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アラフォーのヘッポコピーライターが自らの失敗談で綴る、自戒と猛省の広告コラム
  • 音楽、この難しきもの(後編)
  • アラフォーのヘッポコピーライターが自らの失敗談で綴る、自戒と猛省の広告コラム。

  • 第19回 <音楽、この難しきもの(後編)>
  • (前編からの続き)

    その後も僕は「アルマゲドン」や「ノッティングヒルの恋人」など、ヒット映画の主題歌を中心に20曲近く紹介し続けました。しかしCDから返ってくる答えはどれも、

     知らん!知らん!知らん!

    ばかり。終いには、

     あのさあ…そんな若いヤツらだけが知ってる曲じゃなくて!
     もっとみんなが知ってるビッグな曲持ってこいよ!

    と怒られる始末。…てゆうか曲知らなすぎだろ…こうなったら「イマジン」かけたろか!結局、何の曲に決まったかというと…、

     ベン・E・キングの「スタンドバイミー」

    ガクーッ!ぜんぜん新しくねー!1961年の曲って、むしろ時代に逆行してんじゃん!あんなに色々探したのなんだったの…?コールドプレイも知らずに音楽選ぶなー!(怒)

    これは僕個人の、しかも洋楽(というくくりもどうかと思いますが)限定の感想ですが、今の40〜50代は1980年代までの音楽についてはかなり詳しいのに、90年以降になるとぜんぜんわからない人が多いようです。まるでパタッと音楽を聴くのを止めてしまったみたいに。

    恐らく80年代まではロックやポップスなどメロディー重視の音楽が主流だったのに対して、90年代以降はテクノ・ハウス・ヒップホップなどリズム主体の音楽が台頭してきたことが大きく影響しているのではないでしょうか。ステージを向いてみんなで大合唱するための音楽から、フロアで好きな方を向いて踊るための音楽へ。情緒より機能。その傾向は最近のプロモーションビデオを見るとよくわかります。筋骨隆々とした美男美女が集団で踊るビデオのなんと多いことか。

  • 鼻歌で歌いにくい曲はヒットしづらい。社会人になった彼らは仕事の忙しさに伴って、いつしか音楽から遠ざかっていったのかもしれません。そして今、このiPod全盛の時代、音楽は超個人的趣味になりました。映画はまだ「いちばん好きなのは何?」と気軽に聞けますが、音楽は好みが細分化しすぎて、下手に聞こうものなら皆目わからない曲を言われて「ああ…あれね…」と微妙な反応を返すことになりかねない。相手にも無難な答えを要求して気を遣わせてしまうという、いわゆる「誰得?」の状況になりがちです。

    とある先輩で、同僚の派遣社員の女性2人を1時間半もランチに連れ出し、その内の1時間29分間にわたってマニアックな音楽について一方的に喋りまくった挙句、きっちりワリカンにした猛者がいますが、そういう人は極めて稀なケースです。

  • しかし現在、企業の宣伝部長の職についているのは正にその40〜50代。CMソングの提案に行ってイマドキの曲を聴かせても、冒頭のCDのように、

     知らん!知らん!知らん!

    という反応になることはほぼ確実。そこで80sの出番です。かけると突然態度が一変。うんうん!やっぱこれだね!キミぃ、なかなかわかってるじゃないか!となるわけです。

    音楽に限らず、自分が知らないモノは判断しにくい。「イマドキの20代の間で大人気でして」なんて説明されればされるほど、時代に取り残されているようで癪にさわる。そこへ自分の青春時代の曲がかかる。そりゃあうれしいに決まってます。思い出がフラッシュバックする分、当時より2割増くらいでよく聴こえるでしょう。俺のセンスはまだまだ十分通用する、そんな自負も感じるかもしれません。

    どんなにターゲットに流行っていようと、選択権はクライアントにあります。音楽(タレントもそうですが)のプレゼンにおいて、「相手が知っていること」は必須の条件になりつつあります。そう考えると、最近のCMソングの多くが80年代の曲ばかりなのも頷ける気がしませんか?

    僕自身10代を丸々過ごしたこともあり、80年代の音楽はすごく好きです。思い入れもあります。でもだからこそ、そんな現状が少し疑問です。せっかくの新発売なのに、なんでわざわざ昔の曲!?それで登場感や先進感が出るの!?と。

    音楽はCMにとってとても重要なアイデアのひとつ。なぜその曲なのか。歌詞が広告のメッセージになっている場合もあるし、古い曲を現代風にアレンジして新登場感を出す場合もある。何よりCM全体のトーンは音楽で決まる。誰もが好きなものだからこそ、単純な好き嫌いで決めちゃいけないと思うんです。

    かく言う僕ももう完全なオッサンですが、「昔は良かったオヤジ」に陥らないための予防策として、チームに一人は必ず20代の若手を入れるようにしています。音楽やタレント選定などの「旬」が求められるときはその人の意見を尊重する。ベテランの「経験」と若手の「感覚」との間にいい化学反応を起こすことができれば、広告だってどうにか「みんな」に届くものになるんじゃないか。そう信じるしかないのです。「半沢直樹」にも「あまちゃん」にも取り残された身としては。

    ※ 本コラムの内容は全て個人的な発言であり、所属する組織や団体とは一切関係ありません。むしろ早く関係して発言できる身分になりたいものです。

  • 佐藤理人(さとうみちひと)

    電通 第4CRP局 コピーライター。

    マーケティング、営業を経て、2006年より現職。

    東京コピーライターズクラブ会員。

    受賞歴:TCC新人賞、ACC銅賞など。

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