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アラフォーのヘッポコピーライターが自らの失敗談で綴る、自戒と猛省の広告コラム
  • 佐村河内 & ASKA
  • アラフォーのヘッポコピーライターが自らの失敗談で綴る、自戒と猛省の広告コラム。

  • 第25回<佐村河内 & ASKA>
  • 1.ミュージシャンと曲はどこまで不可分か
  • 隣の席のアートディレクターがフランスへロケに行った。その隣のCMプランナーはオーストラリアへ行った。周りのコピーライターも金沢や軽井沢など仕事であちこち行っている。どこへも行ってないのは相変わらずボクだけだ。しかし一歩も外に出なくても人はトリップできる。時として戻って来られないほど遥か遠くへ。そうである。ASKA氏である。以前、メジャーデビューを果たした知人がこんなことを言っていた。

      自分より若いヤツらに
      いつ追い抜かれるかと思うと夜も寝られない。

    ボクのようなペーペーには伺い知れない世界だが、どれほど大御所になってもきっとこれで安泰なんてことはないのだろう。むしろ人生のステージが上がるほど背負う荷物もケタ違いになる。ただでさえ浮き沈みが激しい上、売上もガタ落ちの音楽業界。ASKA氏も人知れず大きな悩みを抱えていたのかもしれない。だからといってもちろん違法なクスリに「SAY YES」し「YAH YAH YAH」しちゃうことは許されない。そこでふと思った。ミュージシャンの人間性と作品はどこまで不可分なんだろう。最近、とある企業の新入社員研修で講師がこんな質問をしたそうだ。

      世界中で愛されている名曲を作ったミュージシャンが、
      その曲を作ったとき麻薬をやっていたことがわかりました。
      それでもその曲は「名曲」と呼べるでしょうか?

    結果、「呼べる」と答えたのはたった1人だったとか。何をもって「名曲」かは人それぞれ。この問題に正解はない。しかし「世界中で愛されている」のだから、「人々に感動や勇気などプラスの感情を与え続けている曲」であることは間違いない。そこでもうひとつの疑問が浮かんだ。

      もしそれが「名曲」とは呼べなくなるのなら、
      曲を聴いた人がそれまでに流した涙や、
      思わず立った鳥肌はニセモノなのだろうか?

  • 2.鳥肌にウソはつけない
  • そうである。佐村河内氏である。彼の、というか新垣氏の曲が人々にもたらした感動はニセモノなのだろうか。あの曲に勇気をもらった人々、絶賛した音楽評論家、試合で使用したフィギュアスケーターは皆ダマされたのだろうか。僕はそうではないと思う。新垣氏の曲が人々に与えた感動は、紛れもなくホンモノだ。

    広告の仕事をしてきてつくづく思う。モノが良いだけで売れるほど世の中甘くはないが、モノが良くなければ売れ続けることは絶対にない。広告が話題になっていいスタートダッシュを切れることは確かにある。でも商品がダメなら、勢いがいいのは最初だけですぐに息切れする。悪評はすぐにネットで広がる時代。しかもこの不況。本当にいいモノでなければ、消費者は財布のひもを緩めない。逆に言えば、ロングセラーには長く売れ続けるだけの本物の価値があるのだ。

    新垣氏の曲も、初めは佐村河内氏の聴覚障害が注目されるきっかけだったかもしれない。しかしプロとしてお金をもらう以上、どんなハンデがあろうと最終的に問われるのは曲自体のクオリティ。スティービー・ワンダーしかり、レイ・チャールズしかり。彼らの曲のとてつもない素晴らしさの前に、視覚障害はその意味を失う。新垣氏のつくる曲も、本当によかったからこそ、数々の映画やゲームに採用されたり、大事な試合で使われたのだと思う。

  • 3.責められるべきは人
  • 前述の「名曲と呼べるか否か」の質問。ボクは断然「呼べる」派です。ミュージシャンはいい曲をかくのが仕事。「愛がすべてだ」と歌う金の亡者がいたって構わない。酒とクスリでボロボロで、家では妻子にDV三昧だろうと、作る曲が素晴らしければそれは否定すべきではないと思う。罪は人にあるのであって、音にはないからだ。

    ASKA氏のCDは回収された。新垣氏の作品は権利の帰属が明確になるまで演奏も放送もできない。エラそうなことを言うようだが、両者とも素晴らしい曲を作れるという、常人にはない才能に恵まれたのだ。ぜひ再起して、いつかもっといい曲を届けて欲しい。大体、麻薬で逮捕されたミュージシャンのCDを回収するなら、ビートルズもストーンズもエアロスミスも尾崎豊も長渕剛も井上陽水も岡村ちゃんもマッキーも(キリがないので以下略)ぜんぶ回収すべきじゃないの?どうせほとぼりが冷めた頃にまたシレッと棚に並べるんだから、最初からそんなことしなけりゃいいのに。とりあえずクレームが来たら困るからという弱っちい事なかれ主義はクレーマーをつけあがらせるだけ。それよりせっかく注目されてCDが売れるチャンスなんだから思い切り盛大に売ればいいのだ。そして売上金をすべて麻薬中毒患者の医療機関や社会復帰施設に寄付した方が、ずっと世の中に役立つってものじゃないだろうか。

    佐村河内氏がしたことは金と名誉のために障害者を騙ったゲスの極みだが、「ああ、少なくとも耳は聴こえてるんだ。よかったなあ」とも思った。北の将軍様もかくやの、冗談みたいなプロフィールを読めば腹を立てるのもバカらしい。それにもし彼の話が本当なら、一度失われた聴力が回復する可能性があるという点において、彼も人々に希望を与えたと言える。とりあえず彼は近いうちに「24時間テレビ」でチャリティーマラソンに挑戦すればいいと思う。沿道の観客やTVの前の視聴者にきっとハッキリ言ってくれるだろう。「みなさまのご声援、確かに聞こえております!」と。

    ※ 本コラムの内容は全て個人的な発言であり、所属する組織や団体とは一切関係ありません。むしろ早く関係して発言できる身分になりたいものです。

  • 佐藤理人(さとうみちひと)

    電通 第4CRP局 コピーライター。

    マーケティング、営業を経て、2006年より現職。

    東京コピーライターズクラブ会員。

    受賞歴:TCC新人賞、ACC銅賞など。

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