消費者にアピールするはずのものが、いつの間にか社内にアピールするためのものになっている。広告は投資ですから、かけたお金以上の利益を広告主にもたらしたい。そう思って我々制作者は消費者にとってわかりやすく面白い、話題になりそうなキャンペーンを提案します。しかし広告をわざわざ無視されるものにしているのは、実は広告主自身だったりするのです。
せっかく作るんだからみんなが満足するものを作りたい。15秒という短い時間の中でできるだけたくさんアピールしたい。そう思うのもわからなくは、ない。でも広告は一度世に出れば100%消費者のもの。社長が喜んでも消費者が喜んでくれなければ意味がない。 大事なことは、正しいかより記憶に残るか。社内的にどんなに正しくても、お茶の間に無視され覚えてもらえなければ、それは出してないのと同じこと。何千万何億という広告費をドブに捨てないためにも、宣伝部の皆さんが気にするべきは「社長が喜んでくれるか」より「自分の家族が面白がってくれるか」なのです。ところがこの当たり前の話がプレゼンではほとんど通りません。
「イヤー、そうは言ってもなかなかね。言ってることはわかるんだけどさ」
なんて言われてしまう。でもこの話が通じるかどうかが「広告を出すプロ」とそうでない宣伝部の分かれ目になると僕は思います。
※ 本コラムの内容は全て個人的な発言であり、所属する組織や団体とは一切関係ありません。むしろ早く関係して発言できる身分になりたいものです。
佐藤理人(さとうみちひと)
電通 第4CRP局 コピーライター。
マーケティング、営業を経て、2006年より現職。
東京コピーライターズクラブ会員。
受賞歴:TCC新人賞、ACC銅賞など。
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