- 拝啓 矢口真理様
アラフォーのヘッポコピーライターが自らの失敗談で綴る、自戒と猛省の広告コラム。
- 第22回 <拝啓 矢口真理様>
はじめまして。突然このような手紙を出す無礼をお許しください。TVで貴女のお顔を拝見しなくなってもうずいぶん経ちます。最近はいかがお過ごしでしょうか。突然の大雪で風邪などひいておられませんか。今日、こうして筆をとったのは他でもありません。微力ながら貴女に心ばかりのエールを送らせて頂きたいのです。
あの「出来事」が報じられたとき、私はTVの前で「カッコいい!」と快哉を叫びました。女性の時代もここまで来たか。男がしてきた女遊びをついに女が堂々とするようになった。肉食女子、改め肉欲女子。まさにリアル「セックス・アンド・ザ・シティ」。あのドラマで描かれた通り、食欲も性欲も人間が持つ極めて自然な欲求です。「自分へのごほうび」にスイーツの食べ放題に行くのなら、甘いマスクの若い男を食べ放題したっていいじゃないか。デザートが別腹なら、浮気は別股。結婚しても「女として現役」でありたいと願い、男に依存しない「自立した女」を目指す女性誌から見れば、結婚というしがらみに縛られず、欲望に正直に恋愛を謳歌する貴女はまさに理想のミューズ。新時代のアイコン。マスコミや各界のフェミニストが諸手を挙げて絶賛すること間違いなし。
誕生!ヌーベルバーグ女子!
そんな見出しさえ目に浮かんだほどです。これからは日本のタレントもハリウッド女優並に自分の恋愛を堂々と語れる日がくるに違いない。よかったなあ。私は本気でそう思いました。
が、しかし。その後の世間の反応はご存じの通り。でも私はどうしてもわからないのです。なぜみんなそれほどまでに怒るのか。何か甚大な被害でも被ったというのでしょうか。週刊誌の三文記事を鵜呑みにするなら、貴女の行動は男なら武勇伝として酒席の笑い話で盛り上がる「すべらない話」。別に法律を犯しているわけではありませんし、そもそも人が誰とデートしようが人の勝手。もちろん芸能人である貴女の場合は、広告スポンサーの方々に多大なご迷惑をおかけしているという問題がありますが、それとて当事者間で解決すべき話です。それをきっかけに逆に商品に注目が集まる可能性だってないとは言えない。少なくとも無関係な第三者にあそこまで言いたい放題責められ叩かれる筋合いはないと思うのです。
ブレイクした途端、売れない時代を支えてくれた糟糠の妻を捨てグラビアアイドルに走る男の歌は支持しても、一人前の自立した女がちょっとつまみ食いしただけで袋叩きにする。世の女性は自由が欲しいのか、それとも自由を奪いたいのか。その境目は一体どこにあるのでしょう。むしろ姦通の罪で石打ちの刑に処されるような国に生まれなかった幸運に感謝し、自由に愛を交わせる歓びを謳歌すべきではないのか。なぜよってたかって誰かの、しかも無関係な赤の他人の行動を断罪したがるのか、私には不可解でなりません。叩いてもいいとされたものはいくら罵ってもいいなんてルールが一体いつからできたのか。みんなそんなに聖人君子のような暮らしをしてるとでも言うのでしょうか。
しかしご安心ください。所詮は女子アナのパンチラを執拗に狙ったり、日がな一日女優のマンションに張り込んでるような輩と、それを喜んで覗き見る下世話な人々の意見です。傷つく価値もありません。正義の味方を気取って貴女をこきおろしていたあの方も、ご自身の結婚には見事に失敗されているじゃありませんか。完璧な人もいなければ、何が完璧かさえわからない世の中です。「絶対」なんてどこにもないし、善悪の基準も時代や立場で大きく変わる。貴女の行動だって、少し時代を先取りしすぎた可能性だってあるのです。20年後、いや10年後にもしも妻の浮気がブームになったら、その時は堂々と胸を張って言えばいいのです。それ、私が最初です、と。
ただでさえ短い、一度きりの人生。まだ31歳で、美しく健康な貴女が家に閉じこもりっぱなしなんてもったいない。過去は変えられないけれど、生きてるかぎり思い出は変えられる。持ち前の明るさと機転のよさを生かして一日も早くTVに戻って来ませんか。そうすればネットに悪口を書きこむほど暇じゃない大勢の皆さんが、きっと拍手で迎えてくれると思うのです。
※ 本コラムの内容は全て個人的な発言であり、所属する組織や団体とは一切関係ありません。むしろ早く関係して発言できる身分になりたいものです。
佐藤理人(さとうみちひと)
電通 第4CRP局 コピーライター。
マーケティング、営業を経て、2006年より現職。
東京コピーライターズクラブ会員。
受賞歴:TCC新人賞、ACC銅賞など。
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